ホームレスワールドカップの精神



ホームレスワールドカップに7年前関与しはじめたダニエール・バティストさんは、このイベントにすっかり魅了されてしまった。企画者の使命感、試合の精神、そして何よりも参加選手たちの勇気に惹かれ、世界中でこの驚異的なトーナメントを取材し続けている。

著者:ダニエール・バティス










ナミビア砂漠の端のとある砂場で、私ははじめてストリートサッカーのパワーを目撃した。2006年、猛暑のなかで8人の男の子がボールを追いかけていた。サッカーピッチは、空気でふくらませた大きなチューブで正方形をくぎり、二つのゴールポストが作ってあった。観客があまりいないことにも選手たちは気付く様子もない。選手たちは命が懸かっているかのように試合に没頭していたが、実際、それは真実でもあった。試合後に推薦された選手はその年にケープタウンで開催されるホームレスワールドカップで国の代表となる機会を得るからだ。




その翌年の2007年に、地球の反対側、デンマークのコペンハーゲンで開催されたホームレスワールドカップで、私はナミビアのコーチ、ベスエルさんと再開した。選手たちのトーナメントへの参加は一回に限定されているため、今回は新しい顔ぶれのチームを連れて来ていた。しかし、世界中でホームレスが増加しているなか、コーチがたくさんの候補者の中から代表となる選手を選べるというのは、悲しい現実でもある。




ホームレスワールドカップの規定には次のように記されている。

選手は過去2年の間にホームレスの経験、難民経験、もしくは一時的住宅や仮設シェルターに住んだ経験のある者が対象となる。各チームが抱える問題は多様であり少しづつ違う。ホームレスの定義は世界一様でない。貧困、失業、麻薬やアルコールへの依存、借金、精神病、刑事司法制度や、家族の崩壊などが個人の人生にそれぞれ影響をもたらしている。




物理的な面でも、トーナメントは様々な相違点を炙り出す。企業の社会的責任プログラム(Corporate Social Responsibility Programme – CSR)を通し、Nikeが寄付した新品のサッカーシューズを履きながら試合に苦戦する初期のナミビアンチームを私は今でも忘れられることができない。技術力の高いこの少年たちの実力が突然消えてしまったように見えたとき、その理由に気がつくまでにはそのときは少し時間が必要だった。彼らは裸足での試合のほうが慣れていた。




一方、共通点もあった。2008年にアフリカから英国のウェールズに引っ越したとき、一時の敗北にめげず必死に士気を貫き続ける光景を目にした。それは、私がそれまでストリートサッカーのフィールドで何度も目にしてきたものと同じだった。

来る年来る年、リオ・デ・ジャネイロや、パリ、メキシコ・シティーと毎年開催された試合を追いながら、このホームレスワールドカップへの出場を通じて変わった人生があるという証をたくさん見てきた。




2008年にミラノで開催されたホームレスワールドカップで、ウェールズ代表チームである「ウェルシュ・ドラゴンズ」がサッカーフィールドに登場したときの選手たちの誇らしげな表情は、私がよく知っているナミビア代表の男の子たちの顔をまるで鏡に映したかのようにそっくりだった。

その一週間、私は彼らに密着取材をし、代表チームの鮮やかな赤いサッカーユニフォームを身につける度に、選手たちの自信が育っていく様子を目の当たりにした。

そんな訳で、今年、2013年8月にポーランド、ポズナンで開催された第11回ホームレスワールドカップのオープニング・パレードで、元ウェルシュ‘09のチーム所属だったダイとテリーの二人に遭遇したときの私の喜びは想像がつくのではないだろうか。

ダイはウェールズ初の女子チームのコーチを務めていて、テリーは男子チームのアシスタントコーチになっていた。私が昔撮ったダイのウェルシュジャージ姿の写真をフェイスブックのプロフィール写真として使っていると、彼は得意げに話してくれた。




「(大会を終えて)ここに再び戻って来た後も、ぼくらはいつでも互いに助け合うでしょう」と2009年にテリーは私に話してくれた。礼儀正しいが誇りを隠さない微笑みを浮かべながら、テリーは私たちが最後に会ったときからの彼の進歩について語ってくれた。彼は社会的包摂について勉強をするため大学に入学し、家族と再度連絡も取るようになった。そして、ボランティアとして務めた数年後に、ずっと夢だったサポートワーカーとしての仕事を「ストリート・フットボール・ウェールズ」で得た。

イタリア大会の会場の観客席でダイをインタビューをしたとき、彼はまだ20歳だった。しかしすでにホームレス状態を経験していて、サッカーに出会うまでは生きる目的を見失っていた。「故郷に帰ったら仕事を見つけて、人生をやり直したい」、と彼はミラノで語っていた。その4年後、彼は自らの目的を達成しただけでなく、今では他の人が自分と同じようにできるようサポートを続けている。




ホームレスワールドカップとは;
・サッカーの力でホームレスの人々を力づけ、自らの力で自分の生活を改善できるようにする。
・70の国々にいるパートナーとのネットワークを通し、グラスルーツのサッカープログラムや社会的企業の育成を支援し、毎年世界大会を開催することで、その活動を祝い、スポットライトをあてる。
・2012年には、10万人以上のホームレス経験者がこのプログラムに参加。
・2003年から毎年開催。
・2014年はチリで開催予定。2015年はアムステルダム。
・人生を変える力がある:参加者の70%は、参加後のアンケートに、生活が大きく改善されたと答えている。麻薬やアルコール依存からの離脱や、仕事や住宅、教育や訓練を得た人もいれば、中にはサッカー選手やコーチ、社会起業家になった人もいる。




Poznan 2013 - Homeless World Cup