ケニアのマサイマラ保護区(※1)で小型飛行機を自ら操縦し、ゾウ密猟対策活動や野生動物の保護に奔走する滝田明日香さん。象牙・銃器探知犬のゲージが天国に旅立った後(※2)、新しい探知犬を育てあげることにした滝田さんからレポートが届いた。















※1 ケニア南西部の国立保護区。タンザニア側のセレンゲティ国立公園と生態系を一にする 
※2 前回の連載で掲載(20年11月1日発売、394号「象牙・銃器探知犬のゲージ、本当にありがとうー7年間、マサイマラの野生動物を守った」)。



7年間マサイマラを守り続けて引退寸前のゲージ 

コロナで海外から子犬輸入できず
ケニア国内で探せるか

ベテラン探知犬ゲージの引退後、私たちには彼の仕事を引き継ぐ探知犬を育て上げる任務が生まれた。ゲージの引退が半年以上早くなってしまったので、彼の後任の子犬を探すためにナイロビ中を走り回ること数週間、やっとのことでスプリンガー・スパニエル種(※3)の子犬の「ブーム」に出合うことができた。

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子犬の「ブーム」

※3 明るく活発で、注意力と辛抱強さがある犬。

今までは、遠い米国やオランダから追跡犬や探知犬の子犬を輸入していた。ケニアでは労働犬のブリーダー(※4)が少なく、またクオリティの良くないブリーダーがいることから、国内で子犬を探すことは躊躇していたのだ。しかし、コロナの影響で海外から子犬を輸入することが物理的に困難になった。さらに活動資金が大幅に激減したことから高値の海外輸入が不可能になってしまい、ケニア内で探す以外の選択がなくなってしまったのである。他の団体がケニアで労働犬の子犬を探す事例もあまりなく、一体どこから探索を始めてよいのかわからない状態で、探し出せるまでの困難な道のりを予感した。

※4 動物を計画的に繁殖させ、流通させる職業。

結局、海外保全団体のコネクションではなく、私のナイロビ獣医大学時代のコネクションを使い国内で探すことになった。そして、やっとたどり着いたのはケニア軍にも探知犬を供給したことがあるケニア人のブリーダーだった。かなりの田舎に住んでいるブリーダーで、ナイロビに着いてから、彼の犬がいる農家の真ん中の家までたどり着くのも、道なき道を通るなどずいぶん大変だった。

しかし、そこで私を待っていたのは、驚くことに生後2ヵ月からきちんとした訓練を受けた素晴らしいサーチ(探知)能力を秘めた子犬たちだった。


子犬6匹の中から雄の子犬「ブーム」選ぶ

スプリンガー・スパニエル種の子犬は合計6匹いた。生後4ヵ月になったばかりで、どの子犬もエネルギーいっぱいだった。ボールを探す能力が優れていて、とにかくひっきりなしに走り回って元気いっぱい。その日は1日かけて6匹すべての子犬の探知能力テストと、動物や鳥などに対してどんな反応をするかなどのテストを行った。

6匹のうち2匹はエネルギーがあるが、サーチに対する執念が労働犬と呼べるほどはなく、私から見たらペットにちょっと毛が生えたレベルで、最初のセレクションで外してもらった。後の4匹のうち2匹は、サーチはよくするのだが、それ以外の問題が目についた。1匹は小動物や鳥に興味を示しすぎて、国立公園の中での仕事には適していない。そしてもう1匹は大きな音に対して驚きすぎるのが気になった。これも公園の仕事には適していない性格の一つである。時間をかければ年齢的にまだ改善できるとは思うものの、完全に消える問題ではないのでこの2匹も外してもらうことにした。

そして、1日の最後にパフォーマンスで1番にランキングしたのは、最初に「これはケニア軍に行く予定の子犬」と説明されていた子犬だった。正直なところ「やっぱり、一番いいのは先約があったのか……」と残念な気持ちは隠せなかったが、2番目にパフォーマンスが良かった雄の子犬の「ブーム」をマサイマラに連れて帰ることにした。

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ブームとハンドラーのロバート

ブームは、前任のゲージと同じく「アフリカゾウの涙」(※5)のサポーターさんたちからの資金で購入することができた。ブリーダーに、ブームは日本からのサポートだと言うと、「マサイマラで活躍できることを祈っている」と大喜びしてくれた。ブームはその後、ハンドラー(※6)のアントニーとロバートによる数ヵ月のマサイマラでの訓練を終えて、オロロゲートから勤務を開始している。

※5 アフリカゾウの保護のため、密猟対策に力を入れ活動しているNPO。
※6 犬の調教師。

追跡犬ユニットでもベテランのセロが満9歳で引退

古株の引退は探知犬ユニットだけではなく、追跡犬ユニットでもベテランのセロが満9歳にて引退した。セロは追跡犬ユニットで初めて産まれた子犬で、マサイマラのハンドラーたちが自分たちで初めて生後8週間から訓練した犬である。

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若い時のセロとハンドラーのキプロノ

セロが子犬の時にずっと訓練を担当していたハンドラーのマセトはハンドラーを引退してしまったが、セロのことをどの犬よりも気に入っていた。背が高く身体も大きいマセトは、同じく50㎏近い巨大なセロのバカ力に負けないパワーを持って、セロを自由自在にコントロールできるハンドラーだった。セロは少し癖のある犬で、最初の1~2㎞ほどをフルパワーで全力疾走する癖があった。その後は疲れてスピードが落ちて走りやすいペースになってくれるのだが、最初の2㎞がハンドラーの勝負時なのである。

マセトはセロのパワーをスローダウンする腕力を持っていて、最初の全力疾走をうまくコントロールできていた。その反面、腕力のないハンドラーはセロの最初のスピードにひたすらついていき、セロが疲れてスピードが落ちるのを走りながら待たなくてはならなかった。

そんなパワフルだったセロも、9歳になって体力がだんだん落ちてきたことで、フィールドから引退することになった。新しい追跡犬の子犬を探さないといけなくなった矢先、偶然にもケリチョというエリアでブラッドハウンド種のメスを交配したいので雄犬を貸してもらえないかという電話がかかってきた。セロはすでに引退してしまっていたので、交配相手にはセロの5年後に産まれたモラニが選ばれた。ハンドラーとともにケリチョに向かったモラニは、どうやらうまく交配することに成功したそうだ。子犬が産まれるのは、2ヵ月後の予定。無事に産まれ、そのうちの一匹を追跡犬ユニットの新しいメンバーとして迎えることができるのを心待ちにしている。
 (文と写真 滝田明日香)



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以上、ビッグイシュー日本版404号より「滝田明日香のケニア便りvol.19」を転載。

たきた・あすか

1975年生まれ。米国の大学で動物学を学んだ後、ケニアのナイロビ大学獣医学科に編入、2005年獣医に。現在はマサイマラ国立保護区の「マラコンサーバンシー」に勤務する。追跡犬・象牙探知犬ユニットの運営など、密猟対策に力を入れている。南ア育ちの友人、山脇愛理さんとともにNPO法人「アフリカゾウの涙」を立ち上げた。  https://www.taelephants.org/


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▼滝田あすかさんの「ケニア便り」は年4回程度掲載。
本誌75号(07年7月)のインタビュー登場以来、連載「ノーンギッシュの日々」(07年9月15日号~15年8月15日号)現在「ケニア便り」(15年10月15日号~)を本誌に年数回連載しています。











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