“前任者から引き継いだ50年前に作られた企画書を、あなたはそのまま実行しようとしますか?”

 たとえばダム。ダムと言えば「黒部ダム」を思い浮かべる人も多いかもしれない。戦後の電力不足の中、苛酷な環境下で難易度の高い工事をやり遂げたエピソードから、黒部ダムは「技術大国ニッポン」を象徴する英雄ダム、ひいてはダム全般を「クリーンエネルギーを提供する存在」と捉えている人も少なくないだろう。
しかしダム建設の目的はいろいろで、「発電」以外にも農業用水や飲み水などの「水の確保」、洪水をおさえる「治水」などが謳われている。


ただ50年前に立てられた計画の時と比べると、少子高齢化によりダムの建設計画があるようなエリアの人口は間違いなく減り、水や電気の利用ニーズも減っていく。
治水についても、その効果を疑問視する研究もあれば、完成したダムの中には「底が抜けている」と指摘されるような失敗作ダムもある。

上記のように、現状はその必要性に疑問符がつくことがあるにもかかわらず、計画変更どころか検討すらされず、住民の強い反対を押し切るように、土地の強制収用が進んでいるのが長崎県「石木ダム」の建設だ。
ドキュメンタリー映画『ほたるの川のまもりびと』で里山の未来と日本の民主主義を問いかけた、監督の山田英治さんに話を伺ったのは2018年7月1日発売の『ビッグイシュー日本版』338号。

劇場版「ほたるの川のまもりびと」 予告編(先行試写会バージョン)


「撤去という公共事業へ」

さらに11月15日発売の『ビッグイシュー日本版』347号では「ダムを撤去した人たち」を特集している。2018年3月に国内初の本格的な「ダム撤去工事」が完了したのはご存じだろうか。

美しかった球磨川(熊本県)に1955年にできたダムは、水質を悪化させ、漁獲量を大きく減らし、ダム放流時の水害や振動の被害、悪臭などは住民たちを悩ませてきた。

とはいえ、ダムの計画を見直すには、詳細な検証が必要。

熊本県八代市在住のつる詳子さんは約30年前から球磨川流域の観察・調査活動をしてきた。
例えばダム建設の骨材採取予定地だった山にいる絶滅危惧種の昆虫の生態調査。
国交省が7年間で14回の調査を行っていたのに対し、つるさんほか調査メンバーは、毎週日曜朝4時に起きて年に50回も調査。その結果を公表することでその山の骨材採取が中止になったこともある。

その他地元の人々のさまざまな地道な活動で、ダム撤去の動きを盛り上げ、2018年3月、荒瀬ダム撤去が完了。
汚臭は解消され、消失した藻場が再生され、生物が再び集まるようになった。

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撤去中の荒瀬ダム。今年3月に工事が完了し、清流がよみがえった

ダムが撤去されたあとは自然を生かしたビジネスのチャンスがあると、ラフティングを行う会社「リボーン」を2017年に立ち上げた溝口さんのお話も伺った。

ダムを建設した地域では、推進派と反対派で地域が対立・分断されていることも多い。なぜ合意形成ができたのか。それには熊本県民が水俣病という公害を通して得られた考え方や人間関係が大きいという。

つるさんと溝口さんの活動の背景やこれからの展望、公共事業のあり方についての想いは本誌347号でご確認いただきたい。

地域再生関連記事・図書

[ビッグイシュー・オンライン関連記事]

  ・「専門家に任せていればよい」は本当か?/講座「専門家の科学から市民の科学へ」より

対立と分断を生んだ「水俣病」を超えて、環境先進都市へ~水俣市の内発的地域再生のチャレンジの例(もやい直しについて)


[オススメ書籍]
「じゃなかしゃば」 新しい水俣


・「地元学をはじめよう」/吉本 哲郎 岩波書店

<いきいきした地域をつくるために何が必要なのだろう?地域のもつ人と自然の力、文化や産業の力に気づき、引き出していくことだ。それを実行するための手法・地元学は、いま全国各地で取り組まれ、若い人たちも活発に動いている。調べ方から活かし方まで、自ら行動して地域のことを深く知るのに役立つ1冊。>※amazon紹介文より



その他、『ビッグイシュー日本版』347号には

・リレーインタビュー・私の分岐点:フリーライター・北尾トロさん
・スペシャルインタビュー:エルヴィス・コステロ
・国際記事:買い物からプラスチックごみをなくす。ドイツ、無包装のパッケージフリーショップ
・ワンダフルライフ:金魚の骨格標本をつくる人になった――阿久津淳子さん
・ホームレス人生相談 × 枝元なほみの悩みに効く料理:「友達と離れるのが寂しい」という中3生の相談に、販売者と枝元さんが回答


など盛りだくさんです。

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