大人は子どもに社会性を身につけ、道徳的なふるまいをしてほしいと考える。だが、単に「他人に優しくしなさい」と言い聞かせるだけではうまくいかない。共感力の高い人になってほしいのなら、まずは子どもに、自分は理解されている、支えられていると感じられる実体験を与えることが大切だ。
 

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親が共感力をもって10代の子どもに接すれば、その子どもも共感力を育みやすくなる。また、思春期の頃に友達に共感力を示し、手助けできる子どもは、その後、共感力の高い親となり、さらには自分の子どもの共感力をも育みやすくなる。米バージニア大学で実施されている25年以上に及ぶ長期プロジェクトについて、同大学心理学のジョセフ・P・アレン教授らが『The Conversation』に寄稿した。

共感力について20年以上に及ぶ長期研究

米バージニア大学で実施されている長期プロジェクト*1では、184人の青少年を25年以上にわたって(13歳が30代なるまで)追跡調査してきた。1998年から毎年、被験者に親および親友同伴で大学に来てもらい、その会話をビデオに記録。13歳の子どもが手助けを必要としたときに、母親がどれだけ共感力を示したかを観察した。共感力の測定にあたっては、母親がどれだけ会話に関与しているか、子どもが直面している問題を正確に理解しているか、どれくらい精神的にサポートできているかで評価した。

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3世代で共感力がどう伝授されるかについての長期にわたる追跡調査 Morsa Images/DigitalVision via
Getty Images


*1 「Kids, Lives, Families, Friends(KLIFF)プロジェクト」、および「Virginia Institute for Development in Adulthood(VIDA)プロジェクト」

その後、その子どもが19歳になるまで毎年、親しい友達に対して同じような共感力ある行動を示したかどうかを観察。さらに10年後、一部の被験者は子どもを持つようになっていたため、子育ての様子についても調査し、幼い子どもが共感力を示しているかどうかについても尋ねた。子どもがどれくらい「他の人の気持ちを理解しようとしているか」「他の人をなぐさめようとしているか」などを評価してもらった。

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10代の頃の友達関係は、親になったときの子育てにも影響するくらい重要な意味を持つ。 Maskot/Getty Images


その結果、最初の調査時に母親が13歳の子どもに共感的であればあるほど、その子どもも思春期を通じて親友に共感力を示す傾向があり、そして、思春期に親友により共感力を示していた人は、自らもより共感力のある親になとなり、その被験者の幼い子どもも共感力を示す傾向にあった。

なぜ共感力が重要なのか

大人になってから良好な人間関係を築くにも、意見の衝突を解決するにも、暴力犯罪を阻止するにも、十分なコミュニケーションスキルをもってより満足いく人間関係を築くにも、共感力の育成が基盤となることがさまざまな研究で明らかとなっている。思春期のあいだに他人に共感する能力を身につけられるかどうかは非常に重要なのだ。

また子どもに必要なのは、共感力を発揮し、スキルに磨きをかけられる機会が与えられることである。思春期の友達関係は、共感力などの社会的スキルを身につけるうえで重要な「実践の場」となろう。そこで培った他人の苦しみへの適切な対処法、ならびに人を支える能力が、親になったときにも活きてくる。今回の調査結果は、思春期に支え合える友達づきあいがあるかどうかは、将来の子育てにも重要な意味を持つことを示唆している。

今後も調査を継続し、長期的な影響を探る

今後も被験者への追跡調査を続け、思春期の頃の親や友達との関わりが、当人たちの子どもにどんな影響を与えうるのかを明らかにしていきたい。また、共感力の欠如、攻撃性、不適切な育児を親子間で引き継がないようにするにはどうしたらよいかについても突き止めていきたい(例:共感力のある友達がいれば、家族からの共感力の欠如を補えるなど)。

子どもは家族を選ぶことはできない。だが、友達を選ぶことはできる。お互いに理解し、助け合える友情を育むよう子どもを後押しすれば、次世代にまで影響する長期的な波及効果を期待できるかもしれない。

筆者らによる論文
Empathy across three generations: From maternal and peer support in adolescence to adult parenting and child outcomes

By Jessica A. Stern and Joseph P. Allen
Courtesy of The Conversation / INSP.ngo



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