(2010年1月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 第134号より転載)

 

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貧困に衝撃を受け
小学校付属果樹園のアイディア

砂漠の緑化、それはロマンとして語られてきた。高見さんも最初はそうだったという。でも、現場で苦闘するうちに、考えが変わってきた。「木を植えれば砂漠が砂漠でなくなるわけでも、砂漠化が止まるわけでもない」

偶然の機会にある村を訪れた時、そのことに気づかされる。緑化活動の中で貧しい村に遭遇するのは珍しくないが、「あれほどのところは見たことがなかった」と高見さんは言う。

「小学校を見てびっくりしたんです。あばら屋の屋根が波打ち、冬はマイナス30度近くになるのに、窓は障子で、それも穴だらけ。裸電球1個の薄暗い教室で1年生から3年生までが勉強していました。4年から上は別の村の学校に行くんですけど、どれだけ行っているか、その学校の先生は知らないと言っていました。村を歩くと、妹を背負い、弟の手を引いている女の子なんかがいて、『学校に行きたくないのか?』と聞くと、黙って下を向いて泣き出したりするんです」

「緑の地球ネットワークは設立当初から、『21世紀に人類が直面する最大の課題は、地球環境問題と南北問題だ。この2つは同時にしか解決できない』と言っていました。でも、このような現実に直面した時、私は気後れして、子どもたちにカメラを向けることもできなかった。毎晩一緒に酒を飲んでいた現地のパートナーもその貧困ぶりに衝撃を受け、『今晩は飲む気になれないから、ひとりでやってくれ』と言うんです。私だって、飲む気になれない。こんな村で、地球環境のために木を植えましょうと言ったって、それどころじゃないですよね。その晩、招待所の硬いベッドで考えたんです。私たちにできることはないだろうかと。思いついたのが、小学校付属果樹園でした」

小学校付属果樹園とは、アンズなどの果樹を植え、収益があがるようになれば、7〜8割は管理した農民の取り分とし、残りを村の教育支援に回してもらうというもの。名称からは校庭の片隅の果樹園を想像しがちだが、最大の村では100ヘクタールもある本格的なものだ。その第1号プロジェクトが思わぬ効果をもたらした。緑の地球ネットワークが支払う労賃を、村の人たちが自主的にプールし、半年後に立派な小学校に建て替えられたからだ。別の村では、同じようにして給水設備が建設された。

 

緑化への積極性引き出す、長、中、短期計画の組み合わせ

「水土流失と風砂を防止するためのマツの植林は私たちの本命ですが、経済効果が出るまでに最低20年はかかります。それに対して果樹は4〜5年で成果を得ることができ、農民にとっては中期の利益になり、さらに小学校や給水設備の建設は短期の利益になる。この長期、中期、短期の組み合わせが、農民の緑化への積極性を引き出すためには重要でした」

砂漠化のような環境問題は貧困問題と構造的にからみあっている。高見さんはこれを「環境破壊と貧困の悪循環」と名づける。それは、どういうことだろうか?

「黄土丘陵では、貧しい村ほど畑が広いんです。村が小さくて、農家数が少ない。一戸あたりの面積が広いんですね。土地がやせていますから、広くなければやっていけません。そして、こういう村ではウシやウマなどの大家畜を飼うことができません。畑を耕すのは、すべて人力。飲み水は谷底の井戸や湧き水で、これも人が担ぎます。どちらもきつい筋肉労働で、男の仕事です。こういう農村では、男手がないと暮らしがなりたたないんですね」

「男の子が生まれるまで子どもを産もうとしたわけですよ。その結果、貧しい村ほど子どもの数が多い。人口が増えると、それを養うだけの食料が必要ですから、耕地が拡大され、森林や草地が破壊される。すると植生が貧弱化し、水土流失が激化する。土地がやせ、生産が上がらなくなり、貧困化する。するとまた子どもの数が増える。農耕でまかなえない分をヒツジやヤギの放牧で補おうとしますから、それでまた植生が痛めつけられる」

黄土高原の農村では、こうした悪循環が長く続いてきたという。

環境問題は、姿を変えた人口問題です。重要なことは、この悪循環にはまると、その内部にいる人の努力では抜け出せないことです。簡単に脱け出せるなら、そもそも悪循環は成立しません。たとえば、誰かが貧困を脱け出そうと決意して、山裾を開墾して畑を広げたり、放牧のヒツジの数を増やすとしますよね。一人なら成功できても、村のみんなががんばると、逆に悪循環が強まってしまう。サラ金で借金した人が利払いに追われて、また別のところで借りてズルズル深みにはまるのと似ています。その時に、『このお金で高利の借金を返したらいい。俺に返すのはいつでもいいから』と言ってくれる人がいたら立ち直れますよね。外部の支援が必要なんです」

 

砂漠化を止めるためには、原因の除去か、軽減しかない

小学校附属果樹園は、延べ50以上の村に建設され、収穫も行われている。アンズは、アワやジャガイモなどに比べ、5〜10倍の収入になるため、貴重な収入源となっている。教育に関しても、大きな変化がある。毎年、数人の大学生を輩出する村も出始めている。

また、高見さんは、「果樹園は、水土流失や砂漠化の防止にもつながる」と言う。

「アンズが育って、隣の木と枝葉が重なるようになるでしょ。雨が降っても、枝葉で受け止められ、幹をつたって地面におり、根に沿って地中に入るんですよ。雨が直接、大地をたたくことがなくなり、土が流されることもなくなります」

「予想外だったのは、剪定した枝が燃料になることです。それまでは山の木を燃やしたり、トウモロコシの茎やアワ、キビなどの藁を燃やしていたんですけど、その必要がなくなります。周囲の植生がだんだん回復し、ワラなんかも堆肥として畑に戻せるようになる。それが耕地の回復と生産性の上昇につながりますね。農家の収入が増えて子どもが学校に通うのが当たり前になれば、人口も抑制されてくるんです」(図2参照)

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高見さんは、環境を壊す過程が循環であれば、森林が再生するのも循環だと話す。

「砂漠が砂漠であるのには原因があります。砂漠化が進むのにも原因があります。砂漠化を止めるには、その原因を突きとめて、それを取り除くか、軽減するしかないんですね。長い時間をかけて、やっと気づいたんです。周囲の植生がだんだん回復し、やがて森林が再生します」
(稗田和博)

 

(プロフィール)

たかみ・くにお
1948年、鳥取県生まれ。70年、東京大学中退。その後、日中の民間交流活動に従事。92年、NGO「緑の地球ネットワーク」の設立に参加し、94年から事務局長を務める。1年の3分の1を中国・山西省の農村で過ごし、植林活動を行う。著書の『ぼくらの村にアンズが実った 中国・植林プロジェクトの10年』(日本経済新聞社)は中国版、韓国版も出ている。

認定NPO法人緑の地球ネットワーク
TEL 06・6576・6181

インタビューの続きはこちら。
「私自身、『日本鬼子!』と罵られたこともあります」:中国で緑化に取り組む「緑の地球ネットワーク」の取り組み【第3部】

インタビューの前編はこちら。
“砂漠化の原因となる「水土流失」を「グリーンベルト」で防ぐ。高見邦雄さんに聞く中国の緑化プロジェクト【第1部】






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