編集部より:「シビックエコノミー」の動きの一つとして、株式会社マイファーム」代表・西辻一真さんへのインタビュー記事です。(提供:オルタナS、一部編集して掲載)
自産自消できる社会づくりを目指す
(西辻一真さん)
自産自消できる社会づくりを目指すマイファームでは、農の楽しさから入り、業につながる仕組みを持つ。趣味としての農をのぞいて、一般的には、業(仕事)から農を考えるものだが、それと真逆の考え方だ。
生産者の高齢化・後継者不足・耕作放棄地問題など、農にまつわる課題は山積しているなか、同社の西辻一真社長のビジョンを聞いた。
農家を増やすアプローチに可能性がある
――2007年に会社を立ち上げていますが、立ち上げの経緯を教えていただけますか。
西辻: この会社を立ち上げた根底には、耕作放棄地の問題を何とかしたいという思いがあります。日本の耕作放棄地の面積は、約40万ヘクタールで東京都の約2倍の規模です。
この課題を解決するためには、生産者を増やしていくことが必要だと考えました。そこで、農を「楽しい」から始まり、業として続けられる会社をつくりたいと思い、起業しました。
ぼくは、農にかぎらず、何をするにしても、楽しいから入らないと続けられないと考えている人間です。こう考える背景には、ぼくの幼少期から高校時代にかけての体験があります。
ぼくは人口1万人強の福井県三国町で生まれました。親は農家ではなく、サラリーマンでした。その当時は、会社の社宅に住んでいたのですが、庭に家庭菜園があり、この菜園があったことで、ぼくは農とつながれました。
親に農作業を教えてもらいながら、5歳から野菜を作っていました。夏でも冬でも、毎朝6時ごろには起きて、学校に行く前の日課として、世話をしていました。ニンジン、大根、茄子など、天候に気をつけて、毎日かわいがってあげれば、大人顔負けの本当に美味しい野菜ができます。すると、親がほめてくれて、ますます農作業が好きになっていきました。
ぼくは農作業の楽しさを実感していたのですが、高校の通学路で、耕作放棄地の多さが目に付くようになり、「農作業はこんなに楽しいのになんで?」と疑問を覚えるようになりました。
大学は京都大学の農学部に進学したのですが、将来、耕作放棄地を生かして、バイオテクノロジーの研究者になって、新しい品種の作物を育てたいと思っていました。
ただ、その学部で学び、分かったことは、ぼくがしてきたことは、農であり、業(仕事)ではないということ。楽しいと感じていたのは農だけで、業の辛さを体感していなかったのです。多くの研究では、経済原理にそって「業から始まる農」を考えられています。ぼくの考え方とは真逆です。
食糧危機の問題に対しても、世界の人口が増えていくので、生産者一人あたりの生産量を増やす計画をたてています。でも、ぼくは、その方法だけでなく、農家そのものを増やすアプローチもあると気付き、そちらに可能性があると見込みました。
業にするという悩みや不安もきっちり解消でき、農を「楽しい」から入るビジネスモデルを構築できれば、耕作放棄地の問題の解決につながると考えています。
農産物を通して、コミュニケーションがとれる
――農を「楽しい」から入って、業として続けていくためには、どのような課題があるとお考えでしょうか。また、その課題をどのように解決していきますか。
西辻: 農業にまつわる最大の課題は、「クリエイティブさ」にあると考えています。創意工夫で課題を解決していこうとするスタンスがあまり見えません。たとえば、収入の低さになげいているのに、売上につながる直販を考えないことや、米の需要が減っているのに、小麦に切り替えないことなど、積極的に考えて、動く農家がまだまだ少ない。
考えない背景として、政府からの補助金や市場制度に頼ってきたことがあると見ています。工夫がないから、儲からないし、面白くもならない。
――御社の事業活動では、気付きを与えることを意識しておりますが、どんなことに気付いてほしいですか。
西辻: まず、野菜作りの楽しさに気付いてほしい。そして、その次に、自然と人との距離が離れていることに、気付いてほしい。
ぼくは幼少期から、野菜作りをしてきましたが、そのときに子どもながらに気付いていたことは、美味しい野菜を作れば、親にほめられるということ。農産物を通して、コミュニケーションがとれることに気付いたのです。農は、生きるための手段でもあるのですが、周りの人や自然とつながり、心地よく生きるための手段でもあると思っています。
アグリイノベーション大学校では、西辻社長も講師の一人として登壇
――新規就農者を育成する、ビジネススクール「アグリイノベーション大学校」では、350人の卒業生を出して、そのうちの40人が専業農家(残りは、半農半X)として活躍しています。農の楽しさを、どう伝えているのでしょうか。
西辻: この学校では、「安心して農家になれる仕組み」をつくっています。一言で言うと、卒業後の、アフターフォローです。耕作放棄地の紹介や、生産した野菜をうちの八百屋で販売していくといった販路のサポートをして、農へのワクワク感をとめないような仕組みを取っています。
――通年で中途採用10人を予定していますが、一緒に働きたい人物像はありますか。
西辻: 面接するときに必ず言っているのが、大前提としてマイファームへの理解・共感があること、そして、3つの柱を持っているかです。3つの柱とは、素直・勤勉・積極性です。また、感覚的ですが、農業界に夢を抱いていたり、この会社でやりたいことに満ち溢れているような人は大歓迎です。
業務内容は、全国に50ヵ所以上ある農園の管理、アグリイノベーション大学校の講義企画や生徒さんの管理など。配属された部署では、リーダーとなり、積極的に意見を言って、動いてほしい。勤務地は、東京・名古屋・京都のどこかです。年齢・経歴は問いません。
農の課題は山積し、こうすれば解決するという答えはありません。それでもぼくは、楽しさから始まって、業につながるという仕組みで、この課題を解決していけると信じています。ぼくたちと一緒に、人と農をつなげる仕事をしてみませんか。
西辻 一真
1982年福井県生まれ。2006年京都大学農学部資源生物科学科卒業。株式会社ネクスウェイに入社し、営業と企画を担当。07年退社。京都の伝統品をネット販売する株式会社おこしを起業。同年、株式会社マイファームを設立し、代表取締役に就任。10年から農水省政策審議委員。著書に『マイファーム 荒地からの挑戦 農と人をつなぐビジネスで社会を変える』(学芸出版社)