ビッグイシュー日本の事務所は大阪と東京にあるが、それ以外の地域で『ビッグイシュー日本版』の路上販売をするならば、販売者だけがいればいいというものではない。販売者に雑誌を卸し、継続的に支援をする存在が不可欠なのだ。それを担ってくれる市民団体が全国各地にある。

九州で活動している団体のひとつが「ビッグイシューくまもとチーム」だ。この10年を振り返り、これからの貧困問題と支援活動を考えるきっかけとなるよう、「貧困をなくす活動のこれまでとこれから〜全国と熊本の現場から〜」が開催された。

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この記事では、第二部のビッグイシューくまもとチームの発表内容のエッセンスをお届けする。

雑誌の卸だけではない、生活のサポートや他団体との連携が必要

まずは「ビッグイシューくまもとチーム」のサポーター、中村さんより、これまでの活動を報告。

2008年「ビッグイシュー熊本」の名称で、2名の販売者を支える活動が始まった。同年4月に、2名のうちの1人が卒業。わずか2ヶ月後に、もう1名の販売者が活動休止となった。

中村さんは、当時について「販売者の生活面のサポートができていないことを実感しました。病気の治療が必要な方だったんですが、それに気づけていなかったんです。その後、NPO法人くまもと支援の会と連携して医療につなげました。販売者を支えるためには、雑誌を卸すだけではなく、生活面にも目を向けることや他団体の連携も必要だと思います。」と振り返る。

販売者不在となり一時的に解散するものの、路上生活者はまだあちこちにいる。残ったメンバーで『ビッグイシューを熊本で再開させる準備会』を発足。他団体のイベントや炊き出し活動に参加しながら、ビッグイシューの販売者を募り続けていた。

こうした活動が実り、2012年には継続的に販売していきたいという販売者に出会い、4年ぶりに販売が再開。

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現在まで販売を継続している中西さんが販売を始めたのは2014年のこと。以来、中西さんの販売サポートや生活面の相談などを中心におこなっている。

また、地域の支援団体と協力し、この10年で4回ほど『路上脱出SOSガイド』の改訂をおこなっている。

「“なんでん・かんでん“話せる場をつくり、寄り添い続けてきた」

ビッグイシューくまもとチームと連携している団体・NPO法人でんでん虫の会(以下、でんでん虫の会)代表の吉松さんからもお話をいただいた。

吉松さんが初めて路上生活者と関わったのは2004年のこと。以来、ホームレス状態にある方への食料配布をはじめ、これまでに200人以上の方に対して、アパートへの入居支援を行なってきたという。

しかしある時、アパート入居のサポートに関わった方が部屋で1人で亡くなる出来事が発生。発見された時には、死後2ヶ月が経過していた。

「辛いお別れでした。なんでそんなことが起きたのか。『相談すると迷惑をかけるのではないか』『自分のことは自分でしないといけない』と、遠慮してしまうんじゃないかという話になりました。入居しただけで安心するのではなくて、一人での暮らしを支える活動が必要だと。私たちは、難しいことをしてきたわけじゃない。とにかく、なんでん・かんでん(なんでも・かんでも)話を聴いて、寄りそうことが大事かなと思います。」

でんでん虫の会では、毎週のおしゃべり会や、食事会、小旅行などを企画し、一人暮らしをしている人のつながりの場づくりを継続している。

活動の継続、行政とのパートナーシップ構築のために必要なこと

吉松さんからは、この日第一部で登壇した認定NPO法人ビッグイシュー基金の共同代表と「つくろい東京ファンド」の代表を務める稲葉へこんな質問があがった。

「私たちのような地域の支援団体には大きな力があるわけではありません。どのように活動を継続させていくとよいのでしょうか。また、行政とのパートナーシップをどのようにつくっていますか?」

これに対して稲葉は、「支援団体の継続は、大きな課題だと思います。やはり、いかに多くの人たちに支えていただくかが大事。SNSの発信や、会報をつくるなど、長く関心を持っていただくための工夫や発信を継続する。また、行政との関係づくりについて、今は水際作戦も少なくなっていますが、もしそのようなことがあった場合には適切な批判や申し入れをすることが大事だと思います。ただ一方で、協力し合えることもあります。(稲葉の運営する)「つくろい東京ファンド」のある中野区では、社会福祉協議会を中心にフードパントリーなどの活動をしています。ですが、食料配布をするだけにとどまってしまわないよう、区の職員に会場まで来てもらい、民間の支援員と区の職員と一緒に対応すると『区の窓口に知っている職員がいる』と顔見知りになることで、制度の説明も説得力が増し、相談につながりやすくなる。こうした、官民が協力し合えるような取り組みも始めています。」と回答した。

販売者・中西さんの想い「ビッグイシューの販売を、長く続けたい」

ビッグイシューくまもとチーム・中村さんより、チームの紹介やこれまでの活動報告の後は、販売者・中西さんのお話のコーナー。中西さんは現在、九州唯一の販売者。販売への思いを聞いてみた。

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「ビッグイシューの内容が面白くて、販売の仕事がとても好きです。販売してよかったことは、私が販売している姿を見て読者の方が『勇気づけられる』と声をかけてくださったこと。九州では熊本でしかビッグイシューを販売していないのですが、通信販売ではなく路上で販売を続けてほしいと言ってもらったり、福岡など遠方から通ってくださるお客様と出会えたのも良かった。販売をはじめて、今年8年目を迎えました。物価の高騰やコロナ禍の影響で街の人が少なくなるなど、厳しい状況も続いていますが、長年販売を続けている販売者と肩を並べられるくらい、これからも続けていきたいと思っています。」

参考記事:販売者・中西さん「取締役からホームレス状態に。経理の知識があっても、ビッグイシューの販売者をしている理由」

記事作成協力:屋富祖ひかる

「貧困をなくす活動のこれまでとこれから〜全国と熊本の現場から〜」
2022年(令和4年)10月30日(日)14時~16時
熊本草葉町教会(熊本市中央区草葉町1-15)とオンライン(Zoom)の同時開催
主催:ビッグイシューくまもとチーム
後援:熊本市、一般社団法人熊本県社会福祉士会
協力:認定NPO法人ビッグイシュー基金、日本基督教団熊本草葉町教会


あわせて読みたい

第一部:「貧困に陥る層が多様化・拡大している」/ビッグイシュー基金・稲葉剛(ビッグイシューくまもとチームのイベントより)

「続けること」が、まだ見ぬ誰かの役に立てる/ビッグイシューくまもとチームサポーター、中村さん

『ビッグイシュー日本版』414号掲載の中西さんインタビュー記事

ビッグイシューの販売サポーター一覧
https://www.bigissue.jp/supporter/



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ビッグイシューについて

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ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊450円の雑誌を売ると半分以上の230円が彼らの収入となります。