多くの子どもたちは生まれつき、平等、公平、正義の感覚を持ち、それらが自分たちの日々の生活にどう結びついているかを知っている。正しくないことが起きていると感じれば、意見する勇気のある子どもも数多くいる。しかしあいにく、全員がそうとは限らない。個人の権利を踏みにじられ、人目につかないところで虐待されている子どもたちとなるとなおさらである 。エッジ・ヒル大学で子どもの権利について教鞭をとるキャロル・ロビンソン教授の見解を紹介する。

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Charlein Gracia/Unsplash

英国の公的機関「子どもコミッショナー*1」が発表した報告書「子どもの脆弱性の傾向」 (2019年7月)によると、英国内には家庭環境が不安定なために虐待にあうリスクがある子どもは230万人に及ぶと推定されている。 この数字には、養護施設で暮らす子どもたち、これまでに危害を受けたことがあると分かっている子どもたち、虐待が起きる可能性が高い家庭の子どもたちが含まれる。

*1 Children’s Commissioner
  https://www.childrenscommissioner.gov.uk


こうした子どものうち約82万9千人は、社会福祉や子どものメンタルサポートの提供側に存在を知られていないため、何のケアも受けられていない点が大きな懸念点だ。そのうえ、新型コロナウイルスの感染拡大以降、家庭内暴力(DV)が増加している*2。そのため、家の中で暴力的言動を目にする、または実際に虐待を受ける子どもがいっそう増えていると考えられる。

*2 参照:Briefing: Children, domestic abuse and coronavirus April 2020

子どもたちは身の危険を感じたときにどうやって助けを求めればよいかを知っておく必要がある。「権利」というものが、自分自身や日々の暮らしとどうあてはめて考えればよいのかを理解できるようになるべきだ。しかし現状では、この点に関して学校で提供されているものは十分とは言えない。

子どもの権利・サポートの受け方を学ぶだけでなく、その先へ

「子どもの権利」とは人権の一部で、世界中のすべての子どもが受けられるべきものと定める「児童の権利に関する条約」は、国際条約のなかでも最も多くの国に採択されているものの一つだ。

英国の人権教育は、初等教育では「人間関係(Relationships Education)」、中等教育では「人間関係と性教育(Relationships and Sex Education)」の科目に含まれている。 また初等・中等教育ともに、「健康(Health Education)」と「市民権(Citizenship Education)」の科目でも人権を扱うこととなっている。

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iStockphoto

初等教育の人権教育では、人間関係によって不幸、不安、不快感を感じる場合にそのことに気づく方法を学び、気がかりな事柄や虐待の報告の仕方、どこで支援を受けられるのかも学ぶ。そして中等教育では、人間関係の危険性の気づき方や、何がセクハラ行為や性的暴力にあたるのか、なぜそうしたことが問題となるのかといった問題について学ぶ。

この他にも、「平等」や「インターネット上での権利」に関する法的権利や義務について、自分や他者が困っているときの報告の仕方や助言の受け方について学ぶ。司法制度や法律の役割を学ぶ中で、英国民が享受できている人権についても考える。

これらの科目はどちらかというと、人権に関する「事実に基づいた情報」と「サポートの受け方」に焦点が置かれている。子どもの権利に特化すること、そしてそれらが日々の状況にどう当てはまるるかを教える視点が欠けていると筆者は考える。子どもが自分たちの権利がないがしろにされていると感じる状況で、不安を声に出せるようになるには、まだまだやれることがある。

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人権教育に力を入れている学校もあるが、まだまだできることはある。
Monkey Business Images/Shutterstock

権利を尊重する学校に賞を授与

ユニセフ英国委員会では2004年に「権利を尊重する学校賞 (Rights Respecting Schools Award)」*3を設け、取り組みを進めている。受賞を目指す各学校は、「子どもの権利条約」を基に権利について、そして自分たちの生活にどうあてはまるのかを教える。すでに約5,000校がこの取り組みを進めており、約160万人の子どもが自分の権利について学んだことになる。

*3 参照:ABOUT THE RIGHTS RESPECTING SCHOOLS AWARD

取り組みを進めている学校の子どもたちは、自分の人権がないがしろにされていると感じるときに、声に出す自信がより育まれている、子どもたちが自分たちで予防措置を取るなどの動きも見られる、との研究も出てきている。


その効果について小学校の教員は、「権利についての話をすると、必ず打ち明け話をしてくる子どもたちが何人かいるんです。思い切って 誰かに話してみようと思う、この賞への取り組みがなかったら起きなかったことだと思います」と語る。

とはいえ、すべての学校がこのプログラムに参加しているわけではない。コロナ禍のロックダウン生活によって、多くの子どもが大人と一緒に過ごす時間が長くなり、子どもが不安を抱いてしまう家庭環境もあるだろう。今後は、子どもの権利に関するより実践的な教育がすべての学校で取り入れられることを期待したい。

国連「人権教育のための世界プログラム」でも強調されているとおり、子どもの権利についての知識や情報を伝えるだけでなく、子どもたちが自分たちの権利を日々の暮らしに当てはめ、実践できるように教育する必要がある。つまり、必要に応じて、自分たちの権利を守り、向上させていくためにはどう行動すればよいかを教えるということだ。

著者
Carol Robinson
Professor of Children's Rights, Edge Hill University

※ 本記事は『The Conversation』掲載記事(2020年6月3日)を著者の承諾のもとに翻訳・転載し2021/04/13に公開したものをリライトしています。

The Conversation
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