12月は、街がイルミネーションなどで華やかになり始める一方で、路上生活の人や生活に困窮している人にとっては厳しい時期。

また「これだけ情報が発達した社会において、路上生活に陥るなんて自己責任」「調べようと思えば、公的な支援になんていくらでもつながるはず」と考える方は少なくありません。

しかし、「支援があるはず」と信じられる状況にある人と違い、「支援の存在すら想像もしない」状況の人は、必ずしも自分で必要な支援情報を探し当てられるわけではありません。
生活に困窮している人、情報に辿りついていない人に、支援情報を「届ける」必要があるのです。



そこで、ビッグイシュー基金は2018年12月1日に『路上脱出・生活SOSガイド(東京23区編)』を発行。



過去に発行した『路上脱出ガイド』は路上生活者が今日を生きのび、路上を脱出するために必要な情報をまとめたもので、大阪編・東京編で累計10万冊以上を無料で配布してきました。(※1)

その一方で、最近ではビッグイシュー基金東京事務所に、「まだ家はあるがそろそろ家賃の支払いが厳しい」「夫婦で年金暮らしだが、足腰が弱く先行きが不安」など、路上生活者以外からの切実な相談が寄せられることも珍しくありません。

また、一時期より減少したとはいえ、(※2)路上生活者をとりまく社会状況の改善は依然として十分ではなく、路上生活者の高齢化や路上生活の長期化といった新たな問題も生じています。さらに、都内のいわゆる「ネットカフェ難民」が1日4,000人にのぼり、その6割が40歳未満の若者であること、半数近くがネットカフェと路上を行き来していることが報告されており、ホームレス問題は若者にとっても深刻であることが示唆されています。

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こうした状況から、ビッグイシュー基金は「現在の日本におけるホームレス・貧困問題は一層複雑化しており、路上生活者はもちろん、広く生活に困窮している人への支援が急務である」と、危機感を強めています。

今回のガイド改訂では、路上生活者向けの情報をさらに充実させると同時に、暮らしに困窮している人も利用できる情報を「生活再建」、「生活SOS」をテーマに充実させました。具体的には、従来の行政の相談窓口に加え、医療、子ども食堂やフードバンクなどの民間の取り組みを新たに掲載しています。また、若者・子どもやDV被害などに悩む女性、ひとり親、依存症、セクシュアルマイノリティ、難民などの方が様々な困りごとを相談できる窓口、支援団体などの情報をまとめました。

新たに刷新された『路上脱出・生活SOSガイド(東京23区編)』は、発行から2週間ほどで各支援団体や一般の方から8,300部の請求があり、早くも増版を検討しています。

路上脱出・生活SOSガイド(東京23区編)

『路上脱出・生活SOSガイド-東京23区編』は、ビッグイシュー基金HPよりPDF版をご覧いただけます。また、実物も無料でお送りします。(送料のみご負担ください)
詳細は、以下のURLよりご確認ください。
https://bigissue.or.jp/action/guide/

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『路上脱出ガイド』はどのように当事者の手に渡るのか?

今回、ガイドが実際に当事者の方にどのように活用されたのか、利用経験者のタカシさん(仮名・40代男性)にお話を聞きました。

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最新のガイドも見ながら、ガイド利用当時をふりかえってもらいました。

店を出そうと借金して失敗、単発の仕事をしながらネットカフェと路上を行き来…

基金スタッフ・永井:路上生活に至った経緯を教えてもらえますか?

タカシさん:紆余曲折あって仕事を辞め、当時住んでいた町でお店を出そうと借金したのですが、色々とうまくいかなくて。2016年の春頃に上京し、単発の仕事をしながら、お金がある時はネットカフェ、ないときは路上という生活を年末頃まで続けていました。でも年明けに大寒波が来てとても路上では寝られなくなって、関東圏内で住み込みの力仕事をするようになりました。ただ、腰が悪かったので肉体労働を続けるのは難しく、春になって温かくなったタイミングで再び東京の路上に戻ってきました。

ネットカフェで「東京 路上生活」で検索し見つけた『路上脱出ガイド』を印刷

永井:『路上脱出ガイド』はどのようにして知ったんですか?

タカシさん:たしか、大寒波の数か月前にネットカフェで“東京 路上生活”とかで検索して出てきたんだと思います。それで、いざという時に役に立つかもしれないと思ってPDF版を印刷していたんですね。ただ、大寒波が来てどうしよう、という時は持っていることを忘れていました(笑)。

「野垂れ死に」を決意し3週間何も食べず。すると眠れなくなり…

永井:確かに最近、「ネットで見ました」と言って相談に来られる方が増えているとは思っていました。 住み込みのお仕事から都内の路上に戻ってきてからの生活はどんな状況だったんですか?

タカシさん:東京に戻ってきたからといって仕事に就けるわけでもなくて、状況はよくなりませんでした。100円のハンバーガー1個と水だけという生活が続いて。それで、いよいよお金が底をついて、「もう野垂れ死のう」と思ったんです。水だけ飲んでベンチで寝て…という生活が3週間続きました。

永井:3週間ですか?水だけで?

タカシさん:はい。空腹も3日くらいを過ぎると痛みに変わってくるんですね。人間、空腹は辛いけれど痛みは意外に耐えられるもんなんですよ。それで、このまま食べないで死のうかな~と思っていたんですが、なかなか死なないし、まあ眠れるし…ということで(笑)。

永井:ちょっと想像ができないですね…。

タカシさん:それで、3週間経ったときに突然眠れなくなったんです。体が「いいかげんにしろ」とSOSを出していたのかな~とも思うんですが。でも「何かをしたい」という気持ちも体力もない。眠れないのに“時間がのしかかってくる”というか、どう表現していいか思いつかないですが、とにかく正気を失いそうになって。そんな時に、ふと『路上脱出ガイド』を印刷していたことを思い出したんです。

永井:そこではじめてじっくり内容を確認したということなんですね。

それまで「隠れて逃げる」感覚だったが、「ガイド」で支援してくれる人の存在を知った

タカシさん:それまで何というか、「闇に隠れて逃げる」という感覚で路上生活をしていたので、その時に初めて「炊き出し」とか支援団体の存在を知ったんです。もっと早く見ていればよかった(笑)。

永井:炊き出しの情報を見てどうでしたか?

カシさん:そのころは体力も気力もないし、「せっかく炊き出しをいただいても、自分には生活を立て直せそうにない」という感じで動く気にはなれず…。行政のシェルターとか生活保護とかも同様で、あまりピンとこなかったんですね。自分はそれまでの人生で「人に頼る」ということがなかなかできなかったこともあって。

だけど、ビッグイシュー日本のページを見た時に、これなら自分のペースで生活を立て直せそうだなと思って、持っていたテレフォンカードでビッグイシュー東京事務所に連絡させてもらいました。あれが自分のなかでは人生で初めて「人に頼る」という感覚でしたね(笑)。

永井:それからタカシさんは歩いて事務所まで来たんですよね。

タカシさん:事務所でカレーを食べさせてもらって、スタッフの人に状況を話しました。余談ですけど、長い間ごはんを食べてない人間にとって、カレーはすごく良いんですよね。いきなり固形物だとお腹が受けつけないので。

それで、ご飯を食べると少し冷静になって、改めて自分が受けられる支援について話を聞いたうえで判断しました。今はビッグイシューの雑誌販売をしながら、今後についてゆっくり考えたいと思っています。ビッグイシューで会う人は、スタッフもボランティアも「やってあげる」という感じではなく、対等に接してくれるのがすごく心地いいんです。

ガイドに救われた経験を、広げていきたい

永井:タカシさんにとってはビッグイシューが合っていた、ということなんですかね?『路上脱出ガイド』には他の民間支援団体や行政の制度なども色々と載っているわけですが。

タカシさん:自分の場合はガイドを見た時にビッグイシューが一番しっくりきましたが、炊き出しや相談先の情報は絶対に役に立つと思うし、国の制度を知らない人もいるからそういうのをきちんと伝えていくのはとても大事だと思います。自分もガイドを見るまでは生活保護について詳しく知らなかったですからね。「生活保護は高齢者や障害者の方向けのもので貧困者のための制度ではない」って思ってましたから。自分が対象になるなんて知らなかったんです。

永井:タカシさんはガイドの配布にもご協力いただいているんですよね?

タカシさん:路上生活を経験するとね、新しい人が路上に出てきたときに、その人がちょっとした家出なのか、行き場のない状態なのかっていうのが勘が働くようになってくるんですよ。それで右も左も分からないっていうような人にさっとガイドを渡せるように、常に2,3冊は持つようにしているんです。

タカシさん:自分の場合、あの時にガイドがなかったら死んでしまっていたかもしれない。だからこそ、困っている人がいたらガイドを配布していきたいです。

永井:今日はお時間いただきありがとうございました

―――

タカシさんの「ガイドがなかったら死んでしまっていたかもしれない」という言葉は、生活に困窮された方に情報を「届ける」必要性があることを示しています。

「情報を持つ人が届けない限り、その情報には辿りつけない」という状況の方は確実に増えています。そういった人たちにより広くアプローチするために、「夜回り」や「図書館への設置」「お寺への配布」などを行っていますが、まだまだ他にも方法はあるはずです。

たとえば「ネットカフェに設置する」という案などもあるでしょう。しかし全国に無数にあるネットカフェに、誰が、どのように説明して回るか、実現方法もあわせて考える必要があります。

ビッグイシュー基金は、この問題に関心のある人それぞれが、そういったアウトリーチ(当事者のほうに届けたり出向いたりすること)のありかたに関する議論や行動につなげるきっかけとして『路上脱出・生活SOSガイド(東京23区編)』を広く利用していただければと考えています。

(記録:永井悠大)


『路上脱出・生活SOSガイド-東京23区編』は、ビッグイシュー基金HPよりPDF版をご覧いただけます。また、実物も無料でお送りします。(送料のみご負担ください) 
詳細は、以下のURLよりご確認ください。
https://bigissue.or.jp/action/guide/ 

*『路上脱出・生活SOSガイド』の作成・配布をはじめとするビッグイシュー基金の活動は、寄付による参加、ボランティア活動など、市民のみなさまのご参加・ご協力で成り立っております。

ビッグイシュー基金では、12月に寄付キャンペーンを行っています

★「年末寄付キャンペーン 『社会を変える』寄付参加の輪、広げてくださいませんか」 https://bigissue.or.jp/2018/11/2018120101/

ガイド手渡し

●また、オンライン寄付サイト「GiveOne」にて『路上脱出・生活SOSガイド』の作成・配布のためのファンドレイジング・チャレンジを行っています。

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(※1)これまでの『路上脱出ガイド』(リンク:)は、路上生活者が今日を生きのび、路上を脱出するために必要な情報をまとめたもので、ビッグイシュー基金が、2009 年から作成・発行を行い、大阪・東京編だけで累計10万冊以上を無料で配布してきました。

(※2)東京ではホームレス問題の改善に尽力する多くの市民団体があり、ここ10数年で東京の路上生活者は大幅に減少したと報告(リンク)されています。







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ビッグイシューについて

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ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊350円の雑誌を売ると半分以上の180円が彼らの収入となります。