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(2016年12月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 300号より)


東電の負担軽減を狙う委員会発足、政府はすでに10兆円を支出

東京電力による福島第一原発(1F)事故の損害の負担を巡って、経済産業省内で議論が続いている。同省は非公開の「東京電力改革・1F問題委員会」(東電委員会)と「電力システム改革貫徹のための政策小委員会」(貫徹委員会)を発足させて、東電の賠償責任を「広く薄く」国民に負担させる方策を話し合っている。
福島原発事故の損害額は13.2兆円に達している。大まかな内訳は廃炉費用が2兆円、除染費用4.8兆円、そして損害賠償費用6.4兆円である。

事故が起きた年の9月に政府は賠償の仕組みを法で定め、これを実施する原子力損害賠償支援機構を設立させた。これに基づき、政府はこれまで東電に9兆円を「貸付け」、さらに1兆円の出資を行い、株式の半数強を取得して、東電を支援してきた。破産させずに事故の賠償責任を負わせるためという。

返済の仕組みは、東京電力が「特別負担金」を、東電を含めて原発を持つ全電力会社が発電量に応じた「一般負担金」を毎年支援機構に支払う。一般負担金は私たちの払う電気料金に含まれている。東電はそれなりに「経営改革」を進めてきた結果、利益を出せるようになったにもかかわらず、増え続ける損害額をこれまで以上に国民転嫁することを求めている。

廃炉資金の流れは「闇」の中
増え続ける賠償費用 託送料金を通じ、全消費者が負担

事故による損害額は、どの項目も今後増えていくことが確実視されている。東電は廃炉費用を毎年800億円程度と見積もっていたが、東電委員会の資料によれば年間数千億円になると言う。溶け落ちた核燃料(燃料デブリ)の取り出し費用を見直した結果と説明している。

しかし、1F廃炉の資金の流れは依然として「闇」の中である。たとえば、凍土壁の建設費用は東電の負担ではなく、国の技術開発費が使われている。調査のためのロボット開発の費用や前代未聞の廃炉に向けた技術開発など、すべてが国の税金で賄われる。また、廃炉費用の一部はすでに電気料金に含まれている。実態として東電の負担額がどの程度かは明らかになっていないのだ。電気料金に含まれている一般負担金や廃炉費用を今後は送電部門に振り替えて回収するとしている。

除染費用も増えている。除染廃棄物を入れているフレコンバックは劣化するので、見通しの立たない中間貯蔵への輸送開始がさらに遅れれば、詰め直し費用がかさんでいく。費用はすべて政府が立て替えて支払っているが、この立て替え費用は、政府が取得した東電株を売却して返済することになっている。1兆円の株が3・5兆円で売れると辻褄合わせをしているが、将来的にも東電株が現状の3.5倍になる見通しはとうてい立たない。そして、これから始まる里山の除染や道路側溝の除染費用は東電に求めず、税金から支出されることになっている。

避難生活も長引き、損害賠償費用も増加が予想されている。それでも東電は請求額のすべてを払っているわけではないので、裁判になるケースが増えている。また、自主避難者への住宅支援の打ち切りなども進められつつある。こうした費用も送電部門に乗せて、国民負担にすることが計画されている。

本来は東電が責任をもって支払うべきものが、巧妙なからくりで国民に転嫁され、さらに一層の国民負担を強いる仕組みが審議されているのだ。(図)
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2020年、大手電力会社の発電部門、送電部門、小売部門の3つがそれぞれ分離独立(分社化)する予定だ。送電部門は中立性が求められるとして、料金は規制され、適正利益が保証される。既存の電力会社との契約を解消して新電力と契約しても、送電線は借りることになり、この料金を託送料金と呼ぶ。

送電部門に乗せるということは、託送料金を通して、全消費者が費用を負担することを意味する。納得がいかないのは、東電の大株主たちが責任を問われずに負担を免れている点だ。まず、大株主が身を切らなければ、とても納得できるものではない。

 (伴 英幸)

伴 英幸(ばん・ひでゆき)

1951年、三重県生まれ。原子力資料情報室共同代表・事務局長。79年のスリーマイル島原発事故をきっかけとして、脱原発の市民運動などにかかわる。89年脱原発法制定運動の事務局を担当し、90年より原子力資料情報室のスタッフとなる。著書『原子力政策大綱批判』(七つ森書館、2006年)





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