有限会社ビッグイシュー日本やNPO法人ビッグイシュー基金では、ホームレス問題や貧困問題、ビッグイシューの活動への理解を深めるため、企業や学校から依頼を受け、講義をさせていただくことがあります。

今回の行き先は、「京都大学ソーシャル・コミュニケーションデザイナー養成講座」。有限会社ビッグイシュー日本の大阪事務所長・吉田耕一とNPO法人ビッグイシュー基金スタッフの野村、販売者のY・Tさんがゲストスピーカーとして、そして販売者の山田さんが会場での雑誌ブース担当として、お伺いしました。


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前列左から 末長さん、事務局の紙本さん、渡邉さん
後列左から ビッグイシュー基金・野村、販売者の山田さん、Y・Tさん、ビッグイシュー日本・吉田

「対話やコミュニケーションを阻害するもの、それを解決するためのデザインとは?」を学ぶ講座

今回ご依頼くださったのは、京都大学経営管理大学院の蓮行特定准教授と、末長英里子特定助教。企業の人事担当や教育にかかわる方など「対話やコミュニケーションを持続可能なものにしたい」という課題意識のある社会人向けの講座として、
  • いま、社会のなかで見えにくくなっている問題はないか
  • コミュニケーションが阻害されてしまっているところはないか
  • そうした課題の解決に向かうための「仕組み」をどのように構想するか
などを考える機会として設計されました。第1期となるこのプログラムに、ビッグイシューはホームレス状態の人々に「救済」ではなく「仕事」を提供して自立を応援するビジネスであること、また有限会社とNPO法人の両輪で当事者を支援する「仕組み」について話してほしいとお声がけをいただきました。

有限会社とNPO法人で、どう当事者を支える仕組みを作ってきたか

第一部では、有限会社ビッグイシュー日本の大阪事務所長・吉田耕一がホームレス問題の歴史・構造、そしてビッグイシューの事業の仕組みや課題、また、ビジネスとしてどうにか成り立たせようと奮闘してきた有限会社として、20年間の苦労やリアルな収支状況についてシェア。

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参加者は経営者、人事担当、教育関係者、フリーランスなどの社会人。皆さん熱心な様子でした。

第二部ではNPO法人ビッグイシュー基金の野村拓馬が、困窮者の生活自立応援、市民参加のための事業、ネットワークと政策提案の3つを行う背景や事例について、担当者ならではの気持ちやエピソードも交えてお伝えしました。

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何かと「自己責任・実力主義社会」と言われがちな現代ですが、じつは「努力」というものは、その環境(場所・時間、経済状況、健康など)に恵まれていて初めてできるということが忘れられがちです。有限会社ビッグイシュー日本も、NPO法人ビッグイシュー基金も、そもそも努力がしづらい環境にあった方々が自己責任とされる不条理に抗う活動―そのメッセージを受け止めて、うんうんとうなずく方、メモを取る方など、参加者の皆さんはとても熱心に聞いておられる様子でした。

普段接点のない人の生い立ちや、人生を変えた出来事から学ぶ

第3部は、ホームレス経験のあるJR高槻駅の販売者Y・Tさんが語る時間です。

トラック運転手の父親と食堂で働く母親の元に生まれ、本が大好きな子どもだったY・Tさんは、ゆっくり、そしてときに声を詰まらせながら、これまでの人生のターニングポイントを振り返ってくれました。

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中3の時、母親の突然の病死をきっかけに父親の心が壊れ、親子関係が悪化したことで、一人で生きていこうと決めたこと。
音楽の道に進みたくて、単身で上京し新聞奨学生として働きながら専門学校に進学するも、これからというときに父親の自殺未遂で地元に帰らなくてはいけなくなったこと。
地元のフランチャイズ店勤務を経て就いた建築関係の仕事は17年続いたものの、社長の代替わりによる意見の衝突で辞職し、派遣の仕事に就くことになったこと。
一緒にバンドを組んでいた友人が東日本大震災で行方不明になってしまい、東北へ向かい復興の仕事をしながら必死で探し続けたこと。
そして、派遣現場で不慮の事故が起こり、ケガで仕事が続けられなくなってしまったことー。

そうしてネットカフェや簡易宿泊所(ドヤ)を利用するようになり、いよいよお金が尽きかけたとき、本好きだったY・Tさんはかつて書籍『ビッグイシューの挑戦』を読んだことを思い出し、ためらいつつもビッグイシューの事務所に連絡。2020年にビッグイシューの販売者となりました。

初めて販売者として路上に立った日のことを振り返って、Y・Tさんは、「めちゃくちゃ恥ずかしかったですよ。赤い帽子で、赤いベストを着て。これがビッグイシューなんだ…と」と苦笑しました。

しかし、今では様々なお客さんとのやりとりを通して「路上からこんなに“世界”を見られるというのは、宝物」と語るY・Tさん。これまでのどの仕事よりも、やりがいがあって楽しいと話します。

Y・Tさんはコツコツと販売を続けてお金をため、基金の「おうちプロジェクト2」の補助*もあり、とうとう自分名義の住所を得ることができました。今年は確定申告をすることもできたと言います。

*NPO法人ビッグイシュー基金の住宅支援事業。 https://bigissue.or.jp/2023/11/23110201/

「ビッグイシューの雑誌には(物理的な)厚さがないけれど、それは広告がほぼないから。それだけに企業に忖度せず、ストレートにモノが言えている。この雑誌が、ぼくはおもしろくてしかたがない。毎月、1・15日に出るこの雑誌を、一人でも多くの人に読んでほしい。それが、販売者を続けている理由です」と熱く語りました。

雑誌の「6分間リーディング」が新たな視点や気付きをもたらす

この日は講座の狙いを踏まえてコミュニケーションやクリエイティブ、デザインに関心のある方におススメの雑誌『ビッグイシュー日本版』のバックナンバーをご用意。参加者の方々には、1冊好きなものをプレゼントします。販売者の山田さんが「この号の特集は…」とそれぞれの方におススメしながら雑誌を紹介していました。

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各参加者は自分の興味のある号を読み込み、グループで感想をシェア。対話やコミュニケーションのしくみづくりを学ぼうとする方々とあって、記事に登場する人物やエピソードの背景に思いを馳せ、深く理解しようとしておられるようでした。

「世の中にいろんな人がいるんだなぁ。原体験をもとに、持ってたものが広がっていって、行き着くところがあるんだなと感じた」(468号:特集「廃屋DIY」)

「『人は分からないものをすぐに分かろうとしてしまう』という一節がグサッと刺さった。分からないことを楽しむという考え方はとても新鮮で面白かった」(476号:特集「ネガティブ・ケイパビリティ」)

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「ロボットは、本来人間が持ってない力を増幅させる、完璧なもの、助かる側なはずが、 完璧なものに囲まれてしまうと居心地が悪いから、「弱い・できないロボット」を開発した方の開発話を読んで、コミュニケーションとは、ということについて考えさせられた。不完全だからこそ、助け合えるのだと…」(464号:特集「わたしたち、弱いロボット」)

など、各グループのあちらこちらで「へえ!」「意外やなあ」「なるほどー」「腑に落ちた」「興味深い」などの、新たな視点を得た喜びの声が上がっていました。

主催者:「20年活動を継続してきた、そのリアルな声が刺激的でした」

ありがたいことに、参加者の8割近くに「とてもわかりやすかった」との感想をいただいた今回の講座。
アレンジしてくださった京都大学経営管理大学院の末長英里子特定助教からは、「“ファシリテーションの仕組みをどう作るか、どう視野を開いていくか”を見せていただいたように思います。また、実際の活動をするとなると、赤字も含めていろんな課題もあり、それをどう対処したのか、また、世界ともネットワークのある組織ということも、受講者の皆さんの刺激になったと思います」との感想をいただきました。

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京都大学ソーシャル・コミュニケーションデザイナー養成講座
https://art-cd.gsm.kyoto-u.ac.jp/scd/

※末長助教は、多様性を尊重し、そしてそれを活かせるような組織づくりを考える「京都大学コミュニケーションデザインとDE&Iコンソーシアム」にも関わっておられるそう。

2024年7月22日(月)には「アート×福祉×DE&I」をテーマとしたイベントが開催されるようです。
https://art-cd.gsm.kyoto-u.ac.jp/dei/event_crossover240722/


格差・貧困・社会的排除などについて出張講義をいたします

ビッグイシューでは、学校その他の団体に向けてこのような講義を提供しています。
日本の貧困問題、社会的排除の問題や包摂の必要性、社会的企業について、セルフヘルプについて、若者の自己肯定感について、ホームレス問題についてなど、様々なテーマに合わせてアレンジが可能です。

 

小学生には45分、中・高校生には50分、大学生には90分講義、またはシリーズでの講義や各種ワークショップなども可能です。ご興味のある方はぜひビッグイシュー日本またはビッグイシュー基金までお問い合わせください。
https://www.bigissue.jp/how_to_support/program/seminner/ 



参考:灘中学への出張講義「ホームレス問題の裏側にあること-自己責任論と格差社会/ビッグイシュー日本」



人の集まる場を運営されている場合はビッグイシューの「図書館購読」から始めませんか

より広くより多くの方に、『ビッグイシュー日本版』の記事内容を知っていただくために、図書館など多くの市民(学生含む)が閲覧する施設を対象として年間購読制度を設けています。学校図書館においても、全国多数の図書館でご利用いただいています。

図書館年間購読制度 

※資料請求で編集部オススメの号を1冊進呈いたします。
https://www.bigissue.jp/request/ 




『販売者応援3ヵ月通信販売』参加のお願い
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3か月ごとの『ビッグイシュ―日本版』の通信販売です。収益は販売者が仕事として"雑誌の販売”を継続できる応援、販売者が尊厳をもって生きられるような事業の展開や応援に充てさせていただきます。販売者からの購入が難しい方は、ぜひご検討ください。
https://www.bigissue.jp/2022/09/24354/



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ビッグイシューについて

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ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊450円の雑誌を売ると半分以上の230円が彼らの収入となります。