難民認定率わずか0・2%という日本で、民間の協力を得て、難民の人々を日本社会につなぎ、新たなルートをつくろうと奮闘してきた「WELgee」。企業と協働で彼らの可能性を発掘し、就労に結びつける新プログラムについて聞いた。

ホームステイやサロン開催で難民当事者との交流を深める

現在「WELgee」代表の渡部清花さんは、国際協力について学んでいた大学時代、2年休学して、NGOスタッフとしてミャンマーとの国境沿いにあるバングラデシュの村に駐在した。
「そこは長年政府の弾圧を受けている先住民族が暮らす紛争地で、NGOや国連開発計画も活動していましたが、平和の訪れは見えませんでした」

帰国後、「人間の安全保障」を学ぶために進学した東京の大学院で、3人のコンゴ人男性と知り合う。

 「彼らは独裁政権による市民への弾圧や虐殺のなかで、命の危険を感じて逃げてきた難民で、エンジニア、デザイナー、大学生と優秀で個性豊かなのに、能力を活かせずにいました」

ところが、イベントで難民について話しても、あがるのは「テロ予備軍じゃないか」「日本人の生活保障が先だ」といった声ばかり。そんなイメージを変えたくて、16年2月に彼らと立ち上げたのが「WELgee」だった。

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渡部 清花さん

とはいえ、日本で難民が置かれている現実は厳しい。
 「17年に難民認定申請した1万9629人中、認定者は20人。入国管理局の施設に収容されて自殺を図った人や、ホームレス状態になる人もいる。認定率0・2%に賭けるしかないなら、市民社会や企業などの民間セクターと協力し、日本で安心して暮らし働くことのできる新たな選択肢をつくろうと思いました」

そこで、まず始めたのが「日本の家庭とマッチングし、最長1ヵ月半受け入れる難民ホームステイ」だった。さらに、月に一度は「WELgeeサロン」を開催し、難民当事者と日本人の対話の場を作ってきた。

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WELgeeサロンの様子

50人以上と面談、リストを作成。日本での長期的なキャリアを支援

そこに、北海道・下川町という小さな町で産業振興インターンをしていた山本菜奈さんがスタッフとして加わったことで、難民の就労機会を創出する事業が動き出した。

 「中国語通訳者で、コンピュータの知識も多少あったアフガニスタンの26歳の男性はITベンチャー企業の経営者と出会い、住居と食事のサポートを受けながら4ヵ月間のプログラミングのトレーニングを行うことになりました。彼はその後プログラマーとして正社員雇用されました」

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山本 菜奈さん

これを事業化するために、中央ろうきん若者応援ファンドの助成を受けて、50人以上の難民当事者と面談し、関心や経歴、将来の夢などをヒアリングして人材リストを作成。人材紹介企業とのパートナーシップのもと、難民認定申請後半年以上を経て就労許可が下りた当事者を企業に紹介。興味を持った企業は現在59社におよぶ。「母国をよくするために能力を伸ばしたいという彼らの情熱や社会課題に対する視点は、日本企業で働く社員の刺激にもなります。企業へのヒアリングを通じて、スキル以外の面でも、彼らをチームに受け入れることの価値を認識しました」

これまで1年間で4人が正社員として雇用された。これを事業化し、いずれ収益を難民の人材の就職に向けた面談やスキルトレーニングに回す計画だ。将来的には、当事者がスキルアップし、安定した法的地位を得て、長期的に日本でのキャリアを描けるよう伴走していきたいという。

 「一方で、入管法改正の議論では、外国人を労働力としか見ていないのが残念。生活者としての彼らと、どう共に生きていくのか、真正面から向き合う機会にしてほしい」と渡部さんは希望を込めて語った。


NPO法人 WELgee(ウェルジー)
日本に逃れてきた難民申請者の社会参画とエンパワーメントを目指し、難民の人々が自身のキャリアや人生の目標を追求できるキャリアチャンネルの創出(就労事業)、日本社会につながる対話の場である「WELgeeサロン」、緊急で住む場所を必要とする難民申請者を迎え、次への一歩を一緒に考えるシェアハウス事業を展開している。

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希望をかけて逃れてきた先の日本でも追い込まれ「自分は役に立たない人間だ」と可能性を閉ざしている人たちがいる状況があります。難民は「かわいそうな人たち?」なのでしょうか?しかし難民の中には、ユニークな人々がたくさんいるのです。

エンジニア・ジャーナリスト・起業家…多様な経験を持つ彼らは、実は将来的な故郷の担い手たちなのです。そんな若者たちの直面する壁を崩し未来に投資するマンスリーサポーターになりませんか?

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中央ろうきん社会貢献基金

ろうきんは、はたらく人のための非営利・協同組織の福祉金融機関。「中央ろうきん若者応援ファンド」は、家庭環境や経済状況、病気や障害などの社会的不利・困難を抱え、不安定な就労や無業の状態にある若者の自立支援に取り組む団体を応援する助成制度です。
2018年は、10団体に総額1,417万円を助成しています。
http://chuo.rokin.com/


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THE BIG ISSUE JAPAN340号
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日本で暮らす難民の人々が置かれている状況や、その支援活動について、NPO法人「難民支援協会」の石川えりさん、ラジオ番組「難民ナウ!」の宗田勝也さん、弁護士の駒井知会さんに話を聞きました。
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THE BIG ISSUE JAPAN295号
特集:「国境こえ、ともに生きる 市民の国際ネットワーク」
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