ここ数年でSDGsやフェアトレードといった言葉がよく聞かれるようになってきた。その背景には、人知れず強い気持ちで地道に活動してきた人たちがある。30年以上も前からネパールでフェアトレード事業を手がけ、東日本大震災後は被災地の復興支援など国内での活動にも力を入れているのが有限会社ネパリ・バザーロだ。
*フェアトレード:公正な取引の意。原料や製品を適正な価格で継続的に購入することを通して立場の弱い(主に途上国の)生産者や労働者の生活改善や自立、環境問題解決を支援する活動。
そのネパリ・バザーロの直営店である神奈川県横浜市の「ショップ ベルダ」では、通常はホームレスの人が路上販売している雑誌『ビッグイシュー日本版』を「委託販売制度」を利用して店頭に商品として並べている。
今回は、有限会社ネパリ・バザーロ代表の高橋百合香さんにお話を伺った。
表出している問題だけではなく、背景にある問題にも目を向ける
ネパリ・バザーロの創業者で現会長の土屋春代さんは子どもの頃、ネパールの無医村で活動する日本人医師の話を聞き“日本とはすごく環境が違う。同じ時代なのに…”と心を痛めた経験があった。そして社会人として働き始めてしばらくした頃、偶然ネパールの人と出会い、未だに学校へ通えない子どもたちがいることを知る。「あれから何十年も経っているのに、状況が変わっていない…」と衝撃を受け、「いつかではなく、何かできることから始めよう」とネパールに学校を建設するための市民団体を発足した。
しかし支援活動を行うなかで、子どもたちが学校に通えない問題の背景に突き当たる。それは、「学校がないから通わなかった」のではなく、「親に仕事がなく、家庭が貧困状態に陥り、学校に通わせる余裕がない」ことだった。
「必要なのは、ネパールの人々に仕事をつくること」
そこで現地にある素材や技術を活かした商品をつくり、日本で販売するため、有限会社ネパリ・バザーロを立ち上げた。1992年のことである。「その頃は、“フェアトレード”を始めようとしていたわけではありませんでした。必要とされていることは何か、それを見て感じとって、活動が広がっていったのだと思います。」
2017年に代表を引き継いだ高橋さんは、創業の背景についてそう語る。
「ヒマラヤの麓の奥地で栽培されている紅茶や、コーヒー、スパイスなど様々な商品を取り扱っていますが、まずは生産者さんの顔が見える流通をつくることから始めていきました。今では、ネパールの伝統技術を活かしたカトラリーやアクセサリー、洋服など、商品の幅も広がっています。」
ネパールに活動拠点をもち、現地の人々とつながり、自立支援を中心に活動を継続していた。そんななか、2011年3月11日、東日本大震災が起こる。
「3.11以降、震災支援活動を行うなかで、岩手県陸前高田市の人々と出会いました。そこではじまったのが、地域で採取れる椿の実から搾油した食用椿油の販売と、化粧品やスキンケア用品としてシリーズ化する椿油プロジェクト。東北の人たちへの継続的なサポートが、何かできないかと考え、国内にも拠点を立ち上げたんです。
最近では、沖縄の人々とのつながりも生まれています。沖縄カカオプロジェクトを起ち上げ、沖縄でカカオを栽培し、チョコレートを製造するまでの一貫事業の創造を目指しています。また、沖縄で作られる塩やフルーツなど地域の魅力ある素材を、できるだけシンプルな加工で、体に優しく製造する。そこに仕事が生まれ、働く人が自立につながるような商品を紹介したい。それが、私たちの想いです。」
ネパールに限らず、雇用の機会創出が必要とされる地域の人々のため、国内でもさまざまな事業を展開しているという。
商品の背景にある、伝えたいストーリーを話せるきっかけに。
そんな高橋さんに、ビッグイシューとの出会いについて聞いてみた。「ビッグイシューとは、創刊された頃からのお付き合い。元々、”仕事を通じて自立をめざす”という活動の目的が共通しているので、“心強い仲間”と感じ、応援していました。よく情報交換をしていましたし、ネパリ・バザーロのイベント情報をビッグイシューに掲載してもらうこともありました。そうしたご縁があるなかで、『店舗に雑誌を置いてみませんか』というお話があったんです。それまでは、販売者の方が路上販売する雑誌、というイメージが強かったのですが、委託販売の制度を知り『自分たちも販売できて、それが力になるなら、ぜひ』と。そして今に至っています。」
通常、路上で販売されているビッグイシューを、店舗内で売る。お客様の反応はどうなのだろうか。
「購入してくださるお客様は、元々ビッグイシューをご存知の方がほとんど。県内の販売場所は横浜の中心地に集まっているのですが、当店はそこから離れた場所(神奈川県横浜市栄区)。新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、中心地への外出が少なくなった方々が来てくれて、『ここでも買えるのね』と喜んでくださることもあります。」
ビッグイシューを店舗で販売するメリットについても伺った。
「この店の商品には、すべてストーリーがあります。『おいしい』や『かわいい』の背景に、伝えたい問題があるんです。ビッグイシューでは、その”背景“となっている社会課題が、ダイレクトに記事になっていますよね。特集や記事から興味を持っていただき、お話しするきっかけが生まれ、商品の“背景”にもふれてもらえる。私たちの商品開発は、毎シーズンたくさんの新商品を出すのではなく、一つの商品を長く、ゆっくり売り続けていくスタイル。だから月に2回、雑誌が発売されるのは、新しい風を運んできてくれるように感じます。それが、とてもありがたいです。」
「『ショップ ベルダ』は、神奈川県立地球市民かながわプラザという施設内にあるんですが、そこでは社会課題を題材にした映画を上映することがあります。ビッグイシューでも特集のあった、映画『ボブという名の猫』が上映されたときは、映画を観たお客さんがお店に立ち寄ってくれることもありました。他にも、社会課題をテーマにしたイベントがあると、関連した記事のあるビッグイシューに反応したお客様が来店されることも多いですね。」
また、過去ビッグイシューに広告を掲載したときには、こんな反応もあったそうだ。
「今、沖縄でカカオを栽培しチョコレートを作り、販売を目指す沖縄カカオプロジェクトが動いていて。そのプロジェクトとチョコレートを紹介するための広告をビッグイシューに掲載してもらったんです。今の時代、広告を打っても…とそこまで期待していなかったのですが、ビッグイシューの読者さんは“打てば響く”感じで大反響でした。
ビッグイシューに掲載された広告
カタログの請求をしてくださったり、プロジェクトを応援する『カカオフレンズ』になってくださる方も集まりました。
それがきっかけで、長く深いお付き合いのあるお客様となり、支援者となってくださった方もいます。困難な状況にいる人々の生活を守ったり、応援することへ想いのある方々とつながれて、日々支えあっていると感じています。」
「なんかおかしい」という気持ちが、持続可能な社会のはじまり
かつてよりも、フェアトレードやSDGs という考え方が“求められている”と感じる一方で、その言葉だけが安易に「消費」されるべきではないとも感じているという高橋さん。「今の世の中では、 “なんかおかしい”、“もっとまっとうに生きたい”という、気持ちって多くの人が持っていると思うんです。」
しかし、ただそう思うだけでは “何かおかしい社会”は変わらない。 だからこそ商品をとおして人と人とをつなげ、仕事を生み出すネパリ・バザーロのような店と出会うことで、自分の生き方を変える元気をもらったり、ワクワクする人も多いのだろう。
“何かおかしい社会”を変えるためにできることとは?と問うと、「自分の生き方を見つめることだと思います。社会は一人ひとりの生き方の積み重なり。自分がどう生きていくかという問いの先に、持続可能な社会や生活があるのかもしれないなと思います。」と答えてくれた。
ビッグイシューの販売を通じて、“仲間”とつながれる
最後に、ビッグイシューの委託販売を検討している人へ、一言。「ぜひ、販売をおすすめします。当店では、販売してすぐに完売ということはなくても、バックナンバーになって長く売れている雑誌もありますし、収支は問題ありません。「販売」以上のつながりも得られると思います。「少しずつでも社会を変えたい」という想いを持ったお店やお客様など、ビッグイシューを通じてつながっている方々とは、ずっと、仲間のように支え合っているなと感じます。私自身も毎回、お客様と一緒に、発売日を楽しみにしています。」
取材・記事作成協力:屋富祖ひかる
写真提供:ショップ ベルダ
ネパリ・バザーロ直営店 ショップ ベルダ
神奈川県横浜市栄区小菅ヶ谷1−2−1
地球市民かながわプラザ2階
※JR根岸線「本郷台」駅より徒歩3分
https://www.verda.bz/
ビッグイシューの委託販売制度について
https://www.bigissue.jp/sell/in_your_shop/
ビッグイシューへの広告掲載について
https://www.bigissue.jp/how_to_support/program/ad/
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『販売者応援3ヵ月通信販売』参加のお願い
3か月ごとの『ビッグイシュ―日本版』の通信販売です。収益は販売者が仕事として"雑誌の販売”を継続できる応援、販売者が尊厳をもって生きられるような事業の展開や応援に充てさせていただきます。販売者からの購入が難しい方は、ぜひご検討ください。
https://www.bigissue.jp/2022/09/24354/
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ビッグイシューについて
ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。
ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊450円の雑誌を売ると半分以上の230円が彼らの収入となります。