『ビッグイシュー日本版』のように、ホームレス状態となった人たちに雑誌(新聞)販売というかたちで仕事をつくる試みは世界中に100以上ある。そのなかでも、テネシー州南西部の都市メンフィスで発行されている『ブリッジ』は、異色の存在だ。すべてを学生だけで運営している非営利のストリートペーパーなのだ。
ローズ大学に通う3人の学生が、同州ナッシュビルで発行されている『コントリビューター』紙*1の事業から着想を得て、自分たちの地域社会のホームレス問題を解決すべく、2013年に創刊した。
*1 The Contributor
3人は先ず、INSP(国際ストリートペーパー連盟)の北米支部ディレクター、イズラエル・ベイヤーに連絡を取り、ストリートペーパーの運営方法について指南してもらった。『コントリビューター』の共同創始者トム・ウィリスやボランティアで働く人たちにも会い、組織の構成や運営について理解を深めた。
当初は、スタッフの学生20人、販売者は25人ほど。月に1回の発行で、価格は1ドル。初月は1000部を販売した。2ヶ月後には、スタッフと購読者数は3倍に増えた。2014年4月に、『ブリッジ』は公式に非営利組織として認められた。今やINSPに加盟*2しているなかで、世界唯一の、学生のみで運営するストリートペーパーだ。
*2 INSPには世界各地100誌以上が加盟している。Street Papers of the World
メンフィスの地域社会に参画・奉仕すると同時に、学生たちが記事のライティングやビジネス、リーダーシップなどのスキルを伸ばす、またとない機会となっている。代表メンバーの1人、4年生のエマ・フィガルスキーに話を聞いた。
Photos Courtesy of The Bridge
―『ブリッジ』に関わったきっかけは? 現在はどんな役割を担っているのですか?
2018年の秋から、新聞づくりに関わっています。高校生の頃から学生新聞にたずさわっていたので、『ブリッジ』のミッションにもすごく興味があったんです。地域で5000人も読者がいる新聞に関われることに、すごくワクワクしました。最初はマーケティング部門に入り、のちに部長になりました。現在は、共同事務局長を務めています。― 他のストリートペーパーと違う点は?
『ブリッジ』はすべて、学生ボランティアだけで運営されています。学生団体なので、代表が数年で交代となります。これは難しい課題ではありますが、学生がいろんな経験を積めるチャンスともなっています。それに、学生組織ではありますが、大学からの資金援助は受けていません。新聞発行を続けるための資金繰りに、学生自らが責任を負っています。
―去年からのパンデミックを受けて、何か方針の変更はありましたか?
新聞発行の中断を余儀なくされ、これからどうしていくべきか、判断には少し時間がかかりました。夏の初めには、資金集めのキャンペーンを行い、販売者応援パッケージをつくることができました。支援金やマスクや手袋などのグッズと、感染症やフードバンクに関する情報をセットにしたパッケージです。ほんの一時しのぎではありましたが。Photos Courtesy of The Bridge
販売者たちと連絡を取り合えるようホットラインを設けました。販売者たちが何を必要としているのかを把握し、また、地域で彼らが利用できるサービスをお伝えするようにしました。もっといろんな活動をしたかったのですが、学生としては、学校が定めるコロナ規制ルールにも従わねばならず、難しかったです。
新聞発行は中断していますが、ホームレス問題や私たちの活動についてより多くの人に知ってもらえるよう、毎週、オンライン記事を掲載しています*3。
*3 THE BRIDGE NEWS でオンライン記事が更新されている。https://www.thebridge901.com/thebridgenews
―去年から続くコロナ禍において、『ブリッジ』の最も大きな挑戦はなんですか。
販売者たちと直接顔を合わせられないということが、すべてを変えました。電話やパソコンを使えない人が多いので、販売者と連絡をとり続けることが本当に難しいんです。電話の相談窓口も設けていますが、物理的な接触が制限されることで、関係維持が本当に難しくなっています。―『ブリッジ』の今後についてはいかがですか。
また新聞が発行できる日が、そして、ホームレスコミュニティの拠点となっている聖メアリー大聖堂で、以前のように販売者たちに『ブリッジ』を手渡す日常が戻ってきてほしいです。新しい販売者への研修や、販売再開に向けて、学生ボランティアたちはやる気いっぱいです。By Maggie Youngs
Courtesy of The Contributor / INSP.ngo
『ブリッジ』公式サイト
https://www.thebridge901.com
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https://www.bigissue.jp/2021/09/20562/
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ビッグイシューについて
ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。
ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊450円の雑誌を売ると半分以上の230円が彼らの収入となります。