札幌地方裁判所が同性婚を認めないのは「違憲」とする画期的な判断を示したのは記憶に新しい。多様なジェンダーに対する社会の許容度がひと昔前とは比べものにならないほど上がっている。さらに包摂的な社会にしていくためには、次世代の教育が重要だ。子どもにジェンダーの固定観念を持たせないためには何が必要か、ユタ大学社会学非常勤教授のカイル・マイヤーズが解説する。


20世紀、特に米国では男女平等に向けた動きが大きく前進した。女性は選挙権を取得し、男性は家事や子育てに関わるようになり、多様なジェンダーのあり方を許容する素地が、個人レベルでも組織レベルでも高まった*1。とはいえ、格差は未だに根強く存在する。米国議会で女性が占める議席は25%にすぎず(日本は9.9%*2)、父親の有給の育児休暇を義務づけている州はまだ少数派だ。トランスジェンダーの人たちの差別にあたる法案を提出している州議会も少なくない*3。

*1 10人に4人が、フォームの書式を「男女」以外の選択肢も設けるべきと回答した。
参照:About four-in-ten U.S. adults say forms should offer more than two gender options

*2 参照:世界各国議会の女性議員割合は過去最多25.5% 日本は1割未満

*3 19の州がトランスジェンダーの選手が女子の高校および大学スポーツ参加を禁止する法案を提出。アイダホ州では通過しているが、まだ発効はされていない(2020年12月時点)
参照:How high school sports became the latest battleground over transgender rights



ジェンダーの平等に関してはまだまだやるべきことがある、というのがアメリカ人の多数派の意見だ。筆者はクィア(性自認が性別の枠組みにあてはまらない)の社会学者で、幼稚園児の子どもがいる。子どもの頃にこそ性差別的な考えを打ち砕く重要性について研究しており、2020年9月にはジェンダーにフォーカスした子育て論の本*4を出した。今回は、親や養育者が子どもたちの生活の中にある性のステレオタイプに立ち向かうための5つの方法を紹介したい。

*4『Raising Them: Our Adventure in Gender Creative Parenting』(未邦訳)

1. 子どもがLGBTQI+である可能性を受け入れる

性自認や性的指向は一人ひとり異なる*5。しかし普通は、医療機関や親たちが、新生児の身体的特徴に基づいて性別を割り当て、男か女かのどちらかとして社会に適応させていく。例えば、女性の外部生殖器を持つ子どもには女性が割り当てられて女の子として育てられ、陰茎を持つ子どもには男性が割り当てられて男の子として育てられるのである。

*5 https://www.nytimes.com/interactive/2019/06/28/us/pride-identity.html

多くの子どもは「シスジェンダー」で、性自認が出生時に割り当てられた性(生物学的性別)およびジェンダー(社会的性別)と一致している。だが米国では、それが一致しない「トランスジェンダー」や、男or女の枠組みにあてはまらない「ノンバイナリー」を自認する若者が増えている。米国で生まれた新生児の1,500〜2,000人に1人は「インターセックス」、つまり、性染色体や生殖の解剖学的構造が一般的に男 or 女で分類されるものとは異なる可能性がある人と推定されている。

Aline DasselによるPixabayからの画像
Aline Dassel/Pixabay

さらに、全国の高校生の11%以上が、自分はレズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、または性的区別がわからないと答えている。LGBTQI+の若者たちは、中高年世代よりも早い段階で家族にカミングアウトする傾向にある。家族に受け入れられることが、LGBTQI+の若者たちの心身の健康にプラスとなり、うつ病や薬物乱用、自殺の防止につながると示した調査もある*6。

*6 参照:Family Acceptance in Adolescence and the Health of LGBT Young Adults

2. 性別に基づくマーケティングに気を付ける

多様なジェンダーのあり方が許容されつつある一方で、子どもの玩具や衣服のマーケティングに関しては実は性別の区別化が以前より進んでいる*7。例えば、組み立て玩具やラジコンカーは男の子向け、人形やお化粧グッズ系は女の子向けとして販売されている。子ども服店では、原色系や、トラックやスポーツ系の絵がプリントされた服が片側に並べられ、パステルカラーやお花が描かれた服、キラキラした服が別の一角に並べられている。利益追求のために、ジェンダーの型にはまったマーケティングが強まっていることを非難する人も多い。

VictoriaBorodinovaPixabayからの画像
Photo:Victoria Borodinova/Pixabay

*7 玩具のマーケティングにおいては、男の子用はヒーロー系/女の子用はプリンセス系といったカテゴライズがウェブサイトに明示されるのがあたりまえなど、ジェンダーの区別化が50年前よりも明確になっているとの研究者の指摘がある。

参照:Toys Are More Divided by Gender Now Than They Were 50 Years Ago

子どもたちは、生きていく上で大切な社会的、感情的、身体的スキルを、日々の遊びを通じて学んでいく。さまざまな玩具で遊びながら、空間認識や共感といったスキルを身につけ、伸ばしていく。性別のステレオタイプに基づくマーケティングは、子どもが触れるおもちゃや体験の種類を制限してしまっているのではないだろうか。

親たちができるのは、店舗のいろんなコーナーに並んでいる商品を子どもたちに見せる機会を持ち、性別で分けられたマーケティングの境界は恣意的なもので、それは軽々と越えられるものであると示すことだろう。子どもたちに店の中を自由に移動させ、自分で欲しいものを選ばせるとよいだろう。 「逆ステレオタイプ化」(ステレオタイプを明示的に逆転させること)も非常に有効である。例えば、「男の子は人形が好きだよね」と言ってみたり、「さすがお父さんは赤ちゃんの世話が上手だね」などと言ってみるなど。

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大人たちはおもちゃ売り場や衣服店をぐるっとまわり、性別の基準は恣意的なもので、超えてもよいのだと教えてあげるとよい。Nikki Kahn/The Washington Post via Getty Images

3. 家庭で性別のステレオタイプを打ち砕く

子どもたちは親や養育者の行動を見ることで、それぞれの性の役割を学んでいく。そこで大人たちができることは、男か女かで考える性差別的なステレオタイプーーフルタイムの仕事をしていても女性が主に家事をやるべきといった考えなどーーに挑む言動を取ることだ。例えば、両親が育児と家事をどう分担しているかは、子どもにとってはいろんな意味で「見本」となる。

行動は言葉よりも雄弁である。親が口で言うだけでなく、実際に公正かつ公平に家事を分担していれば、子どもたちは従来のジェンダー規範の考え方を拒否する可能性が高まるだろう*8。

*8 参照:Parents’ Gender Ideology and Gendered Behavior as Predictors of Children’s Gender-Role Attitudes: A Longitudinal Exploration

子どもに任せるお手伝いもいろいろ変えてあげると、性別に縛られない家事の仕方を学べるだろう。男の子に皿洗いを、女の子にゴミ出しを任せるもよしである。お小遣いも男の子と女の子で公平にすること。でないと、“男女の賃金格差”が家庭で始まりかねない。女の子は家事をする回数が多いのにお小遣いは少ない傾向があることを示した調査もある*9。

LaterJay PhotographyによるPixabayからの画像
Photo:LaterJay Photography/Pixabay

*9 参照:There's a Gender Pay Gap in Kids' Allowances and Parents Are To Blame

4. ジェンダー・ニュートラル(性的に中立)な言葉を使う

性別を限定しない代名詞などを使うことで、性差による偏見を減らし、女性やLGBTQIの人々に対する肯定感を高めることができる。また、教育機関などが配布プリントなどに「パパ、ママへ」と書くのではなく、「おうちの人へ」「保護者へ」と書くなども親のかたちの多様性を認める社会への偏見をなくすひとつの方法となるだろう。

【オンライン編集部追記】
性別を限定しない「ジェンダー・ニュートラル」な言葉も増えてきている。看護婦ではなく看護師、スチュワーデスではなくフライトアテンダントが今ではあたりまえとなっているように、今後は性別を特定した代名詞の使い方にも意識を払うべきと著者は提言している。その観点でいくと、男の子には「くん」、女の子には「ちゃん」があたりまえなのも、今後は配慮が必要となっていくかもしれない。

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子どもたちが読む本に頻出する「彼」という代名詞を大人たちが他に置き換えることもできる。
Irfan Khan/Los Angeles Times via Getty Images

絵本などで、男の子の登場人物が圧倒的に多い場合、大人が「彼」という代名詞を「この人」や「みんな」に変えることも一つのやり方かもしれない。また、多様性のあるインクルーシブな社会を描いた本や番組を大人が積極的に選んであげる、物語の中にステレオタイプが登場したら、それをきちんと指摘してあげるのもよいだろう。

5. さまざまな性の子どもと遊ぶよう促す

性差別は社会構造に深く根ざしているため、性差別的な態度を(無意識に)取ってしまいがちだ。これまであたりまえにされてきたのが、子どもたちを男女別に分類すること。「男の子はこちらに、女の子はあちらに並びなさい」などと何気なく言われることもあれば、男子校・女子校などとはっきり分けられるケースも含め、いろいろなかたちがある。自分とは違う性の子どもと仲良くしている子どもは、相手の性により肯定的な態度を取り、性差別的なふるまいを取りにくいことが調査から分かっている*10。

Esther MerbtによるPixabayからの画像
Photo:Esther Merbt/Pixabay

*10 参照:Enjoying Each Other’s Company: Gaining Other-Gender Friendships Promotes Positive Gender Attitudes Among Ethnically Diverse Children

親や教育者は、子どもが多様な性の子どもたちと交流する機会をつくってあげるとよいだろう。例えば、性別で子どもを分けるのを止め、いろんな子どもたちが参加できるスポーツチームや部活動を選択する、多様な性の子どもが参加する誕生日会を開くなど。そうしたアクティビティを通じて、子どもたちは自分たちの類似点や相違点を認識し、「女の子」「男の子」という枠に当てはまらない仲間を受け入れられる心の準備ができていくだろう。

著者
Kyl Myers
Adjunct Assistant Professor of Sociology, University of Utah
https://www.kylmyers.com

※ 本記事は『The Conversation』掲載記事(2021年1月22日)を著者の承諾のもとに翻訳・転載しています。

The Conversation

サムネイル:Aline DasselによるPixabayからの画像


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