家庭内暴力に苦しむ専業主婦にとっては、「暴力に耐える」か「家を出る」かの二択になりがちだ。そこでビッグイシュー・オーストラリアでは、路上での雑誌販売と並行して、ホームレス状態の女性支援「ウィメンズ・ワークフォース(Women’s Workforce)」という事業を行っている。事業内容や成果について、マーケティング責任者のシモネ・ブサヤに話を聞いた。
「路上で雑誌販売をする以外の仕事を」と2010年に誕生
家を失い、社会の片隅に追いやられている女性たちに、路上での雑誌販売以外の雇用を提供できればと、2010年に創設された事業です。以前は「ウィメンズ・サブスクリプション・サービス」という名前で、2000人以上いる定期購読者たちに届ける雑誌の発送作業を隔週で行い、収入を得られるしくみでした。その後、事業を拡大させ、いまでは外部組織の社会事業の支援もしています。現在、国内4つの州で実施しています。ウィメンズ・ワークフォースで働くリン Courtesy of The Big Issue Australia
一般企業が社会的事業に発注する「社会的調達」の形
「ウィメンズ・ワークフォース」が提供するのは、他とは一味違うB to B(Business to Business) サービスです。人生の憂き目にあい、ホームレス状態にある女性たちに、仕事やスキルアップ訓練など人生を立て直すチャンスを提供する。そうすることで経済的自立を促し、明るい未来を思い描けるようにするのです。経済的な力をつければ、自身にも家族にも、より多くの選択肢を持つことができます。企業がビッグイシューのような社会的事業からサービスを購入することを「社会的調達 (social procurement)」といいます。サービス購入によって商品やサービスが提供されるだけでなく、社会的に前向きな成果をもたらすことができます。企業のサプライチェーンや日常業務に組み込むことで、簡単かつ効果的に“即効的な社会的影響”を与えられる方法だと思います。
4万6千人以上の女性が安心して過ごせる家がないオーストラリア
昨今のオーストラリアでは、毎晩、4万6千人以上の女性が、安全かつ安定した住まいがない“ホームレス状態”にあります(総人口は約2,500万人強)。女性が家を失うのには諸事情がありますが、その大きな原因となるのは家庭内暴力で、つらい目に遭っているのは圧倒的に女性や子どもたちです。なかでも、高齢女性のホームレス化が顕著です。2016年度の国勢調査によると、ホームレス状態にある人は11万6,427人と2011年度調査より14%増だったのですが、55歳以上の女性に限ってみると6,866人と31%増で、他の層よりも約2倍の増加率でした。実に深刻な状況です。
また女性は、路上での雑誌販売が難しいケースもありますから、ウィメンズ・ワークフォースのような柔軟で安定した労働環境の提供が意義を持つのです。
ウィメンズ・ワークフォースで働くルー Courtesy of The Big Issue Australia
「ウィメンズ・ワークフォース」で190人以上を雇用、路上脱出の足掛かりに
事業開始から190人以上の女性を雇用し、社会の片隅に追いやられたホームレス状態の女性たちに、柔軟で働きやすい環境を提供してきました。発足当初から関わっているメンバーもいれば、ここでの仕事をバネとして本格的な仕事に移っていった人もいます。元メンバーのオリヴィアは、今は大手銀行でフルタイムの仕事に就いています。女性たちが新しいスキルを学び、自信をつけていく姿を目にできるのは、この事業の何よりの成果です。Interview by Tony Inglis
Courtesy of the International Network of Street Papers
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https://www.bigissue.jp/2022/09/24354/
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ビッグイシューについて
ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。
ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊450円の雑誌を売ると半分以上の230円が彼らの収入となります。