カナダ・サスカトゥーン市(サスカチュワン州)にあるシャーブルック・コミュニティセンターでは、介護施設の入居者ハーブ(69歳)が小学6年生の生徒たちからファンキーなTシャツを贈られ、大いに盛り上がっている。ハーブと子どもたちは時間をかけて、関係を築いてきた。
以下は2023-07-25に公開された記事を加筆・編集したものです。
生徒たちから誕生日プレゼントをもらった介護施設の入居者ハーブ。(著者提供)
カナダでは2010年より、老若間で広がるギャップを縮めることを目的に、6月1日を「世代間交流の日」としている。高齢者と若者では、倫理的価値観、政治的見解から音楽の趣味まで、さまざまな点で大きな違いがあることは、だれもが感ずるところだろう。「世代間交流の日」には、そんな両世代が交流することで、お互いがどんなことを学び、何を得られるかを再確認しようとのねらいがある。サイモンフレーザー大学社会心理学の博士課程の学生ジェイソン・プルーらが『The Conversation』に寄稿した記事を紹介したい。
高齢者施設で小学生が高齢者と勉強するプログラム
筆者たちは3年前から、世代間交流のメリットについて調査を行ってきた。顕著だったのは、サスカトゥーン市のシャーブルック・コミュニティセンターで実施されている「iGen」という多世代学級プログラムだ。同市の公立小学校に通う6年生から25人が選ばれ、同センターにて、介護施設の長期入居者「エルダーズ」と交流しながら通常カリキュラムを学ぶというものだ。世代間が違いを乗り越えて有意義な関係性を築きやすくするiGenプログラム。 (Shutterstock)
「エルダーズ」とは、入居者の人生経験による知恵を称えた、エデン・オルタナティブ*1で用いられている呼称だ。毎日、生徒たちは、読書、絵画、ゲーム、おしゃべりをしながらエルダーズと交流する。こうした関わり合いを重ねることで、対話や真の友情を育みやすくなる。
*1 老人ホームで暮らす高齢者を悩ませる「孤独・無力感・退屈」に向き合い、生活の質向上を目指して提唱された考え方。
高齢者とかかわりを持った生徒のほうが幸福感が高かった
2020年のiGenクラスに参加した生徒たちに、自分たちの経験について語り、自らの幸福度を評価してもらったところ、非常に高い評価が得られた。人生の満足感や自尊心など、幸福度調査の各項目で高い点数をつけ、介護施設の入居者たちと有意義なつながりを形成することが幸福感と相関があることが明らかとなった。これらの結果は、社会的関係の構築が幸福感の重要な源とする数多くの先行研究とも一致する。では、生徒と高齢者がどのようにして有意義な関係を築くことができたのか。調査からは、とにかく一緒に時間を過ごすことの重要さが浮き彫りとなった。高齢者と過ごす時間が長い生徒ほど、世代間交流の経験をより意義深いと答えていたのだ。
世代を超えて、有意義なつながりや友情が育まれることも少なくない。(著者提供)
年代を問わず孤独感が広がり、メンタルヘルスへの影響が懸念されている昨今、世代間のつながりはとりわけ重要なとなってくる。実際、カナダでは5人に1人の若者が精神疾患に悩み、米国では悲しみや絶望感を抱く若者の数が過去10年間で40%増加しているとのデータもある*2。その一方で、多くの高齢者が幸福感を持てず、全世界の高齢者人口の約7%がうつ病に苦しんでいるとされている。
*2 Kids’ mental health is in crisis. Here’s what psychologists are doing to help
2022年の「世界幸福度報告」によると、コロナ禍による長い断絶の後でも、人々は孤独よりも社会的なつながりを感じているという。社会的なつながりを感じられることは、より大きな幸福感を得るための大きな一助となるので、これは希望の持てるデータであり、今後さらに、世代を超えた社会的つながりを育んでいく必要性を物語っている。
若者と高齢者の距離は広がる一方と思われがちだが、iGenのようなプログラムがあれば、両者の間で貴重なつながりを築けることが証明された。こうした関係づくりを大切にすることで、年齢や能力といった社会的隔たりを飛び越え、この社会に暮らす人々をより幸せにするきっかけとなるのではないだろうか。
iGen Program(YouTube)
著者
Jason Proulx
PhD Student, Social Psychology, Simon Fraser University
John Helliwell
Professor Emeritus, Vancouver School of Economics, University of British Columbia
Lara Aknin
Distinguished Associate Professor of Psychology, Simon Fraser University
※本記事は『The Conversation』掲載記事(2023年6月1日)を著者の承諾のもとに翻訳・転載しています。
日本の事例)
はっぴーの家ろっけん
〝遠くのシンセキより近くのタニン〟の多世代型介護付きシェアハウス。(兵庫県神戸市)
日本でも地域の人のためにボランティアした中学生にポジティブな反応が見られた例がある。(大阪府阪南市「子ども福祉委委員」)
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