ジャガイモやパスタから作ったシャンプー、しなびた果物や野菜から生まれる抗生物質、ワラに含まれる成分を使った口紅―ヨークにある研究所が、食品廃棄物が原材料に変わることを実証した。

このバイオ再生資源開発センター(BDC)が開発する手法には、グラクソ・スミス・クラインのような企業が興味を示している。BCDは、毎年英国で廃棄される1500万トンもの食品廃棄物についての新たな解決法を提示する。(ロジャー・ラトクリフ/The Big Issue North-UK


そこに集う人々はマッドサイエンティストには見えず、たくさんの人々が楽しげにコンピューターに向かっていただけだった。建物も昔のホラー映画に出てくるおどろおどろしい城などではなく、ヨークシャーの工業団地に建つ現代的なビルだった。

 しかし、そこで行われていることは、一昔前なら狂気の沙汰と思われただろう。手がかりは、室内で静かにうなりをあげている1台のマシンからただよう匂いにあった。その腐敗臭はまるで…―いや、詳細に述べないほうがいいだろう。なにしろ、ここでなされた発見は、身だしなみを整えるケア用品や医薬品に利用されるかもしれないのだ。

「我々はごみを化学物質に変えて、有効利用しています」と話すのは、ファビアン・ディズワルト。フランス人の彼はヨーク大学で化学の博士号を取り、現在はバイオ再生資源開発センター(BDC)のグリーンテクノロジービジネス部門のひとつを率いている。

『ごみ』といいましたが、それは適切な表現ではありません。時代遅れですし、別のことばを見つける必要があるでしょう。ある人にとって使いみちがなくなったものでも、他の誰かにとっては欠かせない原材料になりえます。そう考えると、実際には『ごみ』ではありませんから
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ニューヨーク市にあるバイオ再生資源開発センター(BDC)で働くファビアン・ディズワルト博士(Photo:Roger Ratcliffe)

ディズワルト博士は、BDCのプロジェクトの多くは社外秘なので具体的な話はできないし、取引先である大企業の一部については名前を明かすこともできないとした上で、彼のチームが開発して間もなく市場に出る革新的な製品のいくつかについて話すことに同意してくれた。

そのひとつが、食品加工過程で出た果物や野菜のくずを原材料にした抗生物質だ。糖分を発酵させ、微生物から活性物質をつくる方法は、ビールの製造過程とほぼ同じだという。

この廃棄物を使った新しいアプローチは、世界最大の製薬会社のひとつであるグラクソ・スミス・クラインの興味を引いた。同社は、抗生物質の原材料として、ヨーロッパ大陸から小麦の穀粒を輸入しているが、より価格の安定した原材料を探しているところだった。

このプロジェクトは研究開発段階を終え、BCDでいう「パイロットスケール」、すなわち実験装置よりも大きな設備を使った試作に入ったところだ。量産可能と実証されれば、次は商品化に向けた生産となる。

廃棄物の様々な可能性に注目している企業は多いとディズワルト博士は話す。
我々の研究への注目も高まっています。色々な利用方法が考えられます。廃棄物からできる化学物質を使って高い価値を生み出せるのです。


そうした企業のひとつがヨークシャーにあるクローダ社だ。同社は、1920年代に、ブラッドフォードの紡績工場で使われていた羊毛を使って、羊毛に自然に存在する脂肪から出るラノリン成分を含む石鹸やクリームの製造業から出発した。その後、自然由来の再生可能成分の開発に事業を拡げ、ロレアルやユニリーバなどの企業にボディケア・ヘアケア用品の原料を供給している。

クローダ社の委託を受けて、BDCはふけ用シャンプーの新しい成分の製法開発に着手したところだ。ふけの原因となる真菌感染を防ぐ微生物を、パスタやジャガイモの廃棄物を使って量産できる可能性があるという。

原材料は、食品加工工場でごみとして処分するしかなかった大量の廃棄物でまかなえる。たとえば、ポテトチップスの製造工場からは何トンものジャガイモの皮が出るし、パスタ工場では規格からはずれたロットは捨ててしまう。

食品工場からは、食用には適さなくても炭水化物を豊富に含んだ副産物が生じます。ですが、これらを糖化させれば、素晴らしい栄養源となり、高価な商品の原材料になります。それが、BDCが注力する分野のひとつなのです。
こうした自然由来の再生利用資源の有望な用途のひとつが化粧品だ。ヨーク大学のある研究者は、ワラの表面にあるワックス成分が口紅の材料になると発表した。二酸化炭素を溶媒としてワラ表面からワックス成分を抽出するのだが、これはコーヒーのカフェイン成分を除くときの加工法とほぼ同じだ。

もうひとつ興味深いプロジェクトを紹介しよう。一般的な石油由来の潤滑油の代用品の開発だ。新種のナタネから採ったオイルは料理用ではなく、エンジンや電動工具用の自然由来潤滑油の材料になる。事業パートナーのもとで収穫されたナタネからBDCが搾油したオイルは、石油由来潤滑油の長期使用や流出により環境汚染が懸念され代用品の開発が望まれている林業や海洋業の現場で、実験的な使用が始まっている。

また、BCDでは木材や食品廃棄物から多孔性材料を作る研究を行っている。成功のあかつきには、携帯電話やスマートフォンなどのバッテリーでの使用が考えられている。この4カ年計画のプロジェクトは始まったところで、ディズワルト博士は、期待は大きいと話す。

実際のところ、『食品廃棄物』というと間違ったイメージを与えてしまうと思います。食品廃棄物からできた製品を使うのを躊躇する消費者もいるかもしれません。むしろ、『食品副産物』と呼ぶべきでしょう。
英国では毎年、推定で1500万トンもの食品が廃棄されていることが大々的に報道されたところだ。BDCによれば、その多く、例えば、食品加工の過程で廃棄されるジャガイモの皮、タマゴの殻、トマトのへた、タマネギの皮は再利用が可能だ。

今では、多くの活動を通じて、余剰食品は販売されたり、貧しい人々に無償で提供されるようになった。しかし、どうしても発生してしまう食品廃棄物を有効利用するために国内各地で行われている革新的な試みについてはほとんど知られていない。

ディズワルト博士によれば、オレンジの皮も化学物質をつくる原材料になる可能性がある。その成分には様々な用途があるにもかかわらず、ブラジルではオレンジジュースの製造過程で毎年800万トンものオレンジの皮が廃棄されている。
調査を始めたばかりですが、オレンジの皮を役立てる方法があるのは確かです。人々がごみだと思っているものを資源として活用できれば最高ですね。
これらの画期的なアイデアがあれば、BDCを株主であるヨーク大学は特許をとって、何百万ポンドもの収入を得られるのでは? 

そう尋ねると、デワルト博士は一笑に付した。知的財産権というものについて過大な期待をいだいていてきた、と彼は言う。世界的に有名なマサチューセッツ工科大学(MIT)で教える博士の友人の話では、MITですら特許収入よりも大学ロゴの入ったTシャツの販売から得る収入の方がずっと多いらしい。
Courtesy of Big Issue North / INSP.ngo




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