トランプ元米大統領はかつて、気候変動問題への怒りを表明した活動家グレタ・トゥーンベリに皮肉を込めてツイートした*1。「彼女は明るく素晴らしい未来を夢見ている、とても幸せそうな女の子のようだね。清々しい!」


女子は常に笑顔であれ、と露骨に求めた発言だった。これに限らず、女子は笑顔でいること、幸せそうにふるまうことを暗に求められがちだ。「みんな、幸せな女の子が大好き(Everyone Loves a Happy Girl)*2」のTシャツを着て街に出れば、知らぬ男から「笑顔はどうした!」とやじを飛ばされもする。

かつてオードリー・ヘップバーンが「幸せな女の子が最も美しい女性です(Happy girls are the prettiest girls.)」と語って以来、この言葉はTシャツや文房具などによく使われている。女子たち(8〜12歳)の体験と消費文化との関連について研究している、カナダのヨーク大学コミュニケーション研究科准教授のナタリー・コルターは、こうした “幸せそう/楽しそう”でいるべきという文化的な期待には、想像以上の問題が隠されていると語る。

*1 参照:She seems very happy': Trump appears to mock Greta Thunberg's emotional speech
*2 参照:Everyone Loves a Happy GirlとプリントされたTシャツ

笑顔の強要は女性の置かれた厳しい状況を隠してしまう

女子たちにことさらに笑顔を期待することは、彼女たちから政治的要素を排除し、現状の“服従的な立場”を受け入れろというメッセージに他ならない。「幸せそう/楽しそう」を強要することが深刻な政治問題から注意を逸らせ、世界中の女子たちが直面している搾取や暴力の問題に向き合う意気をくじかせる。

iStock-532185881
eternalcreative/iStockphoto

Tシャツにプリントされているように、誰もが幸せな女子が大好きなのであれば、不満を持つ女子は好かれない存在になる。幸せでいなさい、でないと「心理的にも美的にも魅力がない」と警告しているようなものだ*3。

*3 2015年、Next社がこのメッセージが入ったTシャツを販売したところ、心の病で苦しんでいる女子たちへの影響を考えていないのかと大きな反発が起き、販売中止に追い込まれた。
参照:This Next T-shirt is making people pretty angry

「幸福が約束されているのは、現状を狂わせない無難な生き方に徹する人だ」とフェミニストの学者サラ・アーメドは書いている。彼女たちが社会的・政治的問題に本気で関心を向けようものなら、女子が幸せであるとの幻想が崩れ去ってしまう。

「幸せそう/楽しそう」を強要することの根っこには、(女性全体としてではなく)個としての楽しみに責任を持つべき、そうするように努めよとの発想が隠されている。ましてや、女性蔑視的な言動や男性支配的な構造に不満を持ち、問題に立ち向かっていこうと強く決意することなど歓迎されない。

「幸福」「楽しさ」の重視は、女性が置かれている構造的問題に真剣に目を向けることなく、ガンバレ女子!と励ますだけの “大衆的”フェミニズムに過ぎない。

いわゆる“ポストフェミニズム”(フェミニズムが目指すものの多くは達成されたため、もう権利拡大の動きはいらないとする思想)では、女性は自分の幸福と解放に責任を持つのだから、前向きに思考し、自身で変化のインスピレーションを得るべきで、集団的な意識よりも個人の行動を重視すべきと考える。現状に不満を抱くことは、この筋書きから外れることなのだ。

しかし、「幸せそう/楽しそう」を求める道徳感においては、市民の権利意識、共同体への参加意識など育ちようがない。

photo3
ワシントンD.C.での抗議活動でジョージ・フロイドの看板を手にした女子 (Obi Onyeador/Unsplash), CC BY


女子が世界的アクションを牽引する時代

世界中の女子が味わっている不公正、不運、苦痛......その責を負うべきは男性支配的な構造や制度であるのに、自分たちの責任を放置し、女子たちにばかり「幸せそう/楽しそう」な姿ばかりを要求している現状......。

photo2
2021年2月14日、バンクーバー市内での「女性たちの行進」で一緒に歩く女子たち。失踪または殺害された女性への敬意を示すもので、行進の途上、彼女たちが最後に目撃された場所で追悼する。(THE CANADIAN PRESS/Darryl Dyck)


しかし女子たちは、もはや黙って従ってはいない。トランプが使った言い回しをアレンジして素早い切り返し*4を見せたグレタは、女子たちに「幸せそうな笑顔」を押し付ける、女性蔑視的で、若者を見下す “筋書き” をひっくり返した。

*4「彼は明るく素晴らしい未来を夢見ている、とても幸せそうなおじいちゃんのようだね。清々しい!」とツイートした。

女子たちが主導する世界的ムーブメントも次々に起きている。水資源保護の活動家オータム・ペルティエマリ・コペニー、教育活動家のマララ・ユスフザイ、気候変動問題の活動家ヴァネッサ・ナカテたちが、幻想に立ち向かっている。

photo1
社会変革の世界的ムーブメントを牽引する女子たち。環境、労働、社会的な不公正で一番悪影響を被るのは彼女たちなのだ。(Shutterstock)

彼女たちは、幸せそう、楽しそうなだけではない、さまざまな感情を駆使して、社会変化を訴えている。「もっと笑顔で」と言ってくる女性蔑視的な論客たちなど意に介さず、突き進んでいってくれるだろう。

著者
Natalie Coulter
Associate Professor of Communication Studies, and Director of the Institute for Research on Digital Literacies, York University, Canada


※本記事は『The Conversation』掲載記事(2021年3月8日)を著者の承諾のもとに翻訳・転載しています。


The Conversation
ビッグイシュー・オンラインのサポーターになってくださいませんか?

ビッグイシューの活動の認知・理解を広めるためのWebメディア「ビッグイシュー・オンライン」。

上記の記事は提携している国際ストリートペーパーの記事です。もっとたくさん翻訳して皆さんにお伝えしたく、月々500円からの「オンラインサポーター」を募集しています。

ビッグイシュー・オンラインサポーターについて

あわせて読みたい

性差別をなくすために家庭や学校でできることとは? 子どもを固定観念から解放する5つの方法

女の子への読み聞かせ革命!クラウドファンディングで7300万円集めた『世界を変えた100人の女の子の物語』著者にインタビュー

10代の感性が社会を変える。米高校の銃乱射事件への怒りをきっかけに、発言力を増す若者たち

THE BIG ISSUE JAPAN 380号(2020/04/01発売)

特集:気候危機に
15 歳のグレタ・トゥーンベリさん、そして日本の若い人たちの活動を紹介。また、江守正多さん(国立環境研究所)に、「異常気象と地球温暖化との関係、地球温暖化の今と近未来、私たちができること」を聞いた。気候危機に向き合い、未来に備える一歩を踏み出したい。
http://www.bigissue.jp/backnumber/380


**新型コロナウイルス感染症拡大に伴う緊急企画第5弾**



2021年3月4日(木)~2021年5月31日(月)まで受付。
販売者からの購入が難しい方は、ぜひご検討ください。
https://www.bigissue.jp/2021/03/18609/








過去記事を検索して読む


ビッグイシューについて

top_main

ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊450円の雑誌を売ると半分以上の230円が彼らの収入となります。