日本における同性婚制度の導入について、2023年1月、岸田首相は「わが国の家族のあり方の根幹に関わる問題であり、極めて慎重な検討を要する」と答弁した。しかし世界的には、私たちの社会に深く根ざず家父長的構造に異議を唱える動きが高まっている。男性支配が及ぼす力、反フェミニズム(フェミニズムに反対する思想や運動)、これらを打破する方法などについて、フンボルト大学の社会学者カロリン・ヴィーデマンに『サプライズ』誌(スイス)がインタビューした。
『サプライズ』誌:より公平な社会を目指す動きに対し、女性からも大きな反対勢力がある*1のはなぜなのでしょう?
カロリン・ヴィーデマン:反フェミニズムの人たちは、性別二元性(性を「男」と「女」のどちらかに分類する社会規範)を支持し、同性愛者やフェミニストたちが疑問視している“特権”を享受しているのでしょう。要は、私たちが幼い頃から“あたりまえ”と受け入れてきたものに異議が唱えられているので、恐怖心もはたらくのかもしれません。社会ではこんなふうに生きていくものと教えられ、人との関係性やアイデンティティが定められてきました。社会的な危機が迫って恐怖心が高まると、すでに確立されているものにしがみつきたくなるのでしょう。*1 #WomenAgainstFeminism のように、フェミニズムに反対する女性たちの運動も起きている。
― 最近は、反フェミニズムの声が、極右からだけでなくリベラル保守系メディアからも上がっています。ジェンダーニュートラルな言語の確立*2などを取り上げて、「フェミニズムは命令的でエリート層たちの運動にすぎない」と指摘しているようですが...。
はい、反フェミニストたちはフェミニズムは高圧的だと主張しています。しかし、彼らがこだわっている二元的(「性別とは男か女だけ」)かつ家父長的な秩序(「家族を統率・支配するのは男であるべき」)こそ暴力的かつ人々を押さえつけるもので、すべての人に平等の機会を約束するものとは程遠いと思うのですが。*2 男女の性差に偏らない言葉づかい(「サラリーマン」ではなく「会社員」、「看護婦」ではなく「看護師」、「彼」「彼女」といった代名詞の使い方の見直しなど)が奨励されている動きを指す。
― どんなふうに暴力的なのですか?
1960〜70年代の第二波フェミニズムの中で、すべての人間は平等の権利を持つとの主張が確立されました。それゆえに、差別の構造が誤解されているところがあります。たとえば女性が、家事を一切しない暴力的なパートナーと一緒に暮らすと、「(暴力を振るう側ではなく)そんなパートナーを選んだのが悪い」と女性の落ち度とみなされるのです。そして、現在のフェミニスト運動が起きているのです。ドイツの公式な調査では、女性の4人に1人が、人生で最低1回、パートナーから身体的または性的暴行を受けた経験があるとされていますし、スイスでも似たような状況です。Rosy/Pixabay
― 性的暴行の防止キャンペーンは、そんな目に遭わないためにはどうふるまうべきかなど、女性やその他のマイノリティに焦点が置かれがちです。
しかしスコットランド警察によるキャンペーン「Don’t Be That Guy(そんな男になるな)」は、男性たちに自分の行いを振り返るよう呼びかける、真逆のアプローチが取られています。 “男らしさ”を顧みるこの流れをどう見ていますか?
希望を感じますし、前進させるには必要なことです。何より、ハッと驚かされるのは男性たちなんです。男性としての適切なふるまいとは? つまり、何が男性を暴力的にさせるのか、女性を見下す態度とはどういうことなのか、そこに思考の偏りはないかなどを検討する必要があります。私たちが開催しているワークショップには、フェミニズムを学ぼうと若い男性たちが来てくれます。会議でどれだけ大声を上げているか、地下鉄の車内や会議室で足を広げて座っているか、女性をじろじろ見ているかなど、自分たちのいつもの行動を振り返り、どんなところを変えていけるかを考えています。
― ケアワークも“女性らしい”ものとされ、過小評価され、無償で行われています。
19世紀にブルジョワ社会が出現したことで性別二元性が確立され、人間を「男性」「女性」という2つのグループに分類し、両者の性質は異なるとされました。今日でもなお、一定の特徴が性別に帰属するものとされています。つまり、社会の中で「男性らしい」とされる者は、成果主義、合理的、そのため公的・政治的な仕事に向いていて、「女性らしい」とされる者は、共感性が高く、人の面倒を見るのが得意、そのため子どもや夫の世話に向いていると。これらの特性からも、二元的で男性支配の秩序が、いかに資本主義社会の発展と密に関連しているかが分かります。今日でも、資本主義は性別二元性を拠り所とし、女性たちを利用しています。要は、資本主義とは、搾取を基に利益を生み出すものなのです。そして搾取されやすいのは、差別されている人たち。移民の女性は、白人で異性愛者の金持ち男性よりもはるかに搾取されやすいわけです。
― 資本主義と父権主義のつながりを理解するには、国家主義的な枠組みも考慮に入れなければならない、と著書の中で述べられていますね。
資本主義国家には、国境内に生きる自国民を養うための“資本主義的な”生産方式が必要で、このシステムを維持し、適切な労働力を再生産するために、中流の核家族を必要とする。むしろ、このシステム自体が父権主義的ともいえます。― 同性婚に反対する人たちは、男性・女性というジェンダー秩序が破壊され、家族のあり方が揺らぐと主張しています。この議論をどう見ていますか?
結婚という家父長的な制度に比べて、「結婚の自由をすべての人に」はまだ道半ばの取り組みです。しかしこれからは、男女の恋愛以外の、人間関係のオルタナティブなかたちが、社会的にも法的にも認められるべきです。従来の核家族では、女性が家事や子育ての大半を担ってきました。妻も外で働き、夫よりも稼いでいる場合であってもです。ところが、フェミニスト志向の家庭や関係性においては、ケアワークについて話し合い、従来とは異なる分担がされます。誰が台所を掃除するのかは、従来のパターンを壊し、どちらがどのくらい“ケア”するのかを示す話し合いなのです。
カロリン・ヴィーデマン photo: Simon Martin
カロリン・ヴィーデマン公式ページ(ドイツ語)
https://carolinwiedemann.com
Interview by Giulia Bernardi
Translated from German by Enoch Ayodele via Translators without Borders
Courtesy of Surprise / International Network of Street Papers
あわせて読みたい
THE BIG ISSUE JAPAN448号特集:フェミニズムの来た道
https://www.bigissue.jp/backnumber/448/
・女子に笑顔を強要する“空気”は、ジェンダーの構造的問題を個人の問題にすり替えがち
・フェミニズムの対極「トラッドワイフ」、支持者は余裕のある層?コロナ禍で仕事を失う女性たちの影響が深刻
・多様な家族を認めない「憲法24条」改憲案。育児や介護の負担増、結婚・離婚も不自由になる?!― 山口 智美 さん
*ビッグイシュー・オンラインのサポーターになってくださいませんか?
ビッグイシューの活動の認知・理解を広めるためのWebメディア「ビッグイシュー・オンライン」。
ビッグイシュー・オンラインでは、提携している国際ストリートペーパーや『The Conversation』の記事を翻訳してお伝えしています。より多くの良質の記事を翻訳して皆さんにお伝えしたく、月々500円からの「オンラインサポーター」を募集しています。
ビッグイシュー・オンラインサポーターについて
『販売者応援3ヵ月通信販売』参加のお願い
3か月ごとの『ビッグイシュ―日本版』の通信販売です。収益は販売者が仕事として"雑誌の販売”を継続できる応援、販売者が尊厳をもって生きられるような事業の展開や応援に充てさせていただきます。販売者からの購入が難しい方は、ぜひご検討ください。
https://www.bigissue.jp/2022/09/24354/
過去記事を検索して読む
ビッグイシューについて
ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。
ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊450円の雑誌を売ると半分以上の230円が彼らの収入となります。