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(Photo: Raven Lintu)

携帯電話、ホームレスの命綱



路上で生活する者にとって携帯電話は贅沢品ではない― 「命綱」である。医療機関の担当者やキャリアアドバイザーが住所と固定電話の持っていない路上生活者と連絡を取るために一番有効な手段だからだ。スマートフォンの価格が下がり手に入りやすくなってきたことで、ホームレス状態の人たちが社会とつながる機会がますます広がっている。(1874字)- ジェシー・コール


彼「娘が入院していて今命が危ない。」「血液検査の結果で糖尿病の診断が出たけど本人は知らない。」「今日からすぐに働けるならば、採用しようということに決まった。」「翌朝面接を受けることができれば、仕事を得られるかもしれない。」「寝泊りしているキャンプ場が川の氾濫で流されそう。」「強盗に合い、すぐに助けを必要としている。」

路上生活者にとってこの様な状況は日常的に起こりうる。しかし、携帯電話がないと、重要な連絡が届かなかったり、救援が間に合わなかったりする。医療機関やキャリアカウンセラー、そして路上生活者自身もホームレス状態のときに携帯電話を持つ必要性を強調している。

米国の連邦政府と州政府も、ホームレスや貧困層の携帯電話へのアクセスの重要性を認めている。そして「ライフライン・アシスタンス・プログラム」を通して主要な携帯電話サービスプロバイダーの協力のもと、低所得者のために無料か低価格の携帯電話を提供してきた。

この仕組みは1996年に連邦法の下で成立され、プログラムの費用は、サービスプロバイダーに契約者が月々支払う「ユニバーサル・サービス料金」の中から充当されている。このプログラムでは250分の無料通話と250通の無料メール付きの携帯電話の提供を申し込むことができるが、収入が連邦政府決めた貧困ガイドラインよりも多い場合はその35パーセントを上回らないこと、もしくはフードスタンプ(アメリカで低所得者向けに行われている食料費補助対策)や生活保護などを含む社会保障サービスを受けていることが条件になる。

どんな人であろうと食べ物を買うか、電話料金の支払いを選ぶかを選択しなければならないような状況におかれるべきではない」と、テネシー州の「ライフライン・アシスタンス・プログラム」のプロバイダーの一つであるアシュアレンス・ワイヤレスの広報担当者、ジャック・フランズさんは言う。「現代社会においては、ホームレス状態に置かれている人がいつでも電話の利用をできるようにすることは、生きるために欠かせないと思う」

雇用を得るためのツール



自立をするために違法でなければできることは何でもして、収入を増やすべきだ、とホームレスを批判する人たちは主張する。たいていの場合、それは新たに仕事を得ることを意味するが、それ自体も簡単ではない上に、電話が使えないとなると就職活動はより難しくなる。

そして残念ながら、ホームレスの生活状況に理解のある企業はとても少ない。家のあるなしにかかわらず、企業は求職者や従業員が急な面接や勤務依頼の連絡に対応をすることを期待する。また大抵の企業は、求職者が直接連絡の取れる電話番号を持っていることを前提としている、と地元のキャリアトレーナーやカウンセラーは言う。

「今日、就職活動をするには、求職者は必ず使用可能なEメールと電話を持っていなければならない」とナッシュビル市就職支援センターのデービッドソン郡キャリア開発マネージャー、コニー・フリーズさんは言う。「履歴書に記載するだけでは不十分で、求職者は常にメールや電話を確認し、連絡があれば早急に返信をしなければならない。求職者と連絡がとれなかったり、面接の知らせに返信が遅れたりすると、仕事に興味がないととらえられてしまう」。

州が運営するテネシー・キャリアーセンターでも同意見だった。「連絡がしやすいほど、面接につながる確率があがる」とテネシー州労働局の地域マネージャーRJ・シャーさんは言う。面接の知らせにすぐ対応できることは求職者にとって、あるべき姿だ。
しかし、常時電話へのアクセスがないため、連絡を返した頃には募集が終わっていたとか、他の人が既に採用されていて、手遅れだったというケースは少なくない。

現在ナッシュビルでホームレス状態にあるデボラ・ハイデンさんがライフライン・アシスタンス・プログラムに申し込んだ理由もまさにそこにある。「仕事をみつけるためです」と彼女は地元の教会で食事の配給を待ちながら言った。路上で見かける携帯電話のほとんどは政府が提供したものであり、持ち主はほとんどが、自分と同じように仕事を確保するために使っているのだと話してくれた。

同じく食事の配給を待つもう一人の女性はバンダービルト大学を卒業したばかり。しかし、学生ローンの負担が大きく支払いができなくなってしまったためホームレスになってしまった。今は携帯電話を持っていないが、ハイデンさんがライフライン・アシスタンス・プログラムのことを話すのを聞き、もっと詳しく知りたいと言う。彼女も、携帯電話があれば仕事も探しやすいし、安心できる、と同意した。

現在トラックで暮らし、ナッシュビルのストリート・ペーパー「ザ・コントリビューター」を販売している元海兵隊員のロバート・Aさんも最近、地元の社会保障事務所で「ライフライン」の携帯電話を申し込んだ。「求職活動中なんだ」と彼は説明する。「ライフライン」の携帯電話を手に入れる手順自体がとても煩雑で手間がかかるため、収入を得るためのストリート・ペーパーの販売時間を削らざるを得なかったが、携帯電話を手に入れるためならその価値はある、と語った。

ヘルスケアを受けるために



ホームレス状態の者にとって携帯電話が重要であるもうひとつの理由は、必要な治療が受けやすくなるためだ。

「健康を維持するために電話が必要だ」とアシュアレンス・ワイヤレス社のフランズさんは言う。「処方薬をもらうためには、医者やクリニック、薬局と常に連絡を取っていなければならない」

地元の医療機関で、保険を持っていない人々にもヘルスケアを提供しているユナイテッド・ネイバーフッド・ヘルス・サービス(UNHS)のスタッフであるビル・フリスキックス―ワレンさんもフランズさんに同意する。

「慢性の病気を複数抱えている患者がとても多く、そのほとんどが深刻な状態であるため、患者と常に連絡が取れるのは非常に重要である」とUNHSでホームレス支援の運営をしているフリスキックス―ワレンさんは語る。

「幸いなことに、多くの患者は政府が提供しているアシュアレンスの携帯電話や、『クリケット・フォン』を持っています」。クリケット・フォンとは、低価格のプリペイド携帯電話のことで、プロバイダーと契約をする必要がないのだ。こういったサービスを提供している会社も多く、クリケット社はそのひとつである。

患者とすぐに連絡を取る必要があったりする、とフリスキックス―ワレンさんは言う。例えば、検査結果が届いて、患者が緊急の治療を要する状態だと発覚したとき「緊急事態なのに、連絡がとれなかったら助けることができない」と彼は説明する。

もうひとつ、UNHSでよくあるのは、患者が必要とする薬を無料で提供しようとするときだという。「病院の患者支援プログラムを通して製造業者から患者に薬が直接届くようになっている」のだと彼は言う。「そんな時、患者とすぐ連絡がとれることが重要です」。

セーフティー・ネットとしての役割



UNHSのフリスキックス―ワレンさん曰く、ヘルスケアについて連絡がとれるのはもちろん大事だが、ホームレス状態の人にとって家族や友人など気にかけてくれる人たちが本人に連絡をすることができることも、とても重要なのだそうだ。

「路上生活をしている家族が互いの安全を確認できるように、プリペイドの携帯電話を購入する人もいる」とフリスキックス・ワレンさんは言う。

「貧困状態にある者にとって人間関係はすべてです。彼らはそれで路上生活を生き抜いているのだから」と語るのはグッドウィル・インダストリーズ・オブ・ミドル・テネシー(Goodwill Industries of Middle Tennessee)で就職トレーニング・コーディネーターを努め、ナッシュビルではホームレスの支援団体、(Nashville Coalition for Homeless)の議長を務めているデビー・グラントさんだ。「だから、携帯電話は家族や親友に電話をするためにあるのかもしれません。助けに来てくれるのはその人しかいないのだから」。

グラントさんは、携帯電話はグッドウィルの利用者が仕事を得る助けになるのは間違いがないという一方で、携帯電話を通して他者からのサポートを受けられることがもっとも重要だと話す。

コミュニケーション手段があること自体が重要」グラントさんは言う。

携帯電話は家族との繋がりを保つためにも役立つ。子どもたちと顔を合わせる機会の少ない片親にとっては特にそうだ。ナッシュビルでホームレス状態にあるチャーリー・エドワード・キースは携帯電話でルイジアナにいる子どもたちと連絡をとっている。

自動車産業不況で失業をし、ホームレスになってしまったある男性のことをアシュアレンス・ワイヤレスのフランズさんは話してくれた。その男性は携帯電話を使って新しい仕事を見つけることができ、前妻との間に共同親権がある子どもたちとの面会を設定でき、関係を保つことができたのだ。

携帯電話は、緊急事態のときに助けを求めるためにも役立つ。

「1ドル札をたくさん持っている僕をお金持ちだと勘違いする人がいるかもしれない。盗難に遭うかもしれないでしょう?」とロバート・Aさん言う。

ウェブとメールへのアクセス



ホームレスが政府供給の携帯電話、もしくは安いプリペイドフォンを持っていることを批判するものもいるが、一番鼻につくのは、ホームレスが持っている携帯電話のクオリティーが高い場合であるようだ。

ツイッター上で、ナッシュビル在住のアレックス・フェラーリ(@amferrari1)は「帰宅中、赤信号で車を停めたときに、『コントリビューター』(ナッシュビルでホームレスが販売している雑誌)の販売者がiPhoneを取り出して誰かに電話をするところを目撃した」とつぶやいている。

同じような内容がアナリース・ウォーリー(@AnneliseWalley)のツイッターにも書かれている「路上にいたホームレスの男にお金をあげようとしたら、靴下からiPhoneを取り出すのを見てしまった」

ナッシュビル在住のマーク・ホブソン(@matchstickmgmt)はもっと批判的なツイートをしている「iPhoneを持っている人は『コントリビューター』の販売をする資格がない #事実」

しかし、ますます多くの企業がインターネットやEメールへのアクセスを要求するようになってきたため、路上生活者にとってスマートフォンは贅沢品とはいえない状況となっている。

「携帯電話が重要であるひとつの理由は、雇用者が求職者にすぐ連絡がとれるためですが、パソコンやEメールを通して求人募集を行っている企業が増えている」とグッドウィルのグラントさんは言う。

無料の携帯電話や、安いプリペイド携帯電話の大半はウェブへのアクセスが制限されているため、ウェブ上のエントリーシートの記入やEメールの確認が困難だったり、不可能だったりする。ウェブ機能のない携帯電話を持っている人は、図書館や支援団体の公共パソコンを使用するしかないが、使用が開館時間のみに制限されているのと、一人一人の使用時間も制限されているところが多い。

いつでもEメールが確認できて、返信できるのは求職者にとって重要だとNCACのハムフリーズさんも同様に語る。

「面接の連絡に対する返事が遅いというのは、仕事上お客への対応も遅いのかもしれないし、カスタマーサービスの質が下がるかもしれない」と、彼女は雇用者が持つ懸念を代弁する。

このように、スマートフォンを持っている求職者は「採用」という名の希望に投資をしているといえるのかもしれない。

(THE CONTRIBUTOR USA 2012年9月24日より)