「加害者の人権だと?ふざけるな」という意見をよく見かけるが、この記事は「被害者より加害者の人権」という話ではない。「誰にでも等しく人権はある」という観点から、加害者がなぜ加害者となってしまったのかを考え、犯罪を防止するには何が必要かという問いかけである。
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9月の土曜日の夕方、オレゴン州ユマティラにある刑務所「トゥー・リバーズ矯正施設」の面会エリアでは、10名ほどの受刑者が観客の到着を待っていた。普段の囚人服 ー ブルーのデニムに、”服役囚”と赤い文字が入った濃紺のTシャツー ではなく、フリル袖のクリーム色チュニックと黒のタイツを身につけて。

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写真:Joseph Glode
『メタモルフォーシス』の上演風景。


会場の入り口では二人の受刑者が「お楽しみください」と満面の笑みでプログラムを配っている。タキシード姿でキメた受刑者は、ギリシャ風の柱で仕切られた小さなステージ上のピアノでショパンを弾いている。

半年間、受刑者たちはこの日のために頑張ってきた。古代ローマの詩人オウィディウスの物語を元にした、メアリー・ジマーマン『メタモルフォーシス』、トニー賞も受賞したこの作品を、今夜から全5回上演するのだ。


「愛」を表現するようになった受刑者たち

この作品を貫くテーマは「愛」。どのようにして愛を手に入れ、失い、取り戻すのかー。

愛、そして「自分を知る」という感覚を矯正施設にいる受刑者たちが見つけることができたのは、ここでの生活に「演劇」を持ち込んだ男ジョニー・スターリングスのおかげだ。

スターリングスは65歳になる俳優兼舞台演出家。非営利団体「Open Hearts Open Minds」の創始者・責任者でもある。ポートランド拠点のこの団体は、対話や音楽、演劇、芸術的表現を通して、オレゴン州の受刑者たちの人生を変えることを目指している。

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写真:Joseph Glode
俳優、舞台演出家のジョニー・スターリングス。
トゥー・リバーズ矯正施設で週一回の対話プログラムと舞台指導を行う。




彼には使命がある。それは「人生の意味」を見つけること。どうすれば人はもっと幸せで、平穏で、自由で、愛情のある人生を送れるのだろう?

2006年からこの施設で「対話グループ」を開催している。自主参加の受刑者たちが輪になって座り、自分たちの人生やどうすればよりよい人生を送れるかを、2時間かけて話し合う。2008年からは、受刑者たちのリクエストで演劇も始まり、年に一度、舞台に立つようになった。

対話グループを通して、受刑者たちは考えるようになった。人は何を理由に行動するのか。怒りやフラストレーション、喜びはどんな形で表れるのか。そして個人の行動がどのように他人に影響するのか。

「人はだれでも、意味を見つけたいのではないでしょうか。いま何が起きているのか、それにどんな意味があるのか、ひいては自分の人生にはどんな意義があるのかと。」スターリングスは言う。


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写真:Joseph Glode
ポートランドのコロンビア・リバー矯正施設の受刑者らと対話プログラムをおこなうジョニー・スターリングス。



彼は「Open Hearts Open Minds」の活動を ”終わりのないラブ・イン*” と呼ぶ。ふざけているのでも、昔を懐かしがっているのでもない。凶悪犯を含む数多くの受刑者と会ってきたスターリングスが実感しているのは、(罪を犯したという事実から)当然のように無視されているが、彼らの中にも人間らしさはあり、才能を備えていることもあるということ。



受刑者たちの意識を大きく変えるきっかけを与えてくれたスターリングスは、彼らの「指導者」であり「父」でもある。

*ラブ・インとは「すべてのものを愛する」をテーマにしたヒッピーの集会。1960年代に流行した。

手づくりの舞台、いよいよ開演!

『メタモルフォーシス』は宇宙誕生の物語から始まる。

30人ほど集まった観客は、受刑者たちの家族や友人、そして「Open Hearts Open Minds」を支援している演劇愛好家たち。板とカラフルな布で作った浅いプールの周りでU字になって舞台を見守っている。

開演数分前になっても、数名の受刑者が走りまわって小道具を置いたり、衣装チェックをしている。演出担当のボランティアも、最後の指示を出している。

タキシード姿の受刑者は、幼いころからピアノを習っていたこともあり、この舞台のために曲を書いた。彼の演奏が始まると、いよいよ開演だ。

ゼウスを演じるのは、52歳のジャック・ベアード。後ろになでつけた髪、きれいに手入れされたあご髭、頬骨が目立つ顔立ちが役柄にぴったりだ。シガーを吸うフリをしながら、「宇宙」に見立てたブールをのぞき込む。

 

週1回、受刑者同士で語らい合う「対話グループ」

「対話グループ」のメンバーは自らの意志で参加している。刑期の長さによってメンバーの入れ替わりも多いが、レギュラーメンバーは16人ほど。全受刑者のおよそ1%だ(*)。

*トゥー・リバーズ矯正施設の最大収容人数は1632名。

「ある時点で『人生このままではダメだ』と決意した人たちが集まっています」と言うのはボランティアのスペンサー(31)。

さまざまなテーマで語り合ってきた。父になるということ。良い市民になるということ。幸福なよりよい人生を送る方法。そして彼らにとって避けられないお題は、自分たちが犯した過ちと、今刑務所にいる理由だ。

その日の議題はスターリングスが考えるが、受刑者たちから今週の出来事や自らの体験を話し出すことも多い。

「私たちはただひたすら聞くだけです。答えを出すのでも、解決するのでも、助けるのでもなく。どんな話がでても、ただそれについて考える時間をつくるのです」とスペンサー。

受刑者の一人ロッキー・ハッチンソン(40)は、2013年から対話グループに参加している。その前年に母親を亡くし、悲しみに暮れていた。母は刑務所の外との唯一の接点だった。彼が子どもの頃、母は売春婦でクラックコカインに溺れていたため、祖父に預けられたが、その祖父も薬物とアルコール依存症だった。大人になってから「ありとあらゆる経験をした」という彼は、”生きる手段”として薬物の使用・売買に手を染めていった。



対話グループに加わったハッチンソンは、「自分の失敗に目を向け、認められるようになった」と、自分の人生を一歩引いて見つめられるようになったという。

他の人の話を聞くことで ”気づき” を得られる、これには他メンバーも同感するらしく、仲間意識が強まっている。

生き方をガラッと変えたことで、ハッチンソンは約20キロ痩せ、今や犯罪に染まったかつての生活を恥じている。真剣に考え込むときもあれば、たわいない話をすることもある。そんな姿を見ていると、悪党だったとは思えない。

スターリングスのことを”羅針盤”になぞらえる。「私をがれきの中から引っ張り上げ、まともな人間にしてくれた。こうありたいと思っていた姿に戻る力を与えてくれた。人の心の内にあるものを、引き出してくれる人です」

3歳児の環境がその人の人生を方向づける... “被害者”でもあった犯罪者たち

対話グループの参加者たちは、長期にわたって参加している。毎週土曜日に語り合う2時間をとても楽しみにしており、メンバーたちは大切な友人のような、家族のような関係になっている。

「服役中にこんな出会いがあるとは思ってもみませんでした」とベアードは言う。

しかし彼らの刑期は長い。仮釈放なしの終身刑となった者もいる。だが対話グループで話す彼らを見ていると、性的暴行、麻薬所持・売買、殺人未遂、強盗などの罪を犯した人物とは信じがたい。

礼儀も正しい彼らだが、自分たちの人生について話すとなると、ありのままに思いをぶつけたり深く考え込んだりするので、時として収拾がつかなくなることもあるという。

音楽の演奏、書くことに長けた者たちもいる。であるなら、人は不思議に思うかもしれない。この人たちはこんなにも長く、ここで何をしているのか?

答えは簡単。彼らは “被害者”に犯罪行為を犯したのだ。しかし、彼ら自身も”被害者”であることも多い。両親からの虐待やネグレクト、診断や治療を受けていない精神疾患、暴力団、薬物、貧困、暴力、混沌とした世界で生きてきた。そこから逃れることは、誰にとっても勝算の低い話だが、彼らにとってはそれがゼロだったのだ。


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写真:Joseph Glode
コロンビア・リバー矯正施設の受刑者リチャード・ドルマー(42)。
6才の頃からギターを弾いていたことを「とてもありがたい」と言う。共感覚の持ち主で、ギターの音を聴くと色が見えるという。 


「つらくて悲しい話ばかりです。彼らの境遇を知ったら、これまでの行いを責めたてる気にはなれません」とスペンサーは言う。

薬物に囲まれて育ったハッチンソンなど、「彼の人生は最初から決まっていたようなものです。刑務所行きを避けることなどできたでしょうか? 犯罪は個人のモラルの問題と見られていますが...現実には個人の問題だけでは片付けられません」

「いろんな家庭をランダムに訪ねてみれば、各家庭の3歳のお子さんが将来、名門大学に入るか刑務所行きになるかは一目瞭然です」我々は皆、3歳の子どもと同じなのだ、とスターリングスは確信している。

「まともな食事と愛情と気遣いを受けられれば、誰だってその人なりの花を咲かせることができます。これらが得られないときに、犯罪行為など多くの社会問題が生み出されるのです」



これまでに何人もの受刑者が、「自分の人生を振り返る機会などなかった」とスターリングスに打ち明け、刑務所に入ってよかったと漏らした者も少なくなかった。逮捕された頃は混乱と苦しみの最中にあったから、あのままだと状況はさらに悪くなり、命を落としていたと思うと。

「刑務所に入ることは、いったん立ち止まるチャンスにもなるのです」とスターリングス。

「人生のブレーキを踏む必要があった」とうなずくのは受刑者の一人、スコット・ストリックランド(60)。2010年10月に収監され、その1カ月後には対話グループに参加するようになった。トラウマになっている子ども時代のこと、鬱症状が出てから人生が手に負えなくなったことを、初めて人前で話した。

以前は、気分が安定しないこともうまく説明できなかった。そのため、自分のまわりにガードを張るようになり、身近な人たちに嘘をつく、だますことが ”普通” になっていったという。「イヤな思い出です」と言う彼だが、ここでは「同じく人生をやり直したい奴らと一緒に」自分をさらけ出し、素直になる術を学べていると語った。

偶然訪れた刑務所で一人芝居の披露を提案

スターリングスが刑務所と関わるようになったのは ”偶然” だ。

2000年代初めごろは同州の小さな町アンテロープで、小さなキャビンで「鳥に餌をやり、コーヒーを飲み、クッキーを食べる」暮らしをしていた。20代の頃のインド旅以来続けている瞑想を深めながら。インド放浪以来、彼のリュックはスピリチュアルや哲学系の本でパンパンだった。大学は性に合わず半年でやめた。インド放浪時代のことを「あれが自分の将来を決めたのかもしれない」と振り返る。

2004年、隣のジェファーソン郡で新たな矯正施設が建設されることとなった。この新しい刑務所に興味ある人たちのために、郡政委員が「トゥー・リバーズ矯正施設」への見学ツアーを企画、スターリングスはこれに参加したのだ。

後日、彼は刑務所の職員に、自分が脚本を書き下ろしたシェイクスピア『リア王』の一人芝居を、受刑者の前で上演させてもらえないだろうかと掛け合った。許可が出て二度上演、翌年には『ハムレット』の一人芝居も披露した。

上演後に受刑者たちと舞台について話し合う場も設けた。それを発展させたのが、2006年から開催している「対話グループ」というわけだ。ほどなくしてポートランドに移り住んだスターリングスは、毎週ハイウェイを飛ばし、往復6時間かけてこの施設に通っている。2007年に「Open Hearts Open Minds」を立ち上げてからは、多くのボランティアが運営を手伝ってくれている(*)。

*同団体は、同じような対話グループ/演劇プログラムを他の刑務所でも開催している(ポートランド市のコロンビア・リバー矯正施設、ウィルソンヴィル市のコーヒー・クリーク矯正施設など)。

前向き、自主的に舞台づくりに取り組む受刑者たち

「トゥー・リバーズ矯正施設」の受刑者たちは、これまでに『ハムレット』『冬物語』などシェイクスピア作品を中心に上演してきた。これまではスターリングスが作品選びをしてきたが、今年の『メタモルフォーシス』は、初めて受刑者たちで選んだ。演出もスターリングスではなく、ボランティアメンバーが担当した。ボランティアでプロの舞台演出家でもあるウォルシュも、よく顔を出してくれた。

半年間、週一で集まり3時間の練習を重ねてきた。それ以外でも、時間を見つけては互いにセリフや動きを練習したという。

「これまで一緒に仕事をしてきたプロの俳優たちと比べても、引けを取らない練習量。本当に熱心に取り組んでいます」とウォルシュは言う。

役者たちはただセリフを覚えるだけではなく、そのキャラクターの人格を想像することが求められる。どんな風に考え、感じ、なぜそのセリフをしゃべるのか。その人物になりきって動かなければならない。

「段々と作品と一体化していき、自分とは違う誰かになりきっているんです」とハッチンソン。演じるキャラクターの中に自身の姿を垣間見ることもあるという。「自分も似たようなことをしてきたが...この行動は良くないな」などと。 筋肉隆々、タトゥーの入ったいかつい男たちが、女性キャラクターを演じ、涙を流し、子供を亡くした親の苦悩を表現する。少し奇妙に見えるかもしれないが、多くの受刑者たちは、複雑なキャラクターを演じることを楽しんでいる。

舞台上では、『メタモルフォーシス』の最後の一節を歌い終えた受刑者たちが、真っすぐにスターリングスを見つめた。

By Amanda Waldroupe
Courtesy of Street Roots / INSP.ngo


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