千葉県の松戸駅前エリアで「MAD Cityプロジェクト」を進める寺井元一さん(株式会社まちづクリエイティブ代表)に、寺井さんがここでシェアを目指すまちづくりについて聞いた。

創造的な人を後押しする機能なくした東京を脱出
「松戸」に求めた活路

松戸駅は千葉県にあるが、都心へのアクセスはいい。大手町まで乗り換えなしで30分程だ。とはいえ、4年前に活動の拠点を移すまでは、「松戸とは縁もゆかりもなかった」と寺井元一さんは言う。

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Photo:浅野カズヤ 

2002年にNPO法人『KOMPOSITION』を立ち上げ、渋谷を拠点に若いアーティストやアスリートに活動の場や機会を提供する活動をしていた寺井さん。壁画アートプロジェクト「桜木町 ON THE WALL」や、渋谷・代々木公園でのストリートボール大会「ALLDAY」などで注目されていた。「でも、次第に渋谷で活動を続けていくことに限界を感じるようになったんです。渋谷に限ったことではないのですが、都心部では年々規制が厳しくなっていて、やってはいけないことが増えたんです」


 東京は芸術家やクリエーターなど、創造的に何かを生み出そうとしている人たちを後押しする機能を失っている、と感じた寺井さんは都会の片隅を探すのではなく、「もはや都会ではないところ」を活動拠点にしようと考え、2010年5月に松戸にやってきた。

 なぜ、松戸なのか? 「はじめは松戸でなくても、どこでもよかったんです。日本の地方都市って個性があまりなくて、どの町もたいして変わらないですから。でもだからこそ、松戸ならではの価値を見いだして、この町を変えたいと思いました」

 そこで始めたのが、松戸駅西口の半径500メートルエリアを「MAD City」と名づけることで、郊外の街の均一的なイメージを変え、芸術家やクリエーターの活動拠点となるクリエイティブな自治区をつくることだった。「MAD City」の名の由来は、もともと住人の一部の人たちが松戸のことをマッドと自虐的に呼んでいたこと。そしてマッドという単語の意味にある 〝ばかげている、熱狂している〟に、意気を感じたからだという。
松戸はベッドタウンというイメージがありますが、『MAD City』のある駅前のエリアは違うんです。この辺は、江戸時代には宿場町として栄えていた歴史があります。ですから、代々住んでいる地元住民は人々の往来が日常的だったために、新しいカルチャーを受け入れる寛容さと、常識に縛られない自由さをもっている人が多いんです。それが『MAD City』ならではの価値になると感じました。
 半径500メートルというのは、日常的に歩いて移動できる距離であり、普通に暮らしていて人と人が出会うことができる距離でもある。
立派なミュージアムを建てれば、クリエイティブな街になるわけではないですよね。大切なのは、創造性を高め合えるコミュニティをつくること。だから、『MAD City』は半径500メートルというエリアに絞って、同じ地域に住む仲間という意識が生まれるようにしたいと考えたんです。

新住民と地元住民が公共空間をシェア。
「MAD City」らしさは「チャレンジングであること」

さて、「MAD City」の主な事業は、「不動産」と「まちづくり活動」だ。

まず、不動産の物件紹介サービスを行っているのが、「MAD City不動産」。ここで扱っている物件は、かなり個性的で魅力的である。長年放置されてきた空き家や空き店舗なども多く、畑付き、家賃月1万円台の超格安物件などもある。さらに入居者が自由に改装できるため、東京から転入してくる若手芸術家やクリエーターも多く、寺井さんたちが扱った入居者はのべ100人を超えるという。

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MAD City不動産 入居者交流イベント

その一つ、「MADマンション」の70パーセントは「MAD City不動産」の顧客だ。「マンションの一室を開放して、住人のみなさんの共有スペースにしました。昼間は大工作業に使われたり、夜や土日は、住民同士での映画上映会など、さまざまなイベントが開催され、友人も招いて楽しんでおられますね」

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MADマンション (イベント時の様子)

また、築100年の古民家「旧・原田米店」は、芸術家やクリエーターのシェア・アトリエとして使われている。

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 古民家スタジオ 旧・原田米店(アーティストやクリエーターのシェアアトリエ)

その一室を借り、友人3人と建築工房を営む西尾健史さんは、「松戸市五香のショッピングセンターから子どもの本を置く図書スペース(※)の改装を頼まれたり、『MADマンション』の入居者がDIYするための指導もしています。ここで工房を構えるようになってからは、地元の人とのつながりができましたね」と話す。

※ オウル五香 ほうほうステーション。株式会社まちづクリエイティブ運営 

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ほうほうステーション(“つなギブ”というWS時の様子)

また12年から、寺井さんたちは松戸駅前の自治会が参加して、まちづくり活動を行う「松戸まちづくり会議」の事務局も務めていた。これまで、市内の河川敷で結婚式を挙げる「アウトドアウエディング」や、空き地や公園を会場にして、光の絵を描く「ライトドローイング」など公共空間を活用した企画を成功させてきた。「その中で、最初は訳のわからないと思われている僕たちと、地元の方々との接点も増えてきたのではないかと思っています」

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MAD Cityトラベル (MAD WALLを案内中) 

寺井さんは言う。「町の公共空間はみんなのものだから、誰のものでもない。あなたも使っていいし、私も使う。ところが、人間関係が都会化して隣に住んでいる人が誰かもわからなくなってくると、知らない子どもが遊んでいれば〝うるさい〟となる。本来はみんなのものであった公共空間が誰にも使われなくなって、人々が孤立していく。ですから、『松戸まちづくり会議』にかかわるときは、さまざまな活動を通して、公共空間を僕たちのような新住民と地元住民みんなでシェアし直すことで、コミュニティを再構築していけたらという思いもありました」

「MAD City」プロジェクトの最終的な目標は、町の魅力を最大限に引き出して、いい意味で〝ブランド化〟することだ。「『MAD City』をブランド化させていくには、街全体の公共空間、集合住宅の中の共同空間、個人の部屋を自由に改装できる、といった3つの空間それぞれに関して、ここに暮らす人たちと何かを一緒にやっていくことで付加価値をつけていく必要があると思っています。それを通して、僕が考える『MAD City』らしさ、つまり『チャレンジングであること』が出てきてくれたら、うれしい。個人の活動でも、お店でも、何か新しいことに取り組みたい人は『MAD City』に行けばいい、となればいいですね」  (石井綾子)

(プロフィール)
てらい・もとかず 
1977年、兵庫県生まれ。早稲田大学政治経済学部、同大学大学院にて世論調査や政治意識・価値観の統計分析を学ぶ。02年にNPO法人KOMPOSITIONを設立。渋谷を拠点に若いアーティストやアスリートのため、活動の場や機会を提供する活動を始める。2010年5月、株式会社まちづクリエイティブを設立し、「MAD Cityプロジェクト」を開始。

※この記事は、2014年06月15日 発売の『ビッグイシュー日本版』241号からの転載です。

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