「フェアトレード」は貧困問題と環境問題をビジネスの仕組みで解決しようという活動です。

「労働に対して、公平で適正な賃金を支払う」ことは、フェアトレードの大きな目的である「みんなが幸せに暮らす」ための手段。途上国支援のひとつとして語られることが多いですが、あらゆる場面で公正に対等に相手とやりとりする「フェアなトレード」は、どこであっても大切なことのはず。

フェアトレード専門ブランド「ピープルツリー」が自由が丘店やオンラインで月に1度開催している「フェアトレードの学校」は、楽しく学びながら実践のためのヒントやアイデアを共有して「自分なりの答え」を見つける場です。2022年2月に行われた「フェアトレードの学校」に、有限会社ビッグイシュー日本東京事務所 所長の佐野未来がお招きいただき、コロナ禍の支援で見えた影響についてお話ししました。
この記事では、当日佐野がお話ししたことを再構成してお伝えします。

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イベント主催:ピープルツリー  司会:ピープルツリー 鈴木啓美さん
https://www.peopletree.co.jp/index.html

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佐野は『ビッグイシュー日本版』を立ち上げる前から大の「ピープルツリー」ファン。鈴木さんは長年にわたり雑誌「ビッグイシュー」を愛読してくださっているそう。

包摂社会――つつみこむ社会づくりを目指して

まず、佐野がビッグイシューのしくみについて説明していきます。
雑誌「ビッグイシュー日本版」はホームレスの人が販売できます。販売価格は1冊450円で、そのうち230円が販売者の収入になります。また有限会社ビッグイシュー日本と認定NPO法人ビッグイシュー基金という2つの組織で協力してホームレス問題の解決を目指しており、その役割や取り組みについては、以下のようになります。

・有限会社ビッグイシュー日本が、雑誌の発行と、ホームレスの人がすぐにできる仕事づくりを担当。
・認定NPO法人ビッグイシュー基金は、ホームレス状態になってしまった人たちの生活再建と社会参加の活動をサポート。それ以外にも政策提案や市民参加の場づくりなど、社会全体の仕組みをたくさんの人とともに変えていく活動をしています。


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この2つの組織が車の両輪のようにして助け合い、誰もホームレス状態にしないこと、そして誰もが自分らしく何度でもやり直しやチャレンジができる、それを包み込み、サポートする社会づくりに取り組んでいます。

統計に現れない「見えないホームレス」の存在

佐野はアメリカの大学を卒業して帰国後、「ビッグイシュー日本」創設に加わりました。2002〜2003年頃の日本は「ホームレス」の増加が社会問題となっていた時期。厚生労働省が数えた路上生活者の数は全国で25,296人、大阪は東京より遥かに少ない人口にもかかわらず、全国1位の7,757人の路上生活者がいるとされていました。

それからおよそ20年。厚労省の2021年の調査では、全国の路上生活者数は3,824人とされ、激減したかのように思われます。しかし、これは公園や河川敷、道路、駅構内などで「野宿している人」を、巡回者が平日の昼間に目視で様子を確認してホームレスだと判断して数えたもので、「ネットカフェで寝泊まりする人」や「24時間営業の飲食店で過ごす人」は含まれていません。

「屋根がない」(路上生活)という野宿の人の数は減っていても、実際には「屋根はあるが家がない」(ネットカフェ、サウナ、友人宅などで過ごす人)や「家はあるが居住権が侵害されやすい」(非正規社員の寮、ゼロゼロ物件、家賃滞納など)など、広義のホームレスの人や、ホームレス状態に陥りやすい状況の人は増えていると考えられます。(※)

※インターネットカフェ・漫画喫茶等に寝泊まりする不安定就労者の実態を明らかにする目的で実施された2017年東京都の「住居喪失不安定就労者等の実態に関する調査」で約4000人。

日本ではいったんホームレス状態になると、住まいがないから安定した仕事に就けない、仕事がないから住まいを得られない……という負のスパイラルに陥り、元の生活に自力で復帰することは非常に困難です。そのため、目に見える「野宿者」だけでなく、ネットカフェなど住居と呼べない場所でホームレスの生活する人や、ホームレス状態に陥りやすい人たちの状況を改善する必要があります。

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フェアトレードとホームレス問題

バブル崩壊、リーマンショック、コロナ禍・・・…社会の経済情勢が不安定になると、賃金を抑えるために非正規雇用が増え、労働環境も利益追求型に偏りがちになります。それに伴い労働者の居住環境もより不安定な、流動的なものになっていきました。

利益追求型社会においては社会的弱者に大きなしわ寄せが行くという意味で、フェアトレードで支援する海外の貧困問題と国内のホームレス問題は根底でつながっています。

世界フェアトレード連盟が提唱する「フェアトレード10の指針」には「公正な取引」だけでなく「安定した仕事の機会の提供」や「公正な対価、賃金、安全で健康的な労働条件を守る」など労働環境についても指針が示されています。これは遠く離れた途上国の話ではなく、私たちの住む日本国内にも当てはまることではないでしょうか。

https://www.peopletree.co.jp/fairtrade/standard.html

長期化するコロナ禍で増えた困窮者

2年以上に及ぶコロナ禍によりこれまで「普通の暮らし」をしていた人にもさまざまな影響が出てきています。例えば「家はあるが、食べるお金がない」人たちも増加。これは公園での炊き出しに、長蛇の列を作る困窮者の数に現れています。

  貧困を自己責任として片付けてしまい、そこから抜け出すための公的な支援を疎かにしてきたことも、問題が深刻化した要因の一つだと考えています。日頃、ぎりぎりの生活をしている人が今回のコロナ禍のような予期せぬ災害などに見舞われ収入を失うと、一気に貧困状態やホームス状態になってしまいます。「自己責任」で済ませず、社会全体で、この状況を変えていく必要があるのではないでしょうか。

生活保護制度の捕捉率は低水準

東京で単身世帯の場合、基準とされる最低生活費は1ヵ月あたり約13万円です。収入がそれに満たない場合は、収入を差し引いた差額が生活保護として支給されます。

しかし、最低生活費以下の収入で暮らしているにもかかわらず、この「最低限の生活を保障する国の制度」である生活保護を受けていない方が多数いると見られています。生活保護を受けることが必要な方のうち、実際に受けている方の割合(公的扶助制度の捕捉率)は、2007年のデータで、全体の2割程度となっています。これは、諸外国と比べてもかなり低水準であると言えます。

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この理由の一つには、生活保護を必要とする困窮者に対する偏見や差別、福祉の窓口で受けさせないようにする「水際作戦」といった違法な運用があると考えられます。生活保護制度がきちんと活用されて、困窮した時にはスムーズに支援を受けることができるようになることや、差別や偏見の目で見られないようになることは、「フェアなトレード」として日本の貧困問題の改善にとって、とても大切なことだと考えています。

明日からできるアクションを考えよう

オンラインで視聴してくださった皆さんからはいろいろな質問や意見をいただきました。

視聴者コメントより:

―――「ビッグイシューを購入したいが、ショップから購入する場合、販売利益はどうなりますか?」

佐野:「全国の取扱いショップまたは、定期購読(1年間)による販売の利益は、雑誌の継続的な発行や、販売者の全般的なサポートのために使われます。『コロナ緊急3ヵ月通信販売』では、3ヵ月分(計6冊)の雑誌を、送料込みで3,300円を前払いで購入していただきます。そのうち販売者の利益分(1380円)をビッグイシューがプールして、各販売者に毎月、販売継続協力金として現金をお渡しする他、販売応援グッズの配布などしています。販売者への直接の応援ができます」

ほかにも視聴者コメントでは、
・「図書館にビッグイシューをリクエストしたい」
・「社会のエッセンシャルワーカーと言える清掃員の方に挨拶や声をかけてみる」
・「海外在住者から見て、日本の貧困の現状は厳しいです。許容しない社会を変えていくために必要なのは、私たちひとりひとりのアクションだと思います」

といったご意見が寄せられました。

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「ホームレス」を作り出さない社会のしくみづくりへ

鈴木:「社会全体で貧困を生み出さない仕組みづくりは、みんなにとって優しい、誰にとっても生きやすい社会になると思うんですね。『ホームレスの人と私たちは別もの』ではなく、分け隔てのない包摂する社会なら、困窮者を生み出さないようにする仕組みができてくると思います」

佐野:「背景はさまざまでも、何か困難を抱えている人を見たときに『支援が足りないんじゃないかな?』、『支援が必要なのは誰か?』と感じられる想像力をみんなが持てるようになると、今より優しい社会になるんじゃないかと思います」

ホームレスとは人のことじゃなくて一時的な状態、だから誰もが当事者になりうる。

鈴木:「支援を受けた人がいるとずるいと批判する、自己責任論を問うような社会は、世知辛い雰囲気を作り出していると思います。何が起こるか予測がつかない社会で、もし自分がやむを得ず困難な状況に陥ったとき、どう思うかを考えることが大事ですね」






佐野 未来(さの・みく)プロフィール
有限会社ビッグイシュー日本東京事務所・所長
大阪生まれ。高校卒業後渡米し、大学で英文科・ジャーナリズムを専攻。卒業後帰国し、英語講師、翻訳・通訳などを経験。2002年に「質の高い雑誌を発行し、ホームレ状態にある人の独占販売とすることで、すぐにできる仕事をつくる」というビッグイシューUKの仕組みに出会い、日本一路上生活者の多かった大阪での創刊を仲間とともに検討。2003年にビッグイシュー日本を3人で創業。2008年まで雑誌『ビッグイシュー日本版』編集部で副編集長・国際担当。2009年から東京事務所に移動し、社会的排除・孤立の最たる状態であるホームレス問題から、孤立せずに生きられる社会を考えるため、様々なセクターの人たちとの協働を進めている。

鈴木 啓美(すずき ひろみ)さん(ファシリテーター)プロフィール
ピープルツリー広報・啓発担当
20年以上の愛用者としての経験から「自分にとって心地いい暮らしが、周りの人々にも地球にとってもやさしいと、心からハッピーになれる」と考え、フェアトレードを身近に感じ、生活の中に楽しく取り入れてもらえるよう、メディア対応、記事制作、イベント企画、講師などを担当。


 記事作成協力:都築義明


格差・貧困・社会的排除などについて出張講義をいたします

ビッグイシューでは、学校その他の団体に向けてこのような講義を提供しています。
日本の貧困問題、社会的排除の問題や包摂の必要性、社会的企業について、セルフヘルプについて、若者の自己肯定感について、ホームレス問題についてなど、様々なテーマに合わせてアレンジが可能です。

 

小学生には45分、中・高校生には50分、大学生には90分講義、またはシリーズでの講義や各種ワークショップなども可能です。ご興味のある方はぜひビッグイシュー日本またはビッグイシュー基金までお問い合わせください。
https://www.bigissue.jp/how_to_support/program/seminner/ 



参考:灘中学への出張講義「ホームレス問題の裏側にあること-自己責任論と格差社会/ビッグイシュー日本」



人の集まる場を運営されている場合はビッグイシューの「図書館購読」から始めませんか

より広くより多くの方に、『ビッグイシュー日本版』の記事内容を知っていただくために、図書館など多くの市民(学生含む)が閲覧する施設を対象として年間購読制度を設けています。学校図書館においても、全国多数の図書館でご利用いただいています。

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ビッグイシューについて

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ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊450円の雑誌を売ると半分以上の230円が彼らの収入となります。