(2006年11月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 第60号 [特集 ナチュラルに美しく 生き方大転換]より)




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〈プロローグ〉人間は樹木に救われる



宇宙から見た地球は青い惑星。地球の縁が少しぼやけて“もや”のように見えます。この“もや”のようなものが地球の大気、つまり空気です。この大気に守られて生物も人間も生きています。そして、この大気は27億年前、植物が光合成によって酸素をつくりだし、酸素のない大気から酸素に満ちた大気へと大転換したものなのです。

0.7℃ —20世紀後半に人間の生産活動が原因で上がってしまった地球の平均気温です。今後これが2℃をこえると一部の生物や地域、食糧生産に致命的な結果をもたらすといわれます。今の産業構造を変えない限り、地球温暖化を阻止しようとつくられた国際協定・京都議定書を守っても、2050年には2℃をこえ、2075年には3℃上昇するといわれています。20世紀後半、人間が地中にあった石油や石炭などの化石資源を掘り起こして、大気中にCO2(二酸化炭素)としてばら撒いてしまったことが原因です。

20世紀前半まで、人間は「地球は無限」だと信じて生きてきました。今、人間は初めて「地球は有限で、劣化する」ことに気がついたのです。

地球温暖化を止めるために、私たちは何ができるのでしょうか?

それは、大気中にCO2を拡散させてしまう石油資源を使わないで、反対に大気中のCO2を体内に閉じこめ固定できる樹木、植物資源を使う方向へと、大きく舵をきることです。

しかし、そんなことができるのでしょうか?

舩岡正光さん(三重大学)は、植物の生き方に学ぶことから、樹木を構成する分子「糖」と「リグニン」のうち、これまで使用されず廃棄されてきた「リグニン」を活用する方法を発見しました。この「リグニン」と糖をともに利用する”森林資源社会“をつくれば、石油から植物資源への大転換が可能になります。それが、私たちの生き方をナチュラルに美しく変えていくでしょう。


リグニン
(リグノフェノール:植物資源からとれ、何度でも別の製品に生まれ変わる粉)

ようこそ、来るべき植物資源社会へ。では、植物の偉大さを知り人間の存在に希望が持てる近未来の物語へ、舩岡さんにご案内いただきましょう。




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イラスト:トム・ワトソン photos:中西真誠