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原発事故の損害額、22兆円。
経営破綻回避のため再稼働?日本経済研の計算では70兆円

東京電力は柏崎刈羽原発(新潟県)の6号機と7号機の再稼働申請を2014年12月に行った。以来、原子力規制委員会は厳しい姿勢で臨んできた。東電が都合のいいデータだけで安全評価を行っていると厳しく叱責する場面も幾度か見られた。まだまだ審査結果には至らないだろうと思われていたが、9月になって急転直下、「審査結果をまとめる(=事実上の安全審査合格)」と田中俊一原子力規制委員長が方針を示した。在任中に結論を出すことを求める強い政治的な圧力があったことを推測させる出来事だった。



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16年1月に東電イチエフ問題委員会が経済産業省内に設置され、福島原発事故の損害額が見直され、従来の2倍の22兆円に跳ね上がった。このままでは東電が経営破綻することになるので同委員会は救済策を提案。これを受けて東電は総合特別事業計画を改訂した。3度目の改訂で、「新々特総」とも呼ばれる。

そこには、柏崎刈羽原発6、7号機だけでなく、同1、5号機の再稼働も視野に入れ、早ければ19年、遅くとも21年の運転を目指すとある。なお、同2~4号機は07年の中越沖地震以来停止したままだ。

今回、規制委員会は東電の経営破綻を回避するために、柏崎刈羽原発の再稼働を認めたことになる。
同6、7号機を再稼働するためには、今後は補強工事など必要な安全対策工事を行わなければならないが、報道によれば、その費用は総額で6800億円に達する。その投資を回収するだけでなく、福島原発の廃炉・賠償費用22兆円も確保しなければならないが、そんなことは可能だろうか? もちろん、22兆円で済む保証はない。日本経済研究センターは最大70兆円と評価している。ずるずると国費を投入し続けることになる恐れが高い。

活断層の存在認めない東電
独自の検討を貫く新潟県

規制委員会は東京電力に対しては特別に、「事業者としての適格性」も審査対象とした。あのような大事故を起こし、未だに5万人の方々が避難生活を余儀なくされ、甲状腺がんなどの健康影響も心配されるなかでは当然のことである。

しかし、福島原発の廃炉をやり抜く覚悟や費用確保などに関して7項目の問いに対する東電の文書回答は、廃炉や賠償を主体的にやり抜く決意を述べるものの、具体的な対応策はない。廃炉は計画通りには進んでいない。

さらに、東電はこれまでさまざまなトラブル隠しを行ってきた。そのたびに「失った信頼を取り戻すために情報公開に務め、全力を尽くす」と表明。しかし、隠ぺい体質は今なお続く。福島原発事故後もメルトダウンを2ヵ月あまり隠していたし、事故直後に隠ぺいを指示していたことは5年経ってようやく明らかになった。7月には免震構造で建設した重大事故対処施設の耐震不足を3年間も隠していたことが明らかになった。このような隠ぺい体質が改まらない東電に、原発を運転する資格があるのだろうか。

柏崎刈羽原発の適合性審査においても、同5〜7号機の直下を走る12本の断層を「活断層ではない」と主張。地元の地質学者らによる現地調査結果と根本的に食い違っているが、意見交換を拒否している。規制委員会は東電の主張を鵜呑みにし、審査書には在野の学者たちの科学的な調査結果を吟味した様子が見られない。規制基準に合格してもこれでは安全だとはとても言えない。

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再稼働には地元自治体の同意が必要となるが、新潟県は規制委員会の審査結果に左右されないで、独自の検討を続けている。福島原発事故の原因究明なしに再稼働はあり得ないとする立場で、泉田裕彦前知事の時代に技術委員会を立ち上げ原因究明を進めてきた。米山隆一知事はこの姿勢を引き継ぎ、新たに避難委員会と健康・生活委員会、それらを総括する検証総括委員会を設置。事故原因の技術的な検討のみならず、事故による影響の回避に関する検討を進めることになった。原子力の安全を確保する役割を担っている規制委員会にこのような姿勢がないことは実に情けない話だ。米山知事は検討結果をまとめるには3〜4年かかると発言している。
(伴 英幸)

(2017年11月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 322号より)


伴 英幸(ばん・ひでゆき)

1951年、三重県生まれ。原子力資料情報室共同代表・事務局長。79年のスリーマイル島原発事故をきっかけとして、脱原発の市民運動などにかかわる。89年脱原発法制定運動の事務局を担当し、90年より原子力資料情報室のスタッフとなる。著書『原子力政策大綱批判』(七つ森書館、2006年)
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