シエラレオネ内戦を長引かせたダイヤモンド




91年に始まり10年にも及んだシエラレオネ内戦は、7万5千人もの死者を出し、同国を疲弊させた。内戦を長期化させたのは、同国の豊かなダイヤモンド資源だったともいわれている。内戦終結から6年、「紛争ダイヤモンド」の行方を追った。






内戦を長引かせたのはダイヤモンド



1990年代、西アフリカのシエラレオネは10年に及ぶ内戦によって壊滅寸前に追い込まれ、450万人いた国民の実に半数以上が難民と化した。

反政府勢力RUF(革命統一戦線)によって91年に勃発したこの内戦は、シエラレオネの人々に耐え難い苦痛を強いるものであった。多くの子どもが誘拐され、少年たちは少年兵として強制徴用され、また少女たちは、政府勢力と反政府勢力の両方から性的対象として虐待された。

数多くの村が反政府勢力の襲撃を受け、推定でも10万人の罪なき市民が、政府側に加担しないよう、見せしめとして腕や脚を切り落とされるなどの残虐な行為の犠牲者となった。さらに悲惨なことに、合わせて7万5千人が命を落としたという。




同国では、内戦以前にも長年の政治腐敗に対する反発や不満は存在していた。だが、内戦を長引かせたものは政治思想ではなく、同国の豊かな資源、ダイヤモンドだった。

内戦の勃発には、隣国リベリアも絡んでいた。当時、リベリア前大統領チャールズ・テイラーは武装集団の一リーダーにすぎなかったが、シエラレオネ政府の弱体化を図るために、RUFに資金や軍事技術を供与したのである。テイラーは、ブルキナファソ政府とも取り引きを行い、RUFに代わって傭兵の調達を行ったとされている。RUFへの武器支援や軍事訓練の供与と引き換えに、シエラレオネの密輸ダイヤモンドを手に入れるという算段だった。

内戦は10年続き、その間行われた和平へのあらゆる交渉・試みは失敗に終わった。ようやく00年の5月になって英国軍が派遣され、国内にとどまっていた外国人を救出し、秩序の回復に取り組んだ。そしてギニア軍も投入され、RUFの拠点に対し攻撃を加えた。このような軍事介入は徐々に停戦に向けた動きを促進し、02年初めには政府・RUF間で約7万2千人の武装解除が実現し、同年1月18日、内戦は武装解除完了宣言をもってようやく終結を迎えた。




違法ダイヤモンドが、貧困から抜け出す唯一の手がかり



シエラレオネを破滅に追い込んだ原因となったいわゆる「紛争ダイヤモンド」の密輸を撲滅するために、00年、国連総会は紛争とダイヤモンド原石取り引きに係る決議を採択。ダイヤモンド原石の違法取り引きと紛争の「リンク」を断ち切り、紛争の抑止と解決に貢献することを決意した。

世界のダイヤモンド業界も独自の手段を考案し、「紛争ダイヤモンド」が市場に混入することを阻止する機能を業界全体で強化しようと取り組んでいる。03年、業界代表者は「キンバリー・プロセス認証制度」を設立し、71の加盟国間以外の取り引きを行わず、相互の施設をモニターし、「ダイヤモンド原石が紛争と無関係であることを証明する」証書を発行することとした。




ダイヤモンド業界団体によると、世界のダイヤモンドの99%以上までが、現在では紛争とは無関係の産地から輸出されているとし、各国の紛争のピーク期にあっても、シエラレオネ、リベリア、コンゴ民主共和国やアンゴラの反政府勢力によって掌握されたダイヤモンドは、世界の産出量の15%にすぎなかったという。

業界は、違反した国には除名処分等の罰則を科している。例えばコンゴ民主共和国は、04年にダイヤモンド輸出量がゼロであるという虚偽の報告を行った際に除名処分を受けており、またベネズエラも05年に一時資格停止の処分を受けている。




しかし、このような自主規制は本当に機能しているのだろうか? コイドゥ・ホールディングス社が03年に開設したシエラレオネ最大のダイヤモンド鉱山は、1ヶ月に250万ドル(約2億5千万円)相当ものダイヤモンドを輸出している。それに反比例して、密輸ダイヤモンドの取引量は減少したであろうことが推測される。

しかし、コイドゥ・ホールディングス社の鉱山マネージャーであり、シエラレオネ大統領のダイヤモンド顧問も務めたジャン・ケテラール氏によると、公式統計はどれも信用できないという。

コイドゥ鉱山の周辺には、水道も電気もお腹を満たす適切な食料もない環境に生きる貧窮した多数の住民がいる。彼らにとっては、土まみれになって地面をかきまわし、違法ダイヤモンドを手に入れることだけが、貧困から抜け出す唯一の手がかりなのである。




鉱山近くに住むシャリ・アマラ少年は、6人兄弟の長男である。兄弟のうち3人はすでに亡くなり、彼の家族の将来は、彼がダイヤモンドを探し当てるか否かにかかっている。

「一つでもいいからダイヤモンドを見つけられれば、学校に行くお金もできるし、勉強して、家族や村のみんなを助けることもできるんだ」という彼の言葉は、この国で同じような状況に置かれた多くの人々の思いと重なる。鉱山一帯は、政府の監視員がパトロールを行っているが、実際に見回りが実施される回数は少ない。それもそのはず、総勢200人いる監視員はUSAID(米国国際開発庁)から供与されたわずか10台のバイクを共用しており、密輸を根絶するなど到底不可能である。隣国リベリアとの国境線はコイドゥ鉱山からわずか30マイルの距離にあり、その間には無数の「密輸ルート」の道が存在する。

また、ギニアとの国境を挟む道路は合計36あり、そのうち監視所があるのは3ケ所である。その3つのルートでさえ毎月、監視員が町に給料を受け取りに出かける前後数日間は無人となる。




「紛争ダイヤモンド」から「フェアトレードダイヤモンド」へ



米国においても、税関や財務省が違法ダイヤモンド取り引きを完全に掌握しきれていない状況を会計検査院が明らかにしている。米国に輸入された以上のカラット数が、米国から輸出されていたのである。つまり、ダイヤモンドの産出国ではない米国で、違法なダイヤモンド取り引きが行われていたことになる。

さらに、人権擁護団体アムネスティ・インターナショナルが2年前に米国のダイヤモンド小売業者を対象に実施したアンケート調査によると、「紛争ダイヤモンド」の取り引きに対する規制を行っている業者はほとんどいないことがわかった。アムネスティは英国政府に、ダイヤモンド業界が「キンバリー・プロセス」を順守するよう監督すること、また英国のダイヤモンド業者が自主規制を守るよう厳格に検査するよう求めている。




このような取り組みとは別に、問題の根源である「貧困」、つまりわずかな賃金のために、鉱山で過酷な労働条件で働かざるをえない人たちの問題に取り組む企業も現れている。一部のコーヒー業者に見られるような「フェアトレード」の仕組みをダイヤモンドにも適用しようというものである。

南アフリカのデビアス社は二つの活動団体とともにDDI(ダイヤモンド開発イニシアティブ)という国際活動団体を設立し、ダイヤモンド鉱山労働者らに対して安全の知識や経済観念などの教育機会を提供し、また、採掘の仕事に代わって農業に転じるよう説得を行うなどしている。この試みが成功すれば、同様の活動をアフリカ全土に広げていきたい、と同団体では期待を寄せている。

紛争の根本原因である貧困、失業、飢饉、疫病や政治腐敗など社会の不安定を招く事態はまだ根強く存在しており、血塗られたダイヤモンドの絡む同様の戦争がいつ勃発してもおかしくない状態は続いている。




(Jennifer May/Reprinted from Issues Magazine/© Street News Service: www.street-papers.org)







(2008年5月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 第94号





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