(2008年9月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 第102号より)

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働く者の不幸を深めた、日本特有の雇用慣行



「不幸な偶然」と「不可逆的な趨勢」によって日本経済がドラスティックに変化する一方、日本は社員を大事に抱え込む従来の日本的雇用モデルを一部に温存したまま、それを補うかたちで外部に両極端ともいえる膨大な非正社員の世界をつくり出した。本田さんは、この3つ目の日本特有の問題が、日本の働く者の不幸を一層深める要因になった、と指摘する。

「つまり、日本の正社員と非正社員というのは、まったく違った原理で成り立っている別世界なわけです。たとえば日本の正社員は、自分が専門的に担うジョブがはっきりしておらず、雇用された途端に、企業に与えられた包括的人事権によって転勤や職種転換など、自由に動かされる立場にあります。これを『メンバーシップwithoutジョブ』と呼んでいるんですが、雇ってもらってメンバーに入れてもらう代わりに、何でもしますという状況です。そのことが、長時間労働や過重なノルマによって、精神が病むほどに働かされる原因にもなっています。

一方、非正社員はこれとは正反対の『ジョブwithoutメンバーシップ』になっている。その人が担うべき固定的なジョブは一応あるが、そのジョブは、たとえば工場労働で未加工の部品を出したり、入れたりするような、もうジョブにも値しないような単調な作業であって、そこからスキルの幅を広げたり、難しい仕事にステップアップしていくような配慮はなされないんです。つまり、ジョブはあるが、メンバーシップはないに等しい。まるで機械のアーム1本のような扱い方をされながら、場合によっては生存さえ危ぶまれるような過酷な労働条件に置かれている」

「日本では、この両極端の世界がまったく別の原理で併存しているばかりか、お互いが奇妙に補強しあうかたちで成り立ってしまっています。正社員には非正社員の世界に落ちる恐怖を、非正社員には正社員の世界にステップアップできる期待を抱かせながら、それぞれに過酷な労働を強いる結果につながっているわけです」


日本は、生き残ったアンモナイト。必要なのは、ほどほどのメンバーシップとほどほどのジョブ



他の先進国と比べて、日本の若年労働市場の変化は遅く急激に訪れたために、労働市場慣行や制度の適応が追いついてこなかった。そればかりか、日本的な精神論を伴った「若者バッシング」によって、若者を二重に排除するという結果も招いてきた。本田さんには、そんな日本が先進国の中では特異な国に見える。

「他の先進国は環境変化に適応して、それなりに社会システムや制度設計を変化させ、変異を遂げながらやってきているのに、日本は生き残ってしまったアンモナイトのようなところがあって、制度的に発展途上国の特徴を引きずったまま、集団の団結ややる気みたいなもので、無理に環境変化を乗りこえてしまった。でも、もうこれ以上、その無理はききませんよ、というのが90年代以降に顕在化している問題だと思います」

本田さんは、若者を排除しない包摂型社会をつくっていくには、現在、両極端の原理によって成立している正社員の世界と非正社員の世界をともに歩み寄らせることが必要だ、と話す。   

「私は、『ほどほどのメンバーシップwithほどほどのジョブwithほどほどのパブリック・セーフティネット』と言っているのですが、今のようにメンバーシップかジョブのいずれかが欠けているような両極端の原理ではなく、もっと生身の人間が耐えうるような中間の原理に変える必要があると思っているんです」

「企業のメンバーシップは、学校のメンバーから間をあけずに企業のメンバーにならなければ、なかなか正社員の世界に入れないのが現状ですから、企業を誘導するかたちで、これを緩める。その上で、学校教育の段階から、希望する仕事の専門性を高めるなどの教育を行い、企業のやりたい放題に使いまわされないように個々のジョブの輪郭をはっきりさせる。他の多くの先進諸国では職種別の労働市場があるように、日本でもそのジョブの専門性を通じて正社員の世界に入っていけるように、自分のキャリアのコントロール権を取り戻すことが必要です。

そして、今までは日本ではまったく行われていなかった若者全般に対する社会保障を、住宅補助なども含めて手厚くしていく。私はそうすることでしか活路は開けないと思っています」

(稗田和博)
Photos:浅野カズヤ

ほんだ・ゆき
1964年生まれ。東京大学大学院教育学研究科准教授。東京大学大学院教育学研究科博士課程を単位取得退学。博士(教育学)。日本労働研究機構研究員、東京大学社会科学研究所助教授を経て、現職。専門は、教育社会学。著書に『若者と仕事―「学校経由の就職」を超えて』(東京大学出版会)、『多元化する「能力」と日本社会 ―ハイパー・メリトクラシー化のなかで 日本の〈現代〉13』(NTT出版)、『軋む社会 教育・仕事・若者の現在』(双風舎)など。共著に『「ニート」って言うな! (光文社新書)』(光文社新書)、『若者の労働と生活世界―彼らはどんな現実を生きているか』(大月書店)など。






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