人口流出による働き手の不足や高齢化の加速は、どの地方でも深刻な問題だ。こうした課題に対し、地域で生産したものを、人との”つながり“を通じて広げることで向きあっている店がある。秋田県大仙市にある、アキモト酒店だ。

今回は、アキモト酒店・代表の秋元浩さんに、お話を伺った。

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水俣で培った想いを受け継ぎ、地元・秋田で始めた無添加のお酒づくりと販売

秋元さんは大学を卒業後、新聞社に勤務。水俣病に関する取材をきっかけに、地域活動にかかわる人たちに心を動かされていった。

「有機水銀で汚染された水俣の海をもとに戻していこうというなかで、住民達自身が、環境を汚染させるものを使わない暮らしをしようという流れが生まれていました。水俣の漁師の人たちの中に、海で漁ができなくなった代わりに、農業で甘夏を作り始めた人たちがいたんです。」

その甘夏をつくる過程で、「化学肥料や農薬を使うのか、より自然に近い形で栽培するのか」といった議論が生まれていた。そうした生き方や暮らし方の見直しをする運動で出会った人たちから、秋元さんは『水俣に来てほしい』と言われ、水俣に移住したのが1982年のことだった。

そのまま水俣で暮らし続けるつもりだったが、2年ほど経ったところで実家の店を継いでいた兄が他界。それをきっかけに、地元である秋田県に戻り、店を継いだのだそう。

「『水俣で培った想いを受け継ぎながら、自分が生まれた地域でできることはないだろうか』と、秋田に帰ってきたのが1984年。地域で生まれるものを大事にしたいと思いました。そのために、地域でつくったお米で、地域の酒蔵がつくったお酒を中心に売っていこうと。」

アルコールや糖類などを添加した日本酒は、味が安定しやすく、低価格で製造することができる。しかし秋元さんは、地域の人口流出で農業の担い手も高齢化している中、「高度成長期の延長にはない、違ったやり方」を求めた。

「地域で生まれたものを多くの人に届けるためにできることは」と、自然に優しい形で作られた米と水と麹だけでつくった、純米酒を中心に売ることに決めたのだ。

自分だけでは完結させない。地域の人の力を借りて、商品の輪を広げる

人口の少ない高齢化の進む地域では、農業の担い手も少なく、農薬に頼らざるを得ない側面もある。すぐに地域がこのやり方に賛同して変化していったわけではないが、こだわりの酒を販売し続けることで、店のファンを少しずつ増やし、今では売上の9割が県外など遠方からの注文だという。

「最近は、有機農業を含め、自然環境を考えながら暮らしていかなければと考える人が増えているように思います。ここ10年くらいは若い人も多いので、そういう人たちと関わりながら、販売を続けています。最近では、若い農家の方が、無肥料・無農薬で栽培しているお米で、酵母以外無添加のお酒を初めてつくりました。」

お店の想いに共感する人が増えているように感じるという秋元さん。共感してくれる人や、地域の人々とのつながりについてもこう話す。

「お店を始めた私の祖父は、もともと酒蔵の支配人で、そこから独立して小売店を始めたので、酒蔵とのつながりは深いです。蔵に、有機栽培でつくったお米を入れて、特別なお酒をつくったり。うちでしか買えないお酒もありますが、私個人で独占しても広がりがない。なので、いろんなものをつくるときには、必ずいろんな人に関わってもらうようにしています。例えば、『この地域の、このお酒を売るんであれば、あの人にも関わってもらおう』とか。そういうふうに、意図的に呼びかけるようにしています。」

ビッグイシュー販売は、お店の「意思表示」だと思う

アキモト酒店では、委託販売制度を利用し雑誌『ビッグイシュー日本版』も商品の一つとして店頭販売している。

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「以前は全国にある酒蔵や農家に見学に行くことがあり、移動中に東京を経由することがよくありました。そのとき、新宿や池袋でビッグイシューを販売されている方を見かけていたんです。東北では、仙台でも見たことがありました。その度に必ず購入していて、どんな雑誌なのかも、もちろん知っていて。あるとき、仕入れた商品と一緒に『ビッグイシューをお店で売ってみませんか』という、委託販売のチラシを見て、販売を始めたのがきっかけです。」

秋田県は、ビッグイシューの販売者はもちろん、路上生活者がほとんどいない地域なため、「ホームレスの自立を応援する雑誌」と伝えてもピンと来る人は少ないという。

「SNSやブログで、特集記事などの内容と併せて『○月○日号、入荷しました』とお知らせをすると、反応をくださる方がいらっしゃいますね。アーティストや映画監督さんのお名前に反応してくださる方がほとんどですが、『ビッグイシューを取り扱っているんですね』ということで来られる方もいらっしゃいます。」

「貧困やホームレス問題、LGBTQなど、いろんな社会問題を取り扱っているなかで、『どっち側に立つんだ?』という視点が明確ですよね。『どの立場からどういうふうに見て、こういうふうに解決していきたいね』と、そうした問いかけが明確なので、うちの”意思表示”として、明確に伝えられているなと思います。」

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記事作成協力:屋富祖ひかる


アキモト酒店
〒019−1701 秋田県大仙市神宮寺162
Tel:0187-72-4047
Fax:0187-87-1020
URL http://akimotosaketen.jp/
通信販売についてhttp://akimotosaketen.jp/information.html

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https://www.bigissue.jp/sell/in_your_shop/


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https://www.bigissue.jp/2022/09/24354/



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ビッグイシューについて

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ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊450円の雑誌を売ると半分以上の230円が彼らの収入となります。