義務化する食事ー20代若者男女55人の「きのう食べたご飯」

「きのう食べたごはん」を検証。20代若者男女55人に聞いた

「食事は、生活の活力源」。わかってはいるけれど、ついつい忙しい仕事に追われ、作るのが面倒で、手を抜いてしまうのが日々の食事。ひとり暮らしの身なら、なおさら。まともに食べる気さえ起こらない…。ということで、最も食が乱れがちといわれる20代の男女に教えてもらいました、彼と彼女の「きのう食べたごはん」。

2食抜きの男性「食事は、義務」

朝にコンビニでおにぎりとパン、野菜ジュースを買って食べた以外は何も摂らなかった。編集プロダクションに勤務するショータさん(25歳)は、昨日、昼食と夕食の2食を抜いた。仕事が忙しく、不規則なこともあるが、普段からあまり食事に興味がない。「旅行などで地方に出かけると、地元の美味しいものを食べたいと思うけど…」。ショータさんにとって、食事は「義務」と感じる。

アルバイト勤務のユースケさん(23歳)も、昨日まともに摂ったのは昼食のハンバーグ定食だけだった。朝はミルクティー、夕食は「仕事が深夜12時まであったので、仕事中にチョコレートやアイスクリーム、シュークリームなどを食べて、寝る前にドーナツ二つを晩御飯代わりに食べた」

1〜2食を抜いたり、お菓子やカップラーメンの軽食で済ませるのは、男性ばかりではない。独身女性の食の風景も、心もとない。

飲食店勤務のケイコさん(29歳)は、朝、電車の中でおにぎり二つを放り込み、昼にはパンを食べ、夜にようやくレストランでのちゃんとした食事にありついた。ヨウコさん(24歳)も、朝こそカレーライスを食べたものの、昼はおにぎりとチョコレート、夕食はカップラーメンとサラダ。キョウコさん(24歳)の場合は、朝サンドイッチ、昼は外食のラーメン、夕食はたこ焼きだけだった。

「朝食抜いた」20%、半数はどれか1食を抜く

「朝はパンorおにぎり、昼は外食orコンビニ弁当、夜は単品モノ」

今回、本誌が20代の男女55人をヒアリングした結果からは、こんな20代男女の食生活が浮かび上がった。朝はパン、トーストなどの軽食で済ませ、昼は外食やコンビニ弁当などの中食が主体。夕食は、カレーやラーメン、丼物、居酒屋メニューなど、単品モノが多く、主食のおかずにごはん、一汁三菜といった日本食の定番は少数にとどまった。

だが、何より目立ったのは、3食のうち「1食を抜く」、あるいは「軽食で済ます」傾向。全回答中、「朝食を抜いた」と答えた人は20%(11人)に上り、「昼食を抜いた」は約7%(4人)、「朝・昼食兼用」も9%(5人)いた。これに「昼・夕食両方を抜いた」「夕食を抜いた」を併せれば、3食のうちいずれかの1食を抜いた人は全体の40%(22人)に達する。また、3食を摂った人の中でも、朝食では栄養ドリンクやビタミンウォーター、昼食ではチョコレートやクッキーなど、食事とはいいがたいものを挙げているケースもあることから、20代の半数以上は、「3食のうち1食を抜く」傾向があるといえる。

なぜ、食事を抜くのか? その理由は、さまざまだ。テレビ番組ADのヨシフミさん(28歳)は、基本的に昼食を摂らない。「仕事が忙しすぎて食べられないのもあるけど、朝いっぱい食べたらお腹が減らない。あと、食べた後は歯を磨きたいから、誰かと一緒だったら食べないことが多い」。また、夕食をちゃんと摂っていないというユキエさん(25歳)は、「夕食は、父のご飯を横からつまむ程度のもの」と言う。

このほか、食事そのものに興味がないと言う人も。「小さい頃から個食が多く、味気ない食事が多かったため、食べることは仕事の一つに感じる。美味しいかどうかも、よくわからない」(マサコさん、24歳)、「食事は、プロテインとビタミン剤でかまわない。美味しいものが氾濫しているので、感覚が麻痺してる」(ツヨシさん、26歳)、「食べるより、お酒を飲みたいタイプ」(マサノリさん、27歳)など、美味しい食事や栄養バランス云々以前の段階で、食事はめんどくさいものとして映っている。

「食事に興味」80%以上だが、半数近くはグルメ志向?食事に人とのつながり求める傾向も

3食の食の風景が乱れる傾向にある一方、80%以上が「食べることに興味がある」と答えるなど、食への関心と実際の食事との間に大きなギャップもあった。

「食べてる時がとにかく幸せ」というOLのナツミさん(28歳)は、朝食を抜き、昼はラーメン、途中スイーツをはさみ、夜は飲み会の居酒屋メニューだった。「食事は身体だけでなく心もつくるもの。だけど、普段は外食が多く、ダメダメな食生活」と言う。

フリーランスライターのタダシさん(27歳)も、「仕事で地方に行けば、お金に糸目をつけずに地方特産のイイものを食べる」が、昨日は朝昼兼用でラーメンと高菜チャーハンを外食し、夜はファストフード店のハンバーガーとポテトで済ませた。サトコさん(27歳)も、「食べることには興味があるが、関心が高いのは相手がいる場合に限る。ひとりなら、美味しいものを食べたい欲求は湧かない」と言う。

20代男女の多くは、食べることがとても好きで、食事の楽しみがなくなったら人生がつまらなくなると考えている。栄養バランスにも気を使うが、その反面、食べることに興味があると答えた80%の約半数は「美味しいものを食べたい」「甘い物が好き」「栄養より見た目」といったグルメ志向、さらに「食事は大切に思っている人とのコミュニケーションの場」と考えているようだ。そこには、普段の食生活では、あまりお金と手間をかけずに軽く済ませるが、美味しいものを食べたり、たまの友人・家族との食事には精一杯はりこむ傾向がうかがえる。栄養バランスの取れた食事や自炊を普段から実践できている人は、アトピーを発症した人や出産して子供の栄養に気をつかうようになった主婦など、ごく少数に限られた。

そして、「これまで一番心に残った食事」を聞いた設問では、20代男女が考える理想の食事の一端も垣間見えた(表1参照)。

「父が作った卵焼き」「阪神大震災の日に、母が冷蔵庫にあるもので作ってくれた味噌汁」「家族とのありふれた食事」「小学校時代のキャンプカレー」「外国で別々に知り合ったまったく人種の違う3人で食べた食事」「パンとバナナと水だけの1ヶ月の貧乏旅行から帰った時に、彼女が作ってくれたおにぎり」など。心に残った食事は、誰と、どこで食べたかが大きな比重を占めている。粗食ではあっても、家族が作った愛情のこもった食事、友人や恋人と食べた食事は、栄養バランスの大切さ以上に、特別な味がしたようだ。

(稗田和博)

アンケート:これまで一番心に残った食事(複数回答あり)

家族と食べた(家族がつくった)食事 21人

 ● 茅葺屋根の家で家族と食べたアユ料理
 ● 父が作った卵焼き
 ● 子供の頃に母が私だけに作ってくれた大きなおにぎり
 ● 家族とのありふれた食事
 ● 風疹で遠足に行けなかった時に母が作ってくれたサンドイッチ
 ● 仕事などで忙しくて1日何も食べられなかった時に母が作ってくれた塩おにぎり
 ● 子供の頃、母と一緒に作ったハンバーグ
 ● 子供の頃、川の岩の上で家族と食べた、たらいうどん
 ● 小学校の頃の家族でのバーベキュー
 ● 父が入院した時,母と弟と2日ぶりに食べた熱いラーメン
 ● 阪神大震災の日に、母が冷蔵庫にあるもので作ってくれた味噌汁、など

旅先・地方の名物料理、変わった場所での食事 12人

 ● 大分県で食べた「だご汁定食」
 ● お腹を壊した北京ダック
 ● NYのホームステイの時の手巻き寿司パーティ
 ● 富士山のシルエットを見ながら食べた屋台のドネルケバブ
 ● 外国で別々に知り合ったまったく人種の違う3人で食べた食事
 ● 山奥で食料がなくなった時に食べたブラックバス、など

恋人・友人と食べた(つくった)食事  11人
 ● 小学校時代のキャンプカレー
 ● 料理ができない彼氏がつくったパスタ
 ● 友人がつくった晩ごはん
 ● 友人が作ってくれたオール魚料理
 ● 両親の離婚調停中、大学合格祝いに
母の元カレがご馳走してくれた中華料理
 ● 小学校の時の調理実習
 ● 彼からプロポーズを受けた後の食事
 ● パンとバナナと水だけの1ヶ月の貧乏旅行から帰った時に、
彼女が作ってくれたおにぎり、など

グルメなどその他 8人

 ● 自分でつくった食事
 ● ホテルのフォアグラ
 ● 北海道の新鮮なネタの回転寿司
 ● 京都の料亭の天ぷら
 ● 子供の頃に食べた指輪型の飴
 ● アメリカで食べた、やたら量の多いファストフード
 ● 卵アレルギーで食事制限していた時に食べたケーキとご馳走
 ● 奈良県の天然酵母パン
 ● 小さい頃によく食べた某ブランドのミートボール

(2006年9月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 第56号より)