取材活動中に殺害されるジャーナリストの数はこの数年、減少傾向にある(*1)。しかし、「報道の自由」が世界的に脅威にさらされているのは相変わらずだ。イタリアのストリート誌『スカルプ・デ・テニス』が、「国境なき記者団(Reporters Without Borders)(*2)」発表の2017年度調査結果(*3)と、自らの任務遂行により命を落とした2人のジャーナリスト殺害事件を取り上げる。

*1 「国境なき記者団」の発表によると、殺害されるジャーナリストの数は2012年以降、年間100名を超えていたが、2016年度は80人、2017年度は74人と大幅に減少した。ただし、2018年度は11月時点ですでに78人。
*2 言論の自由の擁護を目的としたジャーナリストによる非政府組織。1985年、パリで設立。
*3 『WORLDWIDE ROUND-UP OF JOURNALISTS KILLED, DETAINED, HELD HOSTAGE, OR MISSING IN 2017』および国境なき記者団の公式サイトを参照。


---

ジャーナリストであることは、とくに一部の国においては極めて危険なことである。その取材対象が、戦争、汚職、犯罪ならなおさらのこと。実際、数多くのジャーナリストが何年もの間、脅威にさらされ続けている。身を隠すこと、正体を隠すことを強いられる者もいれば、少なからぬジャーナリストが自らの任務遂行中に命を落としている。

しかし、2017年には良いニュースもあった。「国境なき記者団」の年次報告書によると、犠牲となったジャーナリストの数がそれまでの過去10年で最低を記録したのだ。それでもなお74人のジャーナリストが殺害されているのだが。

殺害された74人のうち、本職のジャーナリストは55人、7人が「市民ジャーナリスト」つまりブロガー、12人がメディア関係者だった。人数としては前年度から18%減。これは、「世界中のジャーナリストの身を守るため具体的な仕組みが必要である、という認識が国際的に広まった」ためとある。たしかにこの数年、国際組織やメディア主導の情報キャンペーンは増えている。

しかし、死亡者数の減少はこれだけが理由ではない。「国境なき記者団」は、世界の一部がジャーナリストに「危険すぎる場所」になってしまったことを重視している。つまり、そうした危険地域からジャーナリストが逃げ出していると。彼らが去れば、現地で情報を集め、ストーリーを語る人、悪行を暴く者はいなくなる。

ジャーナリストにとって最悪の場所はシリア

報告書では、ジャーナリストにとって最悪の場所となっているシリアを例に挙げて説明している。戦争が始まって7年になるシリアは、どれほど勇敢な者であっても理解しがたいほど複雑極まりない状況に陥っている。アサド大統領が(部分的に)統治する領土は、政府、イスラム過激派、クルド人らの勢力争いの場に。これに、アメリカ、ロシア、イラン、トルコなど諸外国の軍が加わり、同盟関係や国益が絡まり合っているのだ。最も大きな代償を払わされているのはシリアの一般市民。アレッポやラッカなど包囲された街は、その残虐さで歴史に名を残すだろう。


報告書では、現地で活動するジャーナリストの数が減った国としてイラク、イエメン、リビアを挙げている。しかし、殺害されたジャーナリストの数が世界で2番目に多いのは11人が殺されたメキシコで、アフガニスタンは3番目だ。メキシコの方が上位というのは意外に思われるかもしれないが、この国の麻薬取引、麻薬カルテルの縄張り争いはジャーナリストの取材テーマとして非常に危険であることは、メキシコ事情に精通した人ならよくご存知だろう。

メキシコの一部地域では「犯罪カルテルと地元政治家が恐怖支配を行い」、多くのジャーナリストが「国外脱出やメキシコでの取材をあきらめること」を余儀なくされている(国境なき記者団)。メキシコ国内には麻薬密売人が支配する地域があり、そこでの不法行為を暴こうとする者たちはすかさず組織の標的にされるのだ。

自分たちにとって都合が悪い情報が拡散されるのを回避したいのは犯罪者だけでなく政府機関もだ。「国境なき記者団」では、326人のジャーナリストが投獄されている事実にも着目している(*4)。うち202人が本業のジャーナリスト、107人がブロガー、17人がメディア関係者。さすが、ソーシャルネットワークの時代だ。「全体としては下降傾向にあるものの、ありえないほど多くのジャーナリストが拘束されている国もある。」投獄されるジャーナリストが最も多いのは中国(52人)。次いで、トルコ(43人)、シリア(24人)、イラン(23人)、ベトナム(19人)だ。

*4 これは2017年度12月1日時点の数字。2018年度は11月時点では333人が投獄されている。https://rsf.org/en/barometer?year=2018


報告書では人質事件についても触れており、22件はすべてイスラム国によるものだった。

SCA_Persecuted journalists_2
国境なき記者団によるインフォグラフィック/世界報道自由ランキング

車に爆弾を仕掛けられたマルタのジャーナリスト

最近では、2人のジャーナリストの暗殺ニュースが世界を駆け巡った。

1件目は、2017年10月に起きたマルタの女性ジャーナリスト、ダフネ・カルアナ・ガリチア(当時53歳)の殺害事件だ。長年、島国マルタにはびこる汚職を追求してきた彼女だが、2017年10月16日月曜日の昼すぎ、自分の車に乗り込んだところ、車に仕掛けられた爆弾によって死亡した。

彼女を消したかった何者かは「確実に」彼女を消したかったのだろう。彼女の意志を継ごうとする者たちへの警告となるよう「ドラマチックな」殺害を謀った。


ダフネは「Running Commentary」というブログで、自身がつかんだ汚職事情を書いていた。国幹部の名前も挙げ、エネルギー省大臣や閣僚、ジョゼフ・ムスカット首相の妻の名前もあった。彼らにはオフショア口座(*5)で取引した疑惑があり、それは世界各地のジャーナリストの結集である「パナマ文書」によって明らかになった。直近では、最大野党、とくにジャージー島に開設した口座に売春で得た資金を隠し持っていたとされるアドリアン・デッラにも言及していた。

*5 海外にある銀行口座。とくに、租税回避地(タックスヘイブン)と呼ばれる税制上優遇された金融特別区にある銀行の口座をいう。


彼女が殺害されたニュースを受け、何千ものマルタ国民が世界各地の公共の場に繰り出し、彼女の功績を称え、汚職の横行ぶりに非難の声を上げた。


参考:ダフネ・プロジェクト

27歳で殺害されたスロバキアのジャーナリスト

2件目は、ジャーナリスト、ヤン・クツィアクだ。若干27歳にして母国スロバキアの敏腕記者として活躍していた。ウェブサイト「Aktuality.sk」にて不都合な真実を暴いていたが、2018年2月25日、首都ブラチスラヴァから約65km離れた自宅で胸を撃たれて殺害された。恋人のマルティナ・クスニロヴァも頭を撃たれて死亡。

警察は直後に、この事件は「彼のジャーナリストとしての活動に関連するもの」との見解を示した。彼の調査報道により、アパートメント複合施設のオーナー、ラディスラヴ・バステルナクの税金詐欺事件が明らかになった。スロバキアの首相も住民の一人だった。2017年9月には、同施設内のアパートを所有していた実業家マリアン・コツネルについての記事も書いており、その頃からクツィアクへの脅迫が始まったとみられている。

彼は想定以上に深入りしてしまったのかもしれない。彼と恋人の殺害には、イタリアのマフィア、とくにカラブリア州を拠点とする「ンドランゲタ」の関与が疑われている。
「国境なき記者団」のEUバルカン半島デスク長ポリーヌ・アデス=メヴェルは、フランスの日刊紙「リベラシオン」の中でこう述べている。
「イタリアの犯罪組織が殺害を命じた可能性は高いが、まだ結論を下してはならない。確かなのは、スロバキアの調査報道が重大な脅威にさらされていることだ。」


By Andrea Barolini
Translated from Italian by Marta Anna Segit
Courtesy of Scarp de’ tenis / INSP.ngo

ビッグイシュー・オンラインの関連記事

報道写真家が悲惨な現実を撮影する理由-ギリシャ人初のピュリツァー賞に輝いた報道写真家ヤニス・ベラキスに聞く

『ビッグイシュー日本版』関連バックナンバー

THE BIG ISSUE JAPAN289号
特集:不平等解消へ!――金持ちと貧乏のあいだ

タックスヘイブンについても言及。
https://www.bigissue.jp/backnumber/289/

THE BIG ISSUE JAPAN284号
特集:スローなジャーナリズム

https://www.bigissue.jp/backnumber/284/






過去記事を検索して読む


ビッグイシューについて

top_main

ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊350円の雑誌を売ると半分以上の180円が彼らの収入となります。