子ども・若者の孤立を防ぐ「コミュニティユースワーカー」の育成に力を注ぐNPO法人PIECES。その役割と全国への普及に向けた取り組みについて、代表理事の小澤いぶきさんに聞いた。


部活動やワークショップで自信を取り戻す若者たち
地域や企業が一緒に支える

成人の精神科医を経て児童精神科医をしていた小澤いぶきさんは、周りに安心して頼りあえる関係性が少なく、困難が積み重なってから初めて医療や福祉につながる子どもたちがいることを知り、2016年に「PIECES」を設立した。

そして「子どもの周りに頼り合える関係性のインフラを作り、多様な文化や価値観に触れ、自己決定していける生態系を市民の手でつくれないか」と、若者ホームレスや子どもの貧困の問題に取り組んできた荒井佑介さん(副代表理事)や、スクールソーシャルワーカー、教育プログラムの設計を専門とするスタッフらと活動してきた。

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小澤いぶきさん 荒井 佑介さん 

現在は東京都豊島区で、貧困や虐待、不登校、高校中退などの課題を抱え孤立している高校生年代から20歳前後までの若者の伴走支援をしている。

「たとえば、家がしんどい状況にあり、家出という方法で自分を守る子もいますが、その子に手を差し伸べる相手が、必ずしもその子にとって健やかな関係性ではないこともあります。早い段階から多機能なつながりがあれば子どもの孤立を防げます。そんな仕組みを地域や企業、行政などと作る必要があります」と小澤さんは言う。

事業担当の荒井さんによれば、PIECESではアウトリーチ(※)の他に、ゲーム開発やフットサル、B級グルメツアーなどの部活動に力をいれており、「ゲーム会社の協力で、絵やシナリオなど、それぞれの得意を活かしたゲームを開発し、自信を取り戻して学校に通えるようになった子」もいれば、「大手居酒屋チェーンの研修用キッチンで開いた調理のワークショップがきっかけで、進路選択が変わった若者たち」もいるという。

※対象者がいる場所に出向き、積極的に働きかけること

学生や社会人など50人が在籍
家庭訪問し、若者を居場所につなぐ

PIECESは、孤立した若者を家庭訪問し、1対1で寄り添いながら、こうした居場所につなぐボランタリーの「コミュニティユースワーカー」を育成している。「心理や福祉の道を目指している学生や、企業で働く若手社会人」などで、研修中の人も含めて約50人が在籍している。最近では、行政や地域との連携もできるようになった。

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子どもの学習を支援するコミュニティユースワーカー

「育成プログラムは6ヵ月間で、月に1度は全体で集まる講座があります。午前中は座学で、午後からは子どもと実際にかかわる活動をして、振り返りも行う。その中で子どもの願いを知り、自分のことも見つめ、伴走する姿勢を学んでいく」と小澤さん。今年度は「中央ろうきん若者応援ファンド」の助成を受けて実施、12人が研修を受けている。今後は、支援につながらない子を探し、つながるためのアウトリーチをする人材の育成に着手するという。

来年度からは東京都文京区でも、行政や地域と連携した取り組みが始まる。「子どもの困り事に応じて、登録した大人をマッチングして、いろいろな人が子ども支援に参加できる仕組み」をつくり、コミュニティユースワーカー事業と共に全国に広げていく計画だと荒井さんは話す。


「孤立せず、自己決定がサポートされるような健やかな関係性やコミュニティが、どの子の周りにも当たり前にあるようなインフラになっていくこと、そのための知恵やノウハウが共有されアップデートされ続ける“ラーニングコミュニティ”を日本から世界に広げていきたい」と、小澤さんは夢を描く。



(団体概要)
NPO法人 PIECES(ピーシーズ)
東京都豊島区を拠点に不登校、高校中退、非行、若年妊娠などの状況にある子ども・若者をサポート。家庭訪問や居場所での活動で子ども・若者に寄り添う「コミュニティユースワーカー」を育成することで、孤立の解消と予防に取り組んでいる。
http://www.pieces.tokyo/

中央ろうきん社会貢献基金

 ろうきんは、はたらく人のための非営利・協同組織の福祉金融機関。「中央ろうきん若者応援ファンド」は、家庭環境や経済状況、病気や障害などの社会的不利・困難を抱え、不安定な就労や無業の状態にある若者の自立支援に取り組む団体を応援する助成制度です(2014 年10 月創設)。

若者応援ファンド2019公募
受付期間 2018年10月1日(月)〜31日(水)
☞詳しくは特設サイトをご覧ください
http://chuo.rokin.com/about/csr/assistance/

ビッグイシュー・オンライン編集部より:本誌連動企画として、「中央ろうきん若者応援ファンド2018」の特集記事をお届けします。この記事は「中央ろうきん若者応援ファンド」の提供でお送りしています。






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