気候変動が人間の健康におよぼす影響への懸念が高まっている。WHO(世界保健機関)は、気候変動による死者は毎年25万人に達すると予測、うち4人に1人は「回避可能な環境的要因」による死になるとされている。直接的な健康被害をおよぼす事象とは、大気汚染、洪水、干ばつ、暴風雨、異常熱波、森林火災などである。
2023年末にドバイで開催された COP28(第28回気候変動枠組条約締約国会議)でも、健康に焦点をあてた気候変動対策への資金調達を増やすべく、初めて「健康の日」が設けられた。このような健康面での対策には現状、適応基金* 1 の2%、気候変動対策基金の0.5%しか充てられていない。「気候変動と健康被害」について知っておくべきこととはーー。
*1 発展途上国における具体的な地球温暖化対策に資金供与することを目的に、京都議定書に基づいて設立された基金。
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気候変動による健康面への影響
気候変動がさまざまな健康問題を悪化させている、と世界各地の医療専門家が警鐘を鳴らしている。健康被害には、熱波による死、森林火災による負傷といった「直接的」なものもあれば、洪水などの異常気象と関連した疾病の増加といった「間接的」なものもある。気温や降水パターンの変動が激しくなると、水を媒介とする感染症(コレラなど)が深刻化するおそれがあり、水が淀むことで蚊が媒介する病気(マラリアやデング熱など)の蔓延も助長される。長引く干ばつなどによってもたらされる栄養不良も、人間の健康に打撃を与えるだろう。『ランセット・プラネタリーヘルス』誌で発表された研究では、化石燃料の燃焼に起因する大気汚染が世界全体で年間650万人以上の死亡を引き起こし、その数は増え続けているとしている。
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気候変動は、新型コロナウイルスのようなウイルス性疾患の大流行を起こす可能性をも高める。森林破壊が進み、人と野生動物の接触が増えると、その可能性はさらに増大する。また、地球温暖化によって引き起こされる貧困、移住、食料不安は、メンタルへの悪影響をもたらしやすくする。
健康被害を受けやすい人たちを守るための投資を
「気候変動による健康被害を最も受けやすいのは、社会から疎外された人々や貧困に苦しむ人々です。関連リスクを軽減、適応するリソースやインフラを十分に持てないことから、健康に悪影響を受けやすい不利な立場にある」と世界医師会のルジャイン・アルコドマニ会長は指摘する。激しさを増す異常気象が子どもたちの栄養不良率を高める事例が、中米グアテマラのチキムラ県などで確認されている。栄養不良の子どもは、生涯を通じて病弱になるリスクがある。持病や障害がある人、低所得者など何かしらの理由で弱い立場にある人々もリスクが高い。南スーダンなど妊産婦死亡率の高い貧しい国では、熱波などの異常気象によって、流産や死産、低体重児の出生リスクが高まっている。
医療へのアクセス向上に投資する必要性がある、と専門家たちは口を揃える。「生まれた時からできるだけ健康でいられるようサポートできれば、どんな状況に置かれても、しなやかに、かつ適応力をもって対応しやすくなります」と世界気候・健康同盟のジェニ・ミラー事務局長は話す。
健康被害を防ぐうえで大切なこと
状況を改善するには、化石燃料の段階的廃止、再生可能エネルギーの導入、および自然の回復や持続可能な農業を推進するプログラムの実施が不可欠である。医療システムとしては、データをもとに災害時に備えた計画と準備をすすめ、気候変動への耐性を高め、増大する健康リスクに対応できるだけの資金、施設、人材を確保することが求められている。現実的な対策として、政策立案者や一般市民を対象とした啓発活動が挙げられる。バングラデシュでは「蚊の脅威を撃退する」キャンペーンを実施し、蚊が媒介する病気に対する人々の意識を高めている。各国が気候変動による健康問題についての議論を盛り込んだ行動計画を立てることの大切さをミラーは訴える。そして、政策立案に地域社会を巻き込んでいくことも、レジリエンス(強靭性)を高め、確かな結果を出すうえで不可欠だという。「多くの人々を巻き込み、皆が自分ごととして考え、能力を発揮していくことが、本当の意味で自分たちの身を守ることになるのです」
By Axelle Rescourio
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