日本で深刻に捉えている人はまだほんの一部だが、プラスチックごみが起こす海洋汚染、生態系への影響は国際的な課題になっている。さらに、その危機に対し、イノベーションの力で超巨大かつ持続可能な環境にやさしいビジネスが世界では生まれつつあるのをご存じだろうか。


大量のプラスチックごみが海洋を浮遊

2017 年に国際自然保護連合(IUCN)が出したレポートによれば、毎年950 万トンのプラスチックごみが海に流出しているという。このままいくと、2050年には、海の中のプラスチックの量は重さで魚の量を超える、との試算もある。(「プラスチック汚染とは何か」より)
大量のプラスチックは、観光・漁業、船舶航行などに影響を及ぼすほか、誤って飲み込んだ海洋生物の生態系への影響も懸念されている。

11
12
1.3いずれも環境庁「プラスチックを取り巻く国内外の状況」(平成30年8月)より

特に、魚を食べる人間の健康への影響を考えると、他人事としていられない。プラスチックは海を浮遊しているうちに細かくなり「マイクロプラスチック」となるが、例えば1.01から4.75mmのマイクロプラスチックは、日本付近では1平方kmあたり10万個から100万個海を漂っているとされる(※)。魚を通して知らず知らずのうちに人間の口に入り、有害物質が生体濃縮されていくことも考えられるのだ。

00
※マイクロプラスチック(1~4.75mm)の密度分布(モデルによる予測)
(引用)Eriksonら(2014), “Plastic Pollution in the World’s Oceans: More than 5 Trillion Plastic Pieces Weighing
over 250,000 Tons Afloat at Sea”, PLoS One 9 (12), doi:10.1371/journal.pone.0111913


現在、世界では年間3億4800万トンのプラスチックが生産されている。そして日本人一人あたりの容器包装プラスチック廃棄量は、米国に次いで2位。日本人にとって、プラスチック問題はもはや「主犯グループ」といえる状況なのだ。

単なる「ごみのポイ捨て」マナーの問題ではない

「でもプラスチック問題って、ゴミのポイ捨て問題でしょ?マナーが改善したら解決する問題じゃないの?」という人もいるかもしれない。

ac9dfda1e8a9b18529053872b64ca5dd_s
(c)photo-ac ハートムーン 

もちろんポイ捨てしないようなマナー啓発も大切だ。しかしレーヨンやナイロンなどの合成繊維が洗濯や歩行のたびに繊維がマイクロプラスチックとなって飛んでいるなど、たとえ「ポイ捨て」しなくてもマイクロプラスチックが生まれ続けている状況なのだ。

マイクロプラスチックを出さない各社の取り組み

世界では環境に配慮している企業がさまざまな取り組みを行っている。
ヨーロッパで最初にフリースをつくったイタリアのポンテトルト社は、天然由来のリヨセルを素材とするフリースを開発。アウトドアブランドのパタゴニアも、洗濯の際に使用すれば、合成繊維から出るマイクロプラスチックを大幅に減らせるフィルターバッグをつくっている。(参考

小売りでもレジ袋やストローなどのプラスチック製品を有料化する動きは日本でも見られるが、「プラスチックを使わない」「プラスチックの代替品開発」は他国の動きが活発だ。

参考記事(ビッグイシュー・オンライン):
「プラごみを出さない」を売りにした店が好調、クラウドファンディングで2店舗目オープン/ドイツ・ケルンの店「Tante Olga」の取り組み

プラスチックを使わない食品保存は可能か? 世界のイノベーションと個人レベルの習慣の変え方

「ポイ捨てをしない」という基本動作に加え、プラスチック問題に配慮した企業の製品を使う、という姿勢が消費者側にも求められる。

ビジネスとして有望な「サーキュラー・エコノミー」

\\ また、日本ではプラスチックの「リサイクル」は進んでいると思われがちだが、実際にはプラスチックごみとして燃やした熱エネルギーを回収し、温水プールなどに利用する「サーマル・リサイクル」が大半であり(全体の57%)、実質ただ「焼却する」(10%)と合わせと7割近くを「燃やしている」状態はリサイクルとは言いがたい。

21

環境庁「プラスチックを取り巻く国内外の状況」(平成30年8月)より

「作って捨てる」時代から「使うのを控える」&「作り続ける」時代へ

ナイキやアディダスなどのグローバル企業でも話題だが、海洋に無数に浮かぶプラスチックごみを回収したものを資源とし、製品開発する「サーキュラー・エコノミー」の動きも加速している。
多くのビジネスチャンスを生む「サーキュラー・エコノミー」によって、2030年までに世界で4・5 兆ドルの経済効果が見込まれており( ※ )、E U では2035年までに17万人の雇用創出が可能だとしている。

※総合コンサルティング会社アクセンチュアの試算より。

「プラスチック大量消費国」である日本も、この時流にぜひ乗りたいところだ。

関連記事:
「ごみ」はお宝!食品廃棄物から生まれる口紅やフケ用シャンプー、抗生物質からスマートフォンのバッテリー 

**

9月1日発売の『ビッグイシュー日本版』366号の特集は「プラスチック革命」。
環境ジャーナリストの枝廣淳子さん(幸せ経済社会研究所)、徳島県上勝町でごみのリサイクル率8割以上を実現した「NPO法人ゼロ・ウェイストアカデミー」の坂野晶さん、プラスチックごみを分子レベルに戻して再資源化する「日本環境設計」の岩元美智彦さんに取材した。
プラスチックごみの環境流出を防ぎ、再資源化する「サーキュラー・エコノミー」への動きに注目し、市民ができることを考えたい。

**

『ビッグイシュー日本版』366号ではこのほかにも、
・リレーインタビュー。私の分岐点:道端アンジェリカさん 
・スペシャルインタビュー:クリスチャン・ベール
・国際:若い人を世界に誘った『ロンリープラネット』。創業者が“旅”を語る
・特別企画:日本発、世界に並ぶ恐竜化石。北海道「むかわ竜」発掘物語
・ビッグイシュー・アイ:地震の予測精度を高める、日本列島「ミニプレート理論」
・ホームレス人生相談:35歳女性からの「モノを持ちたくない夫と、ついモノを買ってしまう私」の相談

など盛りだくさんです。
366_01s

ぜひ路上にてお求めください。

『ビッグイシュー日本版』のプラスチックごみ関連バックナンバー


THE BIGISSUE JAPAN 347号

347_01s
国際記事として「買い物からプラスチックごみをなくす。無包装のパッケージフリーショップ」を紹介。
https://www.bigissue.jp/backnumber/347/


THE BIGISSUE JAPAN 340号
340_01s
国際記事として「使うのは一度きり、残るのは永遠。海に浮かぶ大量のプラスチックごみ」を紹介。
https://www.bigissue.jp/backnumber/340/


ビッグイシューは最新号・バックナンバーを全国の路上で販売しています。販売場所はこちら
バックナンバー3冊以上で通信販売もご利用いただけます。









過去記事を検索して読む


ビッグイシューについて

top_main

ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊350円の雑誌を売ると半分以上の180円が彼らの収入となります。