こんにちは、ビッグイシューオンライン編集部イケダです。ヒューマン・ライツ・ウォッチ(以下HRW)が発行している調査レポート「夢がもてない日本における社会的養護下の子どもたち」が素晴らしい内容なので、ピックアップしてご紹介いたします。


「施設偏重」の日本

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日本は諸外国に比べ、児童養護施設に住んでいる子どもの比率が高いという課題があります。

2013年時点で全国3万9,047人の子どもが、親に子どもを適切に養育する能力や意思がないとの政府の判断に基づき、社会的養護制度の下で生活している。

社会的養護下の子どもたちの大半(85%以上)は施設に住んでいる。約3万4千人(2013年)の子どもたちが施設で生活している。(中略)児童養護施設の平均在所期間は約5年である。日本における施設収容率は、他の先進国と比べて際立って高い。


「施設での養護そのものが虐待といえるかもしれない」

施設での養護は、それ自体が課題を多く含むものだと語られています。HRWは強い表現で、現状の問題点を批判しています。

より大局的視点から言えば、施設での養護そのものが虐待といえるかもしれない。家庭での養育の機会を子どもから奪っているからである。家庭で育つことが子どもの発達と福祉にとっていかに重要かは多くの研究の示すところである。

(中略)国際人権基準では、社会的養護下にある子どもを施設に収容するのは最終手段と定められている。拡大家族(extendedfamily)による養育や養子縁組・里親養育が不適切でその子どもの最善の利益にならないと判断される場合に初めて、施設養育という最終手段を用いる、としているのだ。

(中略)児童養護施設には新しく清潔で安全な建物が多いものの、ヒューマン・ライツ・ウォッチの訪問した施設のうち数カ所には問題があった。ある施設では、男性棟ではきつい尿の臭いがした。壁のコンセントは剥き出しになっており、壁紙ははがれ、多くの家具が壊れていた。

しかし建物以上に問題なのは、施設内の生活そのものである。まず子どもにはプライバシーがほとんど認められない。また、児童の居室の1室あたりの最低面積は、2011年に基準が改正されたにもかかわらず、それでも1人につきたった4.95平方メートルである。

また大人の養育者との愛着や信頼関係を結ぶ機会にも欠けている。施設職員は交代制で、仕事に忙殺されていることも多く、子ども一人ひとりに注力し一貫した養育を行うことができないのが現実である。

多くの施設が大規模であることも問題を増幅している。児童養護施設を運営する法人の半数以上が定員20人以上の施設で子どもたちを養育しており、100人を超える定員を有する施設も30カ所ある。施設生活は基本的な生活スキルを学ぶ機会に欠けている。

人間関係を築き、人とコミュニケーションを取り、社会生活を営む際のスキルを養う、また、料理や外出時の食事の仕方を覚えるなど、一般家庭にいる子どもなら自然と身につく社会常識を身につけるのは、施設の生活では容易ではないのが実態だ。


HRWが調査した虐待の現状

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レポートのなかでは、痛ましい「虐待」の問題についても触れられています。HRWが行ったインタビューから、当事者の声を引用します。

ある子どもは施設にいたときのことを思い出しながら、ある職員が、1人の子どもが何か悪いことをしたと思うたびにその子を殴っていたと述べた。「みんな見ていました。でも止めなかった。声さえかけなかった。」

アキさんは、施設に住むほかの子どもたちに倉庫に連れて行かれ、性的ないやがらせを受けた。アキさんは言う。「あの施設にいたときはずっとつらかったです。嫌がらせのことを誰にも話せませんでした。私が自分で言わなくても施設職員が気づいてくれたらよいのにと思っていました。」

施設出身者である阿部俊幸さん(19)は、小学生の頃に施設の高校生からひどくいじめられたと話す。「バットで殴られたり、顔面を殴られたり。(中略)上級生の気分次第で殴られた。」職員も気づいてはいたと思うが「でも、おばあちゃんだったので。何も言わなかった。」

「僕は小学校の時とてもやんちゃでした。手当たり次第にものを殴ったり、壊したりしていた。施設ではいつでもけんか。どうでもいいことでほかの子を殴っていました。前にいた施設では先生たちの死角になっている場所がありました。子どもたちはそこで脅されたり、そこで泣いたりしていました。」


施設での生活と未来

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レポートでは、他にも多数の当事者の声が掲載されています。

小さい子たちが職員に抱っこされているのを見るとすごくうらやましい。職員たちは忙しいから私みたいに大きい子どもに構っている時間がないでしょう。職員が交代したり、時には辞めたりするときもあって、それは最悪です。職員が変わるのは耐えられません。途中でいなくなるくらいなら、そもそも信頼なんてできないって思ってしまう。

施設を出て一番困ったのは生活の基本的なことがわからないことです。電気はお金を払わないと家まで送られてこないこと、電車の切符の買い方、マクドナルドでの注文の仕方がわからないなど。普通の家庭の子どもだったら当たり前に体験していることを私たちは知らないで社会に出るのです。

ほかの子どもと3人で1部屋でした。高校生でも3人で1部屋なんです。プライバシーなんてなかった。

時にはゆっくり考えたいことってありますよね。静かなところでじっくり考えたいことって。でも周りに人がいて、別にそれで緊張するわけではないにしても、やっぱりいつでも周りの目が気になって。ただ1人になれたらなって時々思うんです。

茨城県の施設出身者、高木あゆみさん(仮名、24)は「施設を出てから相談相手なんて誰もいなかった。親には生後2カ月で捨てられているから相談なんてできない。施設に戻ることもできなかったし、戻りたいとも思わなかった」と語る。1人で生きていかねばならなかった高木さんは生活費を得るためには売春をするしかなかった。「知らない人でも、私の話を聞いてくれるのがうれしかった。自分の居所を探していた。」


退所後支援の手薄さ:ホームレスになる若者も

入所中だけでなく、退所後の支援が手薄であることも指摘されています。

現在21歳の鈴木正志さんは、2歳から18歳まで千葉の児童養護施設で育った。

施設を離れてから3年の間に彼は少なくとも20回職を変えている。施設を出るときに就職した内装業の会社ではまったく仕事がもらえず、月2万円ほどの給与ですぐに生活困難に陥った。施設からの退所時に自立生活支度金を受け取ったが、1人暮らしのための家具やそのほかの生活必需品を購入するとお金はすぐになくなった。

半年も経たぬうちに家賃が支払えなくなった彼はホームレスとなり、漫画喫茶やそのほか可能な所で寝泊りをしてきた。

さらに、中学卒業と同時に働き始め、そのため施設を離れることを強いられた若者たちにとって、ホームレスになるリスクは特に高いと言えるだろう。

加藤祐さん(仮名、29)は、高校進学をしなかったために15歳で生活していた施設を出て、実の父親のもとへと戻ったが、再度虐待に遭い家を出た。職を転々としたのちにホームレスとなった彼は、以来、生活保護に頼って生活をしながら現在に至る。そんな加藤さんは、せめて18歳になるまで社会的養護を受けられたらよかったのに、と話した。


最近まで、退所者の状況把握は各児童養護施設に任されており、退所後わずか1年で子どもと連絡がつかなくなる施設もあるくらいであった。今日に至るまで、退所者や元里子の状況に関する全国レベルでの包括的調査や統計は存在しない。そうした人びとがこれまでに直面し、今も直面している数多くの悩みや問題、あるいは最も必要としている支援内容がほとんど把握されていないのが現状である。


課題について、理解を深めよう

本調査では、他にも里親制度の課題、障害のある子どもの受入について、そして国・自治体・厚生労働省への提言など、様々な情報が掲載されています。全89ページと分量の多いレポートですが、課題についての理解を深め、行動する助けになる資料なので、ぜひご一読ください。

夢がもてない日本における社会的養護下の子どもたち


児童養護施設の現状、社会的養護のあり方について、みなさんのお考えをお聞かせください。


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