「陰謀論」は、この世で起きるさまざまな事象に素早く簡単な説明を与えてくれる。とりわけ危機的状況下では、悪意に満ちた陰謀論が広まりやすい。人は大きな脅威に直面すると、どんなかたちであれ“分かりやすさ”に大きな安心感を覚えるのだろうか。なぜ陰謀論にハマる人がいるのか、どうすれば陰謀論がはびこるのを抑えられるのか、ギリシャのストリートペーパー『シェディア』誌の特集記事を紹介しよう。

当初、米国人の29%、フランス人の26%が新型コロナウイルスの陰謀論を支持

2020年3月17日、フランスで新型コロナウイルス陽性者の隔離措置が始まった。同日、米国の独立調査機関ピュー研究所が実施した調査によると、米国人の29%が「新型コロナウイルスはラボでつくられた」と考えていた。この考えがフランス社会ではどれだけ広がっているのかを確かめようと、仏シンクタンク、ジャン・ジョレス財団とコンスピラシー・ウォッチも同様の調査を委託で実施した。すると、「新型コロナウイルスは製造された細菌兵器」と考える人は26%で、フランス国民は米国人より少しではあるが陰謀論を信じにくいことが分かった。

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Miguel Á. Padriñán/Pixabay

「興味深いことに、25歳以下の若者の27%がこの見方をしていました。これとは対照的に、65歳以上で陰謀論を支持していた人は6%以下でした」コンスピラシー・ウォッチの創設者ルーディー・レイクスタッドは言う。「若者が陰謀論を受け入れやすいのは、彼らの情報源であるインターネットやソーシャルメディアが陰謀論でいっぱいだからでしょう」とも。

陰謀論のインセンティブは“儲かるから”

「ネット上では、知識や文化に対する急進的自由主義なアプローチが陰謀論的な幻想をふくらませることが珍しくありません。これは、私たちが“表現の自由”を保証する多元的民主主義に生きていることの代償でしょう」と語るのは、フランスの思想家で政治学者、フランス国立科学研究センター(CNRS)の研究ディレクターを務めるピエール=アンドレ・タギエフだ。「社会学者のジェラール・ブロナーが実施した研究では、Googleで怪しげなトピック(占い、ネッシー、テレパシーなど)について検索すると、最初にヒットするのは、科学的情報、批判的分析、懐疑的な立場のものではなく、陰謀論に同調的なサイトでした」

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神経科学の医師で、疑似科学観測所(Pseudoscience Observatory)メンバーのパノス・サポウツィスは、陰謀論やフェイクニュースの流布には必ず経済的動機があると語る。「Google AdSenseなどのオンライン広告サービスは、アクセス数に応じて広告収入を分配しています。なので、人気コンテンツを投稿して、広告収益を上げようとしているのです。また、デマ合戦に加わるのには、個人の広報宣伝の側面もあります。陰謀論者、ワクチン否定論者、“オルタナティブな治療師”たちは、パンデミックによる人々の不安や恐怖につけこみ、潜在顧客(支持者)を広げようとしているのです」

物事が起きる偶然性を理解できない人たち

人々が陰謀論を支持する理由について、サポウツィス医師はこう語る。「陰謀論者の特徴として、出来事にはまったくの偶然で起きるものがあるということを理解できない、があります。私たちが生きるこの世界は予測がつかず、たびたび大混乱が起こります。良いことも悪いことも、いろんな人に(一見)ランダムに起こります。しかし陰謀めいた思考では、『何ひとつ偶然で起きることなどない』ととらえ、この世で起きる出来事は必ず誰かしらの目的にかなうもの、または、“隠された意図”の結果で、通常、そのことで恩恵を受ける人たちがいると考えます」

「陰謀的な発想をする人は、例えば、新型コロナウイルスがランダムに起こる自然の進化によるものということを受け入れられないのです」とサポウツィス医師は続ける。「ウイルスは、人類に害を与えようとする人たちがつくりあげたもので、そのことで恩恵を受けているはずだと決め込む。しかし、陰謀的な語りは論理的に整合が取れません。遺伝子操作でつくられたウイルスなのであれば、ゲノム(遺伝情報)にその証拠があるはずですが、新型コロナウイルスには見当たりません。でも、陰謀論者たちは真実を突き止めることには関心がないので、科学者からの反対意見に耳を貸そうとしません。陰謀論はまた、ルールや意義を求める心理的ニーズにもかなっています」

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では、陰謀論を支持する者たちがその発想から抜け出せないのはなぜなのか?「心理学に<確証バイアス>という概念があり、人はこれまでの認識や考えをさらに強く確信させてくれるような情報を収集しやすい傾向をいいます。また、二つの矛盾する思考体系があるときに不快感を覚えることを<認知的不協和>といいます」精神科医で心理療法士のエマニュエル・ポリゾプロスは語る。「この矛盾を乗り越えるため、人は情報、データ、証拠を自分なりに解釈して、両方の思考体系ともができるだけ影響を受けないようにする必要があります。通常はとても理にかなった考え方をする人々が、星占い、水晶療法、タロット占い、心霊力などを信じる理由を説明するのにも、<確証バイアス>と<認知的不協和>はよくある現象です。もちろん、すべての陰謀論をばかげている、偏った見方だと一蹴するのは全くフェアではありません。陰謀論が真実だと判明することもあるにはありますから」

陰謀論者たちを悪者扱いせず、議論する必要性

どうすれば陰謀論に挑めるのか、ピエール=アンドレ・タギエフに助言を求めた。「陰謀論を繰り返す人たちとの議論を歓迎することです。ただし、権力者の主張を用いたり、相手を悪者扱いしてはなりません。そんなことをしても、陰謀論者たちの信念を強めるだけです」

テッサロニキ・アリストテレス大学のジャーナリズム・マスメディアコミュニケーション学部のニコス・パナイオトウ准教授は、フェイクニュースや陰謀論の流布に関して、インターネットサービスやソーシャルメディア企業にも責任があると力を込める。「すべてのコンテンツを検閲すべきとは言いません。ですが、ワクチンについての本を検索すると、最初にヒットするのが反ワクチン運動に関する文書というのはいただけません。多くの人を混乱させるだけです」と語る。「例えば、ケムトレイル陰謀論*1についての記事が広く読まれるなら、それは誤情報であると明記すべきです。ピース・ジャーナリズム研究所と実施した調査では、2,600人のうち、2020年3月時点では62%が「後でフェイクニュースと分かった投稿やニュース記事を信じた」と回答、一ヶ月後の4月時点では50%でした*2」 

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*1 長時間、残留している飛行機雲は、高高度を飛行する航空機から空中に散布された有害な化学物質であるとするデマ。
*2 参照: Information and the COVID-19 crisis(Peace Journalism Lab)


メディア・リテラシーを育む教育を推進すべし

フェイクニュースや陰謀論を受け入れやすい風潮への対抗手段は、子どもの頃からメディア・リテラシーを教え込むこと、と語るのはテッサロニキ・アリストテレス大学の教師で博士号候補生のエフィ・アンドレアドウだ。「私は、子どもたちがクリティカル・シンキングの能力を育み、メディア情報を批判的に読み取れるよう、実験的な教育プログラムを考案しました」。

「先日、5〜6年生向けのワークショップを開催しました。小さなグループに分かれ、どのニュース記事が真実かそうでないかを話し合ってもらいました(あえてフェイクニュース、フィッシング、おとり的なニュースを混ぜて)。最初に記事の見出しを見て、その情報のソースとなるものがあるかどうかを考えます。記事を書いた人はどこでこの情報を入手したのか、記事内の写真は本当にその記事の内容と合っているのか等を話し合いました。そして生徒たちには、(意図を持ってデマを載せる人がいるのだと理解できるよう)フェイクニュースだけを掲載したオリジナルの新聞を作ってもらいました」

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「EU指令では定められているものの、残念ながら、メディア・リテラシーをテーマとした教育プログラムはまだ本格導入されていません」

テッサリア大学ギリシャ現代史学部のアントニス・スミルネオス准教授は、ときに陰謀論には痛みが隠されていると指摘する。「陰謀論者たちは、反体制的、反権威主義的な語り方をします。彼らの痛みは、自分たちが知らないことが起きているという恐怖感から生じています」

「自分たちの声が低く評価されている、無視されていると感じると、自分たちの答えを探そうとし、より大きな声で叫ぼうとする。陰謀論は、合理的かつ科学的、そして“権威的”に物事を理解することの反対の立場を取り、被害妄想的な過度の作り話ととらえられてきました」

陰謀論にも「トップダウン型」と「ボトムアップ型」がある

次に、陰謀論の中の「トップダウン型」と「ボトムアップ型」について学ぶべく、クレタ大学社会学部のアテナ・スコウラリキ教授に話を聞いた。この二つは両立するのだろうかと聞くと、そう確信しているとの答えが返ってきた。「陰謀論について15年以上研究してきましたが、どちらのタイプも存在するという結論に至りました」と断言する。「例えば、新型コロナウイルスについての陰謀論はボトムアップ型で流布しています。つまり、疫学者、確立された科学、公的政策に異議を唱える個人またはグループ間で共有されて広まりました」

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「しかし2000年代後半、ギリシャでは多くの陰謀論が、国家、政府、検察官らの支持を受けて広まりました。例えば、2007年のギリシャ山林火災や、外国諜報機関によるコスタス・カラマンリス議員の暗殺計画がそうです。

「陰謀論によっては、政府や政党の失策責任を回避しやすくなるものがあり、主要メディアを通じて社会に広められています」とスコウラリキは続ける。「問題なのは、公的な情報源から政府にとって不都合な計画や策略について耳にすることもあった社会が、今ではインターネット上で広まっている“愚かな話”のえじきになっていることです。国が難民を“侵入者”とみなし、難民の権利への尊重や連帯を示す必要などないと示唆すれば、公的情報源から陰謀論が生まれることだってあるのです」

陰謀論を“機械的に”受け入れる人たち

新型コロナウイルスやその他のトピックに関する陰謀論がソーシャルメディア利用者の間でどれくらい支持されているか、調査を行ったコスタス・ゲメニスに話を聞いた。
「とくに、以下の架空の設問に同感するかどうかを聞きました。」
1. 新型コロナウイルスは研究施設で細菌兵器としてつくられた。
2. 新型コロナウイルスは製薬会社の収益を上げるための詐欺である。
3. 新型コロナウイルスは人間にマイクロチップを埋め込むための詐欺である。
4. 新型コロナウイルスは5Gネットワークを試験するための詐欺である。
「さらに、新型コロナウイルスとは全く関係のない三つのでたらめな陰謀論に関する回答を独立変数として組み合わせ、支持の程度を判断しました」
1. がんの治療法は見つかっているのに、製薬会社がその生産を止めている。
2 ギリシャの経済危機は、さまざまな外部組織によって仕組まれたものだった。
3.飛行機が空に残した白い航跡は、健康に有害な空気を噴霧したものである。

「その結果、新型コロナウイルスに関する陰謀論への受け止め方と、まったく別の問題に関する陰謀論の受け止め方では、同じ説明がつくことが分かりました」とゲメニス。「陰謀論者は、まっとうな見方を受け入れる人たちのことを“シーパル(sheeple)*3”と揶揄しますが、自分たちだって、よく考えることもせず短絡的に、政治の舞台に現れる新しい陰謀論の支持者となっているのです」

*3 sheep + peopleで、従順で自分の意見がなく、大勢に従う人々を意味する。

ギリシャ経済危機と陰謀論

ギリシャの経済危機と陰謀論のますますの広がりについて研究したテッサロニキ・アリストテレス大学政治学部の博士候補生コスタス・パパイオアヌは、「国際的な研究を行いました。ギリシャの代表サンプル調査によると、国民の62%が陰謀論を信じていました」と語る。「経済危機は自分たちの存在を脅かしたので、陰謀論が簡単かつ素早い説明となったのです。もっとも拡散した語りは、EU内部にはギリシャ国民の生活水準および文化水準をうらやむ“反古代ギリシャ派”による策略があるというものでした」

パパイオアヌの研究パートナーを務めたオックスフォード大学研究者のミルト・パンタジが付け加える。「思想的に極端な人というのはこうした陰謀論を信じがちで、どちらかというと右派の人に多いようです。もちろん、政治的に中道の人たちの中にも、ビルダーバーグ理論(欧米の思想家や指導者たちが、非公開に行う会議で世界の運命をかたちづくっているとの考え)を受け入れている人もいますが」

By Spyros Zonakis
Translated from Greek by Antigone Debbaut
Courtesy of Shedia / International Network of Street Papers

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