東京近郊の紅葉が見頃を迎えた11月18日、調布市のミズノフットサルプラザ・味の素スタジアムで「ダイバーシティフットサルカップ4(フォー)」が開催された。日中の最高気温は12℃までしか上がらず、この時期としては厳しい冷え込みとなったが、全力で試合をする参加者の体温、たくさんのボランティアスタッフがつくる温かい雰囲気で、寒さを忘れる熱い大会となった。

 朝早くから50名のボランティアが集まってくれました
朝早くから50名のボランティアが集まってくれました

ビッグイシュー販売者も誘導ボランティアをしてくれています
ビッグイシュー販売者も誘導ボランティアをしてくれています

参加者、スタッフ、ボランティア全員が揃った開会式
参加者、スタッフ、ボランティア全員が揃った開会式

4回目となるこの大会は、ホームレスの人たちの自立支援を行うNPO法人ビッグイシュー基金を母体にしたダイバーシティサッカーアソシエーション準備委員会の呼びかけではじまった。「ホームレス」という枠にとらわれず、さまざまな事情で社会生活を送ることに難しさを感じている人たちの交流の場を作ることが目的である。参加者は不登校やうつ、ギャンブル依存症、精神疾患、発達障害、難病などの多様な背景をもつ人たちだ。今回は10チーム150人、応援者も含めると約200人の参加者が集まった。


チーム紹介ポスター
チーム紹介ポスター

前回までの参加チームから「また出場したい」という要望が多数寄せられ、過去最高の参加希望があった。年齢も性別も異なり、フットサルを日常的に練習しているチームもあれば、大会に出るために少し練習時間を設けた程度というチームもある。全てのチームに大会を楽しんでもらうため、今回は初めて、レクリエーションとしてプレーを楽しむ「エンジョイリーグ」と、高いレベルで試合に臨む「チャレンジリーグ」の2つのリーグに分かれてのリーグ戦が展開された。
 
対戦表
対戦表

この2リーグ制は参加者から概ね好評で、若者支援現場で働くスタッフは「彼らには就職して卒業していってもらうのが理想なので、大会に出るメンバーは毎回入れ替わる予定。次回も、新しいメンバーとエンジョイリーグで頑張りたい」と話していた。また常連チームのリーダーからは、「前回の大会で、ガッツリやりたい人と、マッタリやりたい人がいて、2リーグ制が取り入れられた。ダイバーシティカップは参加者と試行錯誤し進化していく大会だと思う」「今後も、女性や初心者が参加しやすいように独自ルールを作るなどの工夫が必要」といった意見が出された。

さて、大会は開会式のチーム紹介から幕を開けた。「ハットトリックをするので、僕をしっかりマークしてください」「点を入れたらカズダンスを踊ります」「きょう1日ギャンブルをしないことが目標です」とユーモラスに意気込みを語るメンバーたち。見事なマイクパフォーマンスで、会場は和やかなムードに包まれた。

開会式で目標発表
 開会式で目標発表

山梨から参加のギャンブル依存症回復にチャレンジ中のメンバー
山梨から参加のギャンブル依存症回復にチャレンジ中のメンバー

 試合前のアイスブレイクでは、体の準備体操だけでなく「心の準備体操」にも重点が置かれた。自己紹介をするごとにハイタッチをする、子どもの頃の夢などをお題にした仲間探しゲームなど、自然と隣の人と話せるような仕掛けになっており、参加者は照れ笑いを浮かべながらも交流を楽しんだ。
「人見知りだが、ハイタッチすることで心が落ち着いた」「子どもの頃なりたかったものなど、自分と同じ部分を持っている人がたくさんいて嬉しかった」等の感想があがっていた。
 
名前を呼びながらハイタッチ
名前を呼びながらハイタッチ
 
3人組で鬼ごっこ
3人組で鬼ごっこ

 試合が進むごとに緊張がほぐれ、対戦したチームと試合の振り返りをしたり、フットサル談議に花を咲かせたりする姿も多く見られるようになった。フットサルを通じた交流について、参加者からは「普段は別々に就労を目指しているが、こういうところに来ると、仲間と一緒に盛り上がる、調和、共生の意識が養われるのでイベントも立派な就労へのきっかけになっていると思う。知的、精神、発達障害などのある人たちとも、アイコンタクトでボールを渡しあったりできているので、不思議。フットサルにはそんな力があるのか、と思った」「社会で働くためには体力が必要で、通勤だけでも疲れてしまう。社会復帰にむけての体力づくりという面でも、フットサルの練習が役に立っている」等の声が聞かれた。共に体を動かし、ひとつのボールを追いかけることで心の壁が取り払われ、より深いコミュニケーションに繋がると感じている人が多いようだ。

 チャレンジリーグの白熱した試合
チャレンジリーグの白熱した試合
 
参加者、スタッフ、ボランティアの垣根を越えて談笑
参加者、スタッフ、ボランティアの垣根を越えて談笑
 
手作り応援グッズも持参
手作り応援グッズも持参

 リーグ戦の後には、10チームの参加者をまぜこぜにしたミックスゲームが行われた。ミックスゲームには、ボランティアスタッフや応援者の他、NPO法人府中アスレティックフットボールクラブから、女子フットサルのトップチーム「プリメイラ」の選手である藤田実桜さんと島崎美和さんも参加した。理事の石森由紀さんは、ダイバーシティカップのことを知り、賞品の提供や審判として大会への協力を申し出たそうだ。今回は、トップ選手のプレーを参加者に見せたいと2人を連れてきた。ゲーム後の感想として島崎さんは「みんな速いしテクニックもあった。いつもは型にはまったプレーになりがちだが、それが取り払われ、プレーしていて楽しかった」藤田さんは「みなさん和気あいあいとやっていていい。フットサルを通してみなさんと繋がれて、楽しかった。またこういう機会があれば参加したい。」と、話てくれた。

 フットサルの女子プロ選手
フットサルの女子プロ選手
表彰式では、疲れは見えるものの、充実感のある笑顔が並んでいた。「今朝は対戦相手がいっぱいいると感じていたが、今は仲間がいっぱいいるなと思っている」「普段は悲しかったり辛かったりすることが多いが、フットサルをやっている間はとても楽しく、辛いことが忘れられた」といった前向きで、次回開催への期待を込めた感想が多く聞かれた。

表彰式の最後にはいくつかの特別賞が発表され、応援に対して送られた賞もあった。表彰されたチームは「フットサルが上手な人も、上手じゃない人も、応援は誰でもできる。うちわを作ったり、旗にみんなで寄せ書きをしたり、ピッチが外でも参加できるように楽しんできた。この賞は感慨ひとしお。嬉しい。」と語った。プレーする人だけが参加者ではなく、大会に関わる全ての人が参加者なのだという温かいメッセージが込められたこの表彰に、大きな拍手が起こった。
 
ピッチ外で大活躍のお母さんを表彰
ピッチ外で大活躍のお母さんを表彰


今回、関東近郊だけでなく、山梨県、宮城県、福島県といった遠方からの参加もあった。宮城県から参加したチームは「来るときに新宿で迷子になったので、帰りは迷子にならないように気をつけます」と明るくコメントして会場を笑わせていたが、実際は、参加者の背景を考えると遠出をするというだけでも精神的・体力的に負担が大きい人もいただろう。しかし、そんな中でも「大会自体があったかく遠方でも声をかけてもらえてありがたい。こういう大会が続いてほしい」、という感想を語ってくれた。大会に参加することに大きな意義が感じていたようだ。

筆者はビデオカメラを持って、できるだけ全てのチームに話を聞こうとインタビューをして回った。カメラを向けたとき「話したくない」という表情をした人は一人もなく、しっかりと自分の言葉で話す人が多かったことに驚いた。それだけ、この大会の魅力を共有し、発信したいという思いを持っている人が多いということだ。また、次回の運営へのアイディアなどを積極的に提案する様子も見られ、参加するだけでなく一緒に大会を作ろうという意識も育っているようだ。この大会が、今後どのような進化を遂げるのかが楽しみだ。(藤村周子)


優勝!
 優勝!

みんな笑顔で集合写真
みんな笑顔で集合写真