<前編を読む>
実際に各地のNPOバンクがこれまで融資してきた先をざっと見てみよう。太陽光パネル設置、風力発電、フェアトレード、ホームレス支援、高齢者福祉、リサイクル、社会起業家支援……。そのどれにも共通するのが「社会的リターン」の要素だ。
ちなみにこうしたNPOバンクに加え、融資ではなく投資を行っている「市民投資ファンド(※1)」、多重債務者救済などを行っている非営利の市民金融などを総称して「金融NPO」と呼ぶ。もしあなたがNPOバンクの融資先なんかを見て「こういう良い活動なら自分もなにかしたい」と思ったら、こうした金融NPOにお金を出すというのもひとつの新しい社会貢献だ。
ただここで二つほど注意しておきたい点がある。一つは、NPOバンクという名前がややこしいせいだけど、私たちはNPOバンクにお金を「預ける」ことはできない。つまり預金はできないのだ。もしあなたがNPOバンクにお金を出すとしたら、それは「出資」というかたちになる。NPOバンクはそうした出資で集まった資金を運営して、さまざまな事業や活動に融資を行う。
もう一つは、あなたが出資したお金は基本的に払い戻されるということ。そこが寄付や募金と異なる点だ。そのためにお金は無担保・低利子などで貸し出されるが、お金を借りる側はきちんとそれを返済する責務を負う。またNPOバンクの側はきちんとお金を返してもらうために、あらかじめ融資先の事業性を厳しく審査した上で貸し出しを決定しなければならない。
お金に込められる「意志」の力:地域をこえた金融NPOのネットワークが必要
それでもお金が返ってこない、いわゆる「焦げつき」のリスクはどうしても残るだろう。そこで重要になってくるのがお金に込められる「意志」の力だ。
「もちろん焦げつかないほうがいいんだけど、焦げついたとしても、それは自分の意志によってあの人、あの活動に賛同したんだからと、お金の出し手が納得するかたちの融資をしましょうということです。お金の貸し手と借り手がそこまでコミットしていくのです。このやり方はすべてのNPOバンクに共通すると思うんです」
逆をいえば、これまで私たちはお金の預け先に関してあまりに無防備だったのかもしれない。郵便貯金やメガバンクに預けたお金がその後どのように使われているか、あなたは想像したことがあるだろうか? ある指摘によれば、私たちの預貯金は戦争や環境破壊を手伝っており、そのことに対する問題意識から顔の見える融資の必要性=NPOバンクが生まれたという実例もある(※2)。政府だって金融再生や不景気からの脱却をうたうわりには、公共福祉のためにお金をあまり割こうとはしない。
そんなことにお金を使われてしまうならば、もっと自分たちの手で、世のため、人のためになるようなお金を運営していこうと金融NPOは誕生したのだ。
そうした意味合いで、日本には中世の頃より頼母子講という「助け合い」の文化があったことを藤井さんは指摘している。頼母子講とは、庶民が資金を互いに持ち寄り、無利子・無担保で融通しあった伝統的な「非営利金融」のこと。NPOバンクはまさに頼母子講の現代版ともいえる。
「だから血縁でなくてもそういう信頼関係は築けるわけなんですよ。それはまさに経済的リターンじゃなくて、お互いに社会のためにお金を回そうじゃないかということです。自分が持っているお金もわずか、相手が持っているお金もわずか。でも10人寄れば10人分のお金がある。これを苦しいときにどなたかに貸しましょうねと。大事なことはそういう人間関係を再構築していくことです。現代社会には現代社会の道具立てがやっぱりいるわけで、NPOバンクがその仲介をしていく。日本は講のような社会をすでに捨ててしまいましたが、バブル崩壊の十数年のなかで営利の金融機関だけではお金が回らないということにようやく気づいたわけですよ」
これからは、東京で集まったお金を新潟に貸し出せるような、地域をこえた金融NPOのネットワークが必要になると藤井さんは話す。そして実績を積み重ねることによって、市民との信頼関係だけでなく、民間金融機関との信頼関係を勝ち取り、そこから営利のお金も引き込むことができればベストだと期待を寄せた。
まだまだ走り出したばかりの日本版金融NPO。大きく育てるためには、お金だけでなく、多くの人の信頼と意志が必要とされている。
(土田朋水)
Photo:高松英昭
※1 市民投資ファンドの一つに「おひさまファンド」がある。
※2 「未来バンク」の組合理事長を務める田中優氏は、未来バンク設立のきっかけとして郵貯に対する問題意識があったと語っている。詳しくは、田中優著『戦争をやめさせ環境破壊をくいとめる新しい社会のつくり方』合同出版、参照。普通の銀行は営利を考えNPOバンクは市民事業を育てる
ふじい・よしひろ
1949年生まれ。上智大学地球環境学研究科教授。日本経済新聞社に72年入社。編集委員を担当していた05年に「金融NPO」をテーマにした連載記事を執筆。著書『金融NPO』(岩波新書)では国内のみならず海外での豊富な事例を報告した。