通常はホームレスの人たちが路上販売している雑誌『ビッグイシュー日本版』だが、ショップやカフェなど人の集まる場所であれば、ホームレスの人でなくともビッグイシューを販売できる「委託販売制度」がある。
新潟県・佐渡島でこの制度を利用して販売しているのが、植物のある暮らしを提案する園芸店「Silt」だ。店長の椎名智代さんに、開店の経緯や委託販売の魅力についてお話を伺った。
体を壊した経験から、園芸で人を癒す仕事に
「Silt」の店内は柔らかな自然光に照らされた鮮やかな緑が目に優しい、癒しの空間だ。店内の様子
「大学卒業後は“接客業がいいかな”と思い、飲食関係で働いていたんです」と店長の椎名さん。「ですがハードワークで身体を壊してしまって。そこからハーブや園芸療法に興味を持って、勉強し始めたらハマってしまい『庭と言えばイギリスだ!』と英国の園芸学校に入学したことが今に繋がっています」
ロンドンから帰国後は、飲食業界やガーデンデザイン会社などの園芸業界を行ったり来たり。そうこうするうちに「植物」に軸足を定め、今度は自分のお店を出すのによい場所はないかと、バックパック1つ背負って日本中を行脚。その中の一つが、佐渡島だった。
「友人が佐渡島にUターンしてお店を開くというので、訪ねたのがきっかけですね。お店に飾ってもらおうと、お花を買ってアレンジして渡したんです。すると『これ、誰が作ったの?私も欲しいんだけど』とお話をいただいて、いつの間にか仕事になっていました」と笑う。そんな人とのつながりや、自身も佐渡島の風土が気に入ったこともあり、この地での開店を決めたのだという。
日本海側の野草、ユキワリソウ
大学のゼミで培った「ストリート視点」でビッグイシューと出会う
そんな椎名さんとビッグイシューの接点は、東京で働いていたころにさかのぼる。「飲食業だった頃に、市ヶ谷で路上に立つ人を見かけて、何をしているのかなと気になったんです。赤いベストを着ているのが印象に残っていて。ネットで検索して、何をしているのかがわかってからは購入するようになりました。」しかし、大都会で販売者の前を素通りする人のほうが多いなかで、なぜ当時体を壊すくらいに忙しく働いていた彼女の目にビッグイシューが目に留まったのだろうか。
そう聞くと、大学時代のゼミが関係しているかもしれないと椎名さんは言う。
「海外のストリートで路上生活をフィールドワークにすることもあるような、『ストリート人類学』が専門の教授で。「路上から社会を見る」という視点を叩きこまれていたからかもしれません」
「ホームレスという言葉についても、教授は『“家”がないという意味では、ホームレスではなくハウスレスと呼ぶべきではないか。住む家があっても、“心安らげるホームがない”と感じている人も社会にはたくさんいる』『他者の中に自分を見つけよ』といったようなことを話されていたのが心に残っています」
店長の椎名智代さん
東京で読んでいたビッグイシュー。移住しても読めるようにと委託販売を
そして佐渡で自分の店を開いてしばらく、ある時ふとビッグイシューの存在を思い出した椎名さん。 移住した佐渡島はもちろん、新潟県にも、隣接県にもビッグイシューの販売者はいない。どうにかしてビッグイシューを読む方法はないのかと調べるなかで、委託販売制度を知り、手を挙げた。今では花苗・鉢物、サボテン・多肉・観葉植物や庭仕事に関する書籍などの間から顔をのぞかせるように『ビッグイシュー日本版』も販売されている。
緑とともに販売されている『ビッグイシュー日本版』
「『ビッグイシュー日本版』を置いていると、お客さんと会話が生まれるのがいいですよね。ここは通学路でもあるので、ビッグイシューの表紙を見て、『何これ!』って子どもたちが入ってきたりもします(笑)」
窓に貼られたポップが話題になることも
お客さんからの反応が多くあったのは倍賞千恵子さん(432号)やジョン・バティステ(433号)が表紙の号だという。また人気連載コーナー「枝元なほみの悩みに効く料理」を楽しみに買ってくださるお客さんもいるという。
「いろんな社会問題について書いているのに重くなく読めるのが魅力ですよね。“評論”ではなく現場の人の声が聞けるのも好きです」と語る椎名さん。「最近では439号の国際記事『ロシア、草原を再生し気候変動に抗う、自然保護区の挑戦』が興味深かったですね。それに438号の特集『眺め食べる「庭」時間』も、自分の仕事とも関わりがあるのでおもしろく読みました」
開店して4年目。椎名さんは自分を『ビッグイシュー日本版』の販売者と何も変わらない、と言う。
「仕入れて、販売して、利益を得る。やっていることは販売者さんと何も変わらないんですよね。というか、販売者さんの足元にも及びませんが」
最後に、「ビッグイシューを販売しようと迷っているお店があったら、どう声かけしますか?」と問うと、
「“迷ってるんだったら、しなよ!”ですね。ビッグイシューを販売するって、何のデメリットもないというか、いいことしかないのでは?内容も充実していていろんな情報にもアクセスできますし、自分のお金の使い道も意識できるし。」
と満面の笑みで力強く答えてくれた。
(文章:八鍬加容子、写真提供:Silt)
Silt
〒 952-0318
新潟県佐渡市真野新町287-2
TEL: 070-4545-4148
https://www.ashopsilt.com/single-project
ビッグイシューの委託販売制度について
https://www.bigissue.jp/sell/in_your_shop/
『販売者応援3ヵ月通信販売』参加のお願い
3か月ごとの『ビッグイシュ―日本版』の通信販売です。収益は販売者が仕事として"雑誌の販売”を継続できる応援、販売者が尊厳をもって生きられるような事業の展開や応援に充てさせていただきます。販売者からの購入が難しい方は、ぜひご検討ください。
https://www.bigissue.jp/2022/09/24354/
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ビッグイシューについて
ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。
ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊450円の雑誌を売ると半分以上の230円が彼らの収入となります。