フェイクミート、クリーンミート、ミートレスミート、代替肉、人工肉、植物由来肉……名称はさまざまだが、目指すところはいずれも「動物の肉の消費を減らし、環境への影響を抑えること」だ。近年登場している植物由来の代替肉(以下、植物肉)は、サシや霜降りの具合、グリルした時のうまみや香り、ジューシーさなど、従来の牛肉と遜色ないものも多い。今後飛躍的な成長を遂げると見られている植物肉について、『 ビッグイシュー オーストラリア』の報告を紹介しよう。

植物肉のスタートアップ企業が増えている

代替肉といえば、米国のビヨンド・ミート社やインポッシブル・フーズ社がよく知られているが、オーストラリアでもこの分野が急成長している。

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ビヨンド・ミート社やインポッシブル・フーズ社の製品/iStockphoto(Grandbrothers)

2019年に誕生したスタートアップ企業「ブイツーフード(v2foods)社」は、“増加する世界人口の食をいかに持続的にまかなうか”という課題解決を目指し、オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)、投資ファンドのメイン・シークエンス・ベンチャーズ(Main Sequence Ventures)、豪ファストフードチェーン「ハングリージャックス」の親会社コンペティティブ・フーズ・オーストラリア(Competitive Foods Australia)とのパートナーシップにより設立された。主力商品「レベルウォッパー」は、ビーフ使用0%、豆類から抽出したタンパク質で作られている。

「肉はなぜこんなにおいしいのか?という根本的な問いを探るべく、CSIROの科学技術を活用して肉の化学作用を分析しました」と最高責任者ニック・ヘイゼルは説明する。「当社では、食感、脂肪、風味の観点から肉を再考しています。そこまでしてと思われそうですが、おいしくて栄養価の高い植物肉を生み出すには、肉の仕組みを徹底的に理解する必要がありますからね」

アジアの伝統を活用したアプローチ

アジアの伝統食にヒントを得て、代替肉の生産に取り組む企業も登場している。シェフから菌類学者に転身したジム・フラー、キノコの有機栽培農家クリス・マクログリン、ヴィーガン(完全菜食主義者)の起業家マイケル・フォックスの3人が2019年に立ち上げたフェイブル・フード・カンパニー(Fable Food Co)社では、業界主流の大豆や小麦タンパク質ではなく、シイタケをじっくり蒸し煮した代替肉を製造している。「独自の加工処理によりキノコのうまみを引き出し、肉っぽさを実現しています」とフォックスは語る。

メイド・ウィズ・プランツ(Made With Plants)社とプランツ・アジア(PlantAsia)社の創設者ケイル・ドルアンは、マレーシアと台湾の食文化から着想を得て、グルテン(小麦粉に水を加えてこねることでできるタンパク質の成分)を用いた代替肉を商品化している。

急成長が見込まれる植物肉市場

オーストラリアでもここ数年、ミートフリー(肉不使用)食品の消費が急増しており、その背景には、健康・環境・動物保護の3つの要因があると考えられる。国内の菜食主義者自体は2012年の約10%(約170万人)から2019年の約12%(約250万人)に増え、「肉を食べる量を減らしている」「まったく食べない」と答えた人は42%にものぼる。植物肉部門の小売売上は2019〜20年度に46%増の1億5400万豪ドル(約130億円)に達し、CSIROでは植物肉製品の国内消費と輸出による収益は66億豪ドル(約5600億円)規模に達すると予測している。バークレイズ・リサーチの報告によると、代替肉の世界的な市場シェアは、2019年の1%未満から、2030年には1兆4000億米ドル(約162兆円)規模の10%を占めるだろうと予測されている。

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vegan burger/iStockphoto(BongkarnThanyakij)

いちはやく1991年に南アフリカで設立されたフライ・ファミリー・フード(Fry Family Food)社は、マーケティング部長を務めるタミー・フライの父親が養豚場のひどい飼育環境にショックを受け、妻と娘タミーの菜食主義(ベジタリアン)を見習おうとしたことがそもそもの始まりだった。自宅の台所から始まった同社のビジネスは、今や450人の従業員を抱え、毎日26トンもの植物肉製品を生産している。「大々的なビジネスをしようと思って始めたわけではありません。当時は菜食主義者やヴィーガンの人なんて、まわりにいませんでしたから」。しかし約30年が経った現在、菜食主義は、熱帯林の保護や気候変動の抑制につながる世界的な取り組みとなっている。

フレキシタリアンでも十分な効果アリ

次々と登場している代替肉食品の主なターゲットは「フレキシタリアン(準菜食主義者)」だ。菜食主義の食生活を基本としながら、時折肉を食べる人たちをいう。畜産業がもたらす悪影響(後述)を回避するには、このフレキシタリアニズム(準菜食主義)でも十分とされ、食のあり方について科学的な取り組みを行なっているノルウェーの非営利団体EATも「フレキシタリアン食を取り入れることで、温室効果ガスの排出削減につながり、何百万人もの命を救える」としている。

「多くの人をヴィーガンに変えてやろうというアプローチではうまくいきません」とブイツーフード社のヘイゼルも言う。「サステナブルな植物肉のマーケットは十分にあります。でも、グローバルな視野で見れば、人々は豊かになり、ますます多くの肉を食べるようになっています。100億に達するであろう世界人口を養うには、フレキシタリアンの拡大が必要でしょう」

従来品との比較からわかる植物肉のメリット

植物肉だと、死亡リスク、2型糖尿病、心血管疾患のリスクが低くなることが、いくつもの研究から明らかとなっている。「世界保健機関(WHO)では、ソーセージやベーコンを『発がん性がある』(グループ1)、赤身肉を『恐らく発がん性がある』と分類しています」とフォックスは指摘する。「欧米諸国の死因の上位である大腸がんは、食物繊維の摂取が不足しているからと言われています。肉を少量食べる分には問題ありませんが、オーストラリア人のように赤身肉、鶏肉、魚介類を合わせた年間消費量が110kgにもなると*1、健康的とはほど遠いと言わざるをえません」

*1 1日の平均的な肉の摂取量は、オーストラリア人318.5g、日本人135.5g。参照:COUNTRIES THAT EAT THE MOST MEAT – RANKED

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インポッシブル・バーガー社の代替肉  Credit: Impossible foods

動物の肉と比べると、植物肉は脂肪と飽和脂肪が少なく、ナトリウムが同程度以下、タンパク質が同程度以上なので、より健康的といえる。さらに、食物繊維も摂れる。「植物肉だけを食べていればよいというわけではないですが、従来の肉と比べると、その違いは明らかです」とフライ。「私たちも自社製品と従来の加工肉、つまりハンバーガーなら従来のハンバーガーと、ソーセージなら従来のソーセージと比べることで、その違いを見ています」

2050年には73%増となる肉消費量

世界人口が増加し、豊かになる国が増えるにつれて、肉の消費量は増えていく。国連は、2050年までに世界人口が100億人に達すれば、世界の肉消費量は73%近く増加すると予測している。この見通しについて、ドルアンは率直にこう語る。「そうなれば、もう地球の破滅です。それだけの人々を養う土地などどこにもなく、熱帯林を大々的に破壊するしかありません」。国連の報告書でも、農業の集約化、食肉の需要増、土地の転換、気候変動の組み合わせが自然環境を破壊しているとし、ドルアンの主張を裏付けている。

自然環境が破壊されると、人々が病気の媒介者と接触しやすくなるという問題を引き起こす。「今のままでは再び、新型コロナウイルス感染症のようなパンデミックの発生が予測される」と同報告書は述べている。

また、世界の温室効果ガス排出量の14.5%、世界の農地の77%を占める現在の畜産業に対し、植物肉の生産は、ほぼすべての指標において、より持続可能性が高い。水の使用量は72〜99%、土地の利用は47~99%、温室効果ガス排出量は30~90%少なくてすむのだ。ヘイゼルも「地球上には、畜産用の飼料を育てる農地はもう残されていません。2050年までに、植物性タンパク質の産業を現在の動物性タンパク質産業と同規模にまで成長させる必要があります。その転換は1兆ドル(約115兆円)規模のビジネスチャンスでもあり、実際に多くの投資家が強い関心を示しています」と言う。

ただ、多くの人にとって障壁となっているのは、植物肉の値段の高さだ。オーストラリアでは、植物肉のほとんどが、従来の肉製品より1.5倍ほど高くつく。これは食肉・乳製品産業への補助金が一因だとドルアンは見ている。

培養肉の研究開発が進む

今後の動きが注目されているのが「培養肉」だ。動物を殺すのではなく、動物の細胞を培養することで作る「培養肉」の開発に取り組む研究者が増えている。これは肉に似せた食品ではなく、分子レベルでも「肉」である。

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Artificial cultured meat in laboratory test tube comparison concept./iStockphoto(nevodka)

2021年、米国のワイルドタイプ・フーズ(Wildtype Foods)社が世界初の細胞培養したサーモンを開発した。日本では科学者のグループが3Dプリント技術を使って、初めて和牛に近い構造をした肉の塊を作ることに成功した*2。オーストラリアではシドニーに拠点を置くスタートアップ企業ボウ・フーズ(Vow Foods)社が、アルパカ、水牛、カンガルーなど13種類の動物の幹細胞から食肉をつくり出している。培養肉の販売を国として初めて承認したシンガポールでは、会員制クラブ「1880」で、培養肉のチキンナゲットを使った食事が楽しめる。

*2 参照: 3Dプリンターで「霜降り培養肉」を作製 阪大、凸版印刷など

培養肉もゆくゆくは植物肉とともにスーパーの棚に並ぶようになるだろうが、現段階では商業的に成り立たせるのが難しく、どれだけ消費者の食指が動くかも未知数だ。「培養肉が業界に大きな影響を与えるまでには、まだ時間がかかるでしょう」とドルアン。「培養肉がどういうものなのかを消費者に繰り返し伝え、疑問に答えていかなければなりません。人々の食に対する根本的な考えを変えるには、長い時間がかかります」

地球と人間の健康と動物を守るため、これほど多くの起業家、科学者、料理人が高度な食品を作ろうと努力する時代は、歴史上初めてのことだ。「植物肉は動物の肉と変わらないくらいにまでなっているので、もはや妥協して食べるものではありません」とフライ。「誰も違いがわからないレベルにまで来ています。価格さえ従来の肉と同じくらいになれば、植物性食品を選ぶ人がもっと増えるはず。早くそうなる日が来てほしいです」

By Sonia Nair
Courtesy of The Big Issue Australia / International Network of Street Papers



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