(2009年10月15日発売、ビッグイシュー日本版129号より転載)



サツマウツノミヤリュウ、シリンゴポーラ・ウツノミヤイ......大発見の数々。


伝説のサラリーマン化石ハンター・宇都宮聡さんに聞く

九州初のクビナガリュウ、新種のサンゴ、そして日本最大級のアンモナイト…、その数々の大発見がニュースになり、「伝説のサラリーマン化石ハンター」と呼ばれるアマチュア化石採集家の宇都宮聡さん。その化石ハンター魂とは?


宇都宮さん明るめ

リュックを下ろした時に大発見、リュウの背骨だった!

「砂をどけていくと、そこには骨、骨、骨……。えらいものを見つけてしまったと武者震いしましたよ」とクビナガリュウの化石発見時の様子を話すのは、会社員として働きながら趣味で化石採集を続けている宇都宮聡さん。アマチュアとはいえ大発見を連発し、“伝説のサラリーマン化石ハンター“とも呼ばれている。


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大きな注目を集めたクビナガリュウの化石の発見は、2004年2月のこと。アンモナイトを探すつもりで訪れた、鹿児島県の獅子島がその舞台となった。

「ほしかったグレイソニテスというアンモナイトも採集でき、船が出る時刻まで少し時間があったので、ふと谷本正浩さん(関西恐竜研究会)の年賀状の言葉『大型爬虫類化石をぜひ見つけてください』が頭に浮かび、違う地層も見てみようと場所を移したんです。そこでリュックを下ろしてふと前を見ると、大型動物の骨らしきものが目に飛びこんできて……」


潮が満ちてきたこともあり骨を含む岩の一部を岩盤から急いで取り外し、持って帰った。恐竜の骨に詳しい谷本さんに相談したところ、骨組織の密度が薄いため水に棲む動物じゃないかという話。時代を考慮すると、候補となるのはウミガメ、魚竜、ウミワニ、そしてクビナガリュウの仲間だと聞かされた。

「あらためて現地に行き、潮が引いている間に急いで発掘作業を進めました。次から次へと出てくる骨を前に、興奮しましたね」

宿泊していた旅館で、偶然にも町役場の会合が行われていたのが縁となり、町をあげての本格的な発掘プロジェクトがスタート。高知大学のチームも加わって、背骨や頸の骨はもちろん、きれいな状態の下顎や牙も姿を現し、全体像も見えてきた。九州で初めて発見されたクビナガリュウは「サツマウツノミヤリュウ」と名づけられた。

「竜に自分の名前がつくなんて、すごくうれしいこと。フタバスズキリュウを発見した鈴木さんに憧れていたのですが、化石収集家にとってこんなに気持ちいいことはないですね」

06年、10月には、高知大学で開かれた日本地質学会で仲谷英夫博士から、推定5~6メートル、プレシオサウルス上科のエラスモサウルス科としては国内最古の標本だと同定された。


虫取り少年のように、化石を探し続け大人に

化石との出合いは、小学生の頃。市の広報紙で募集されていた、化石採集ツアーに参加したのがきっかけだ。

「こんなに簡単に採れるんだという驚きと、はるか昔の貝が山の中で採れるという不思議さに、すぐに引き込まれてしまいましたね。まるで虫取り少年が大人になっても虫を採集し続けるのと一緒で、気がつけば化石採集がライフワークになっていました」

ガラスの飾りケースに納められた数々の戦利品を見せてもらいながら、それにしても、宇都宮さんのような“化石を見る目“は、どれくらいの訓練で身につくのだろうかと思う。素人には、ノジュール(※化石や砂を核にして、岩石中の珪酸や炭酸塩などが濃集しながら固まってできたもの)に覆われた化石は、きれいにクリーニングする前は単なる岩石にしか見えない。


「採集のスキルは、経験を積むほどに上がります」。学生時代は鉱物や化石を扱う卸商でアルバイトをしたことで、化石の知識が蓄積された。また、時間を見つけては各地へ足を延ばしてのフィールドワーク。遠くはアメリカやイギリス、ドイツへも出かけたという。

「石の断面、比重、何が付着しているかなど、数多く見ることでその特徴が意味することがわかってきます。また、論文を読むうちに、理論武装もされてくる」
「それからは推理の世界。一つわかれば、芋づる式にいろんなことが見えてくる。化石採集の仲間や情報も多く集まり、それが発見の糸口になるんです」


転勤のたびに発見、日本最大級のアンモナイトも

就職してからは、転勤のたびに赴任する先々で大きな発見をしているのだから驚きだ。北海道は、世界的にも有名なアンモナイトの採集地。札幌への転勤の辞令を受けた時は喜んだそうだ。その北海道で採集したのは、直径1メートルもある日本最大級のアンモナイト。車が入れない山の中を10キロメートルも歩いて見つけたという。

「化石が見つかると通常はうれしいのですが、これは大きすぎて『どうしようかな』というのが先でした。500キログラムはあるので、15個ほどのパーツに分けて同僚の力を借りて何往復もして持ち帰ったんです」

宮崎県では、転勤して数ヵ月たったある夜に夢の中に五ヶ瀬村の祇園山が出てきた。翌朝に呼ばれるように現地へ向かうと、先の台風で土砂崩れを起こしたのか、化石層があらわになり、サンゴの化石が無数に転がっていたのだ。

「できすぎた話で、気持ち悪いぐらいでしたね(笑)。
でも、赤道直下で生きていたサンゴが4億年という時間をかけて今ここに現れたということに、地球のダイナミズムを感じました。サンゴは種類も多様でおもしろく、宮崎にいる間は足しげく祇園山に通いました」

その後、この祇園山の別の場所で見つけたサンゴが新種だとわかり、「シリンゴポーラ・ウツノミヤイ」と命名された。


08年の夏には、またまた赴任地の石川県で大発見をする。

「川原で化石を探していて、ふと手にした石の裏側を見たら歯がついていたんです。さすがに、手が震えましたね」
数々の“大物“を発見してきた宇都宮さんでさえ息を呑んだものは、黒く鈍く光る石。長さ約8・2センチ、肉食恐竜の歯がほぼ完全な形で見つかったのだ。

現在、宇都宮さんの一番のお気に入りの化石である。

「調べていただいたら、ティラノザウルスに代表される獣脚類のものだとわかりました。約1億3千万年前の白亜紀前期のもので、大きさは約8・5メートル~9メートルだと推測されるようです。食物連鎖の頂点にあった肉食竜ですから、この何十倍もの草食竜が同じくここにいたんでしょうね」


大発見の陰に、強力なアマチュアネットワーク

宇都宮さんが今後取り組んでいきたいと考えるのは、「マイクロマウント」という小さな化石標本。1~3億年前の地層から出てくる石灰岩を刻んで酸で溶かすと、魚の歯やアゴなど、さまざまなものが出てくるという。

「あまり知られていないものが見つかるので、非常に興味深いんです。小さいので、保管場所にも困りませんしね(笑)」だと宇都宮さんは言う。

「推理がさえている人、酸の処理が得意な人、論文を集めるのに優れた人、それぞれの得意分野を生かして協力し合っているんです。もしかしたらアマチュアのネットワークは専門機関よりも強力かもしれませんよ」


最後に、化石採集のコツを教えてもらった。
「まずは、ニュートラルな気持ちで出かけることが大切です。子どもが案外よく化石を見つけるのは、彼らがニュートラルだからなんですね」

また、宇都宮さんは現地にハンマーは持っていくけれど、ほとんど使わないと言う。
「むやみに探すのではなく、ポイントを絞ることが大事。これは釣りと一緒で、エサとなる魚がいるところに、狙う獲物もいるものです。現場では上を向いたり、はいつくばったり、視点を変えてみてください。新たな気づきがあるかもしれません。日頃から情報を集めて推理をし、しっかりとシュミレーションができていれば、呼ばれるかのように化石に出合えるでしょう」

これから化石採集を始めたいという人は?
「自然史系の博物館などで情報を集めてみてください。化石採集地は崖があるなど危険な場所も多いので、最初は指導員が同伴する初心者向けの採集ツアーに参加するのがお勧めです。宝探しのようなワクワク感、ぜひ体験してください」


(松岡理絵)


うつのみや・さとし

1969年、愛媛県生まれ。立命館大学産業社会学部卒業。パナソニック電工株式会社住建マーケティング本部勤務。ライフワークとして化石採集を続けている。著書に『クビナガリュウ発見!』(築地書館)がある。


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