内戦で混乱するシリアから逃れようとして、船の転覆事故でアランくん(当時3歳)が地中海で溺死したニュースが流れたのは2015年9月のこと。
ソーシャルメディアでも多く取り上げられたので記憶に残っている人も多いだろう。
*この記事は、地域の課題解決を担う人材を育成することにより地域の魅力を高め、地域の未来を創造していくことをめざした「とよなか地域創生塾」の公開講座の3回目、大阪大学 国際公共政策研究科特任講師 安藤由香里さんによる「多文化共生とは何か?~難民・移民と共に生きるには~」の講義をもとにしています。

2016年、地中海で溺死した難民は7,500人

日本で生まれ、日本で育っているとピンとこないかもしれない。
シリアの人々もそれまでは平和に生活していたが、2011年に起こった"アラブの春"をきっかけとする内戦のために、住民は国を出ることを余儀なくされた。

家や学校は爆撃で破壊されてしまい、仕事も失う。命の危険もあるため、シリアにいても希望はない。シリアから出国した難民はこれまでに500万人。
陸路以外に、密航業者に頼むなどして地中海を渡ろうとして溺死したり行方不明になったりした人は2015年に3,700人、2016年に7,500人を超えている。

冒頭の溺死したアランくんも、家族で地中海を渡ろうとして事故に遭い、亡くなった。
アランくんの父親はカナダに住む自分の姉に呼び寄せを頼んでいたが、カナダに受け入れられることのないまま、悲劇が起こったことから、カナダ人は責任を感じ、プライベート・スポンサーシップでシリア人を受入れようとする世論が高揚した。

カナダの難民受け入れが「民間」の協力を得て変わってきた

カナダでは、「難民移民収容施設」と「コミュニティ受入れ」で難民・移民を受入れてきた。
しかし、国が難民を「収容施設」に収容していると、生活費や担当職員の人件費などでコストがかさむ一方。その点、民間の力を借りた「プライベート・スポンサーシップ」と呼ばれる「コミュニティ受け入れ」は、施設収容よりも費用はかさまないし、社会統合もされやすい。

【制度の概要】
① 民間難民受け入れ認証団体が難民キャンプなどに出向いて難民を認証 (カナダ政府が認定したNGO団体が複数ある)
② 18歳以上のカナダ国籍者・永住者が5人以上で集まって、「この難民を受け入れたい」と手を挙げる。
③ 政府が許可を出すと、その難民は②のコミュニティに受け入れられる。
※定住地域の学校・会社・町内会等コミュニティが受け入れすることもできる。
② のグループが1年間の生活費を負担(言葉や文化が違うこともあり準備期間として負担)
これでカナダに来た人には永住権が付与される…という仕組みだ。
カナダでの1年間の生活費は日本円で約88万円、加えて生活スタートの時に準備金でトータルひとり約110万円。これを「受け入れたい」と手を挙げた人々で負担する。
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この仕組みで、カナダ(ケベック除く)の第三国定住数(難民が別の国に移住し、その後カナダに第三国として定住した数)は政府主導の収容施設で、2010年~2014年に、24466人、上記のプライベート・スポンサーシップで22737人と、半分近くになるという。

プライベート・スポンサーシップの特色は、
・政府が税金で受け入れる難民に加えてさらに難民受け入れが可能
・きめ細やかな生活支援が可能
・地域コミュニティに溶け込みやすい

などのメリットがある。

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もちろん課題もある。
・支援者側の気持ちが変わり途中でやめたくなることがある
・支援者と難民の間のいさかい、行き違いが発生することがある
・難民がカナダ以外の情報を聞いて移動したいと言い出すことがある
・家族が離婚し、家族全体を支援できなくなることがある

といったケースだ。

こういった課題は、国の援助も得ながらカナダ各地にあるNGO同士で情報連携し、課題解決のための情報交換を進めているという。
なお、言語の違いは民間難民受け入れ認証団体などが提供する英語クラス(乳幼児のいる場合は母国語での託児サービスがついていることもある)を利用ができる。

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また、自立を促すための就労支援サポートもかなり手厚いという。
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なぜ市民が「難民」を受け入れるのか

難民を「収容」すると「コスト」のかかる「問題」であることは避けようがない。
だが、難民を「自国に多様性をもたらす資源」として捉え、コミュニティが受け入れられるのであれば、もはや「難民」は「問題」ではなくなる。
多様な考え方の交流はダイナミズムを形成し、活力やビジネスアイデアにもつながる可能性を持つ存在なのだ。

日本への難民申請とその受け入れ状況

日本に保護してくださいと申請してきた人たちは、平成19年には1,000人もいなかったのが、2016年には10,901人と、前年に比べ3,315人増加し,過去最多となった。
主な国はインドネシア、ネパール、フィリピン、トルコ、バングラディッシュなどから逃れてきた人々だ。そしてそのうち、日本政府が難民認定したのは28名のみ。この認定率は世界的に見てもかなり低い数字である。
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©認定NPO法人難民支援協会

安藤先生はこの数字の低さをこのように説明する。
1951年に定められた国連難民条約の「難民の定義」は「①人種 ②宗教 ③国籍 ④特定の社会的集団の構成員 ⑤政治的意見・・・の5つのいずれかを理由に迫害を受けるおそれがあるという充分に理由のある恐怖を有するために国籍国の外にいる者」とされていますが、日本は④を他国で認めていても日本で認めていないことがあります。
また、難民認定はとても難しく、難民認定をする人のための研修システムも他国と比べるとまだ充実していないことにも原因があります。
編集部補足:
認定NPO法人難民支援協会のサイトにも「日本の難民認定率が低い理由」の解説が詳しいので興味のある方はご覧ください。
https://www.refugee.or.jp/


誰でもできる、多文化共生の取り組み

グローバル化・多様化が進むなかで、社会に生きる限り避けられないこととして「人の移動」は必ず起こるため、様々な文化の人々と「共に生きること」も必須となる。
難民認定は政府の仕事だが、様々な文化の人々と「共に生きること」は市民レベルでも意識を持ち、できそうなことを行動に移していく必要がある。
最後に「市民ができる、多文化共生の取り組み」例として安藤先生から次の事例を紹介。
安藤先生:
「市民が、できることを無理しない範囲で続けること。そして民間だけでなく自治体、学校と共に進めていくとよいのではないでしょうか」

■食を通して

Meal for Refugee(M4R)

「難民の故郷の味を学食に。」という取り組み。
難民支援協会が日本で暮らす難民と共に作ったレシピ本、難民支援協会『海を渡った故郷の味 Flavours Without Borders」2013年をもとに、大学の学食などでその国の料理を提供する活動。
関西からは大阪大学や関西学院大学が参加している。
https://www.refugee.or.jp/jar/report/2013/06/10-0000.shtml

 編集部補足:難民ではないが、外国人市民が日替わりでシェフとなる多文化な家庭料理を提供するレストラン「コム・カフェ」のような取り組みもある。こちらはビッグイシュー307号に詳しいのでぜひ「多文化共生」に興味のある方は読んでいただきたい。
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■映画を通して

難民をテーマにした映画のチャリティ上映会をするという手もある。
チベットからインドへ亡命した少年の3年間を追ったドキュメンタリー映画「オロ」を、大学生が企画しイオンシネマ茨木でチャリティ上映会をした―ケースもある。

ビッグイシュー305号の「監督インタビュー」で登場した『海は燃えている~イタリア最南端の小さな島~』も難民・移民がたどりつく島を追ったドキュメンタリー映画だ。

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編集部より:

日本にも、難民の方を受け入れるホームスティ家族を募集してマッチングする、という活動をしている団体があります。受け入れ家族として登録するほか、日本に来た難民の人たちを支援している団体に寄付したり、トークイベントの開催、参加などで支援することも可能です。
▼WELgee(=WELCOME+refugee 〜難民の人も歓迎できる社会に〜)
http://welgee.jp/


 次回のとよなか地域創生塾の公開講座【第4回】は8月26日、テーマは「「地域問題の解決には『お金』よりも大切なことがある」、講師は猪井博登さん(大阪大学大学院工学研究科助教)です。

とよなか地域創生塾の詳細はこちら
http://toyonaka-souseijuku.org/

今回の講義に関連するビッグイシュー

ビッグイシュー日本版、8月1日発売の316号の特集は「ここに、平和」。
国籍や文化、言語の違う人たちとも楽しく時間を共有し理解を深めることができるSNSサービスをご紹介。毎月150か所で800人が交流していると言います。
そのサービスの仕掛人へのインタビューで、サービスを立ち上げようと思ったきっかけや、サービスに込めた想いをご紹介しています。
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http://www.bigissue.jp/latest/index.html

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