「犯罪者も路上生活者も、自業自得でしょ」と思われがちだ。しかし、いずれもなりたくてなる人などまずいない。境遇などに恵まれず犯罪を犯して刑務所行きになると、出所後は4割近くがホームレス状態になっているという英国事情がある。そうならないためにはどんな支援が必要か、『The Conversation』の記事を紹介する。


falcoによるPixabayからの画像
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1人の男が窃盗の罪で懲役判決を受け、1年間の服役の後、釈放されることとなった。刑務所生活は厳しいものだったが、これからは新しい人生を始められる。 期待を胸に、最寄りの保護観察所を訪れ、住まいを探した。しかし突きつけられたのは、自分には入居できるところなどないという厳しい事実。やむなく男は、刑務所から持って出た数少ない衣類で暖を取り、路上で寝るしかなかった。

慈善団体「Shelter」によると、英国内でホームレス状態にある人は2019年時点で約28万人。 3年前より2.3万人増えている。つまり毎日36人が新たにホームレス状態に陥っている計算になる*1(英国全体の人口は約6700万)。

*1 280,000 people in England are homeless, with thousands more at risk


元受刑者の多くに「家がない」理由

2012年に英司法省が発表した調査によると、受刑者の15%は刑が確定した段階ですでに“住所不定”であり、9%は文字通りの「路上生活者」だった。また、釈放される段階で、元受刑者の37%には帰る家がない。 ホームレス状態にある元受刑者の66.6%が出所後一年以内に再犯に至っている事実*2を踏まえると、これは由々しき事態である。
*2 Two-thirds of homeless ex-prisoners reoffend within a year

ArtTowerによるPixabayからの画像
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これほど多くの元受刑者に「家がない」のには、いくつかの理由がある。 その多くは、最も弱い立場に置かれた人々を救えていない制度自体に起因する。

受刑者の多くは、刑務所入りが決まった際に賃貸契約の解除まで手が回らない。そのため家賃を滞納したとみなされ、これが出所して住まいを探す際に大きなネックとなる。契約解除の手続きを踏まず「意図的に」ホームレス状態になった人とみなされ、自治体の ”支援対象外” となってしまうのだ。

服役することでマイナスとなってしまう生活再建力

複雑かつさまざまな生きづらさの問題を抱えている人々の生活改善を目指した国家プログラム「Fulfilling Lives: Supporting People with Complex Needs」*3 の一環として、実刑判決を受けることでいかに生活再建が阻まれるかを調査した*4。

*3 英国の12地域の地域支援団体に、8年間で計161億円を支出する国家プログラム。
https://www.tnlcommunityfund.org.uk/funding/strategic-investments/multiple-needs
*4 Entering and leaving prison: A co-constructed research study exploring the experiences of Beneficiaries

調査から分かったことは、刑務所に入ることで、いじめや暴力、虐待、自傷行為、ときには自殺などを身近で経験することとなり、各人が抱える “複雑な問題” がさらに悪化すること。トラウマが甦り再び悩まされるようになる、薬物問題やメンタルヘルスの悪化を訴える者もいた。


Ichigo121212によるPixabayからの画像
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釈放当日になって突然その事実を知らされる、出所後の行き先もないまま釈放されるなど、釈放手続きの無秩序さを指摘する声も多かった。

とある地域の刑務所に服役したとしても、「ホームレス法」が定めるところの「地域との関係性(local connection)」*5 があるとはみなされず、そこの自治体によるホームレス支援を受けられないと語った者たちもいた。そして彼らの多くは、足を洗いたいと思っていようとも「犯罪組織」に戻っていくしかないのだ。路上生活を避ける唯一の方法は、そもそもの服役の原因となった薬物売買でお金を稼いで簡易宿泊所に泊まること、と口にした者もいた。

*5 Chapter 10 : Local connection and referrals to another housing authority
その地域で特定期間、居住・労働したことがあると “地域との関係性(local connection)” があるとみなされ、支援対象となる。

そばで生活再建をサポートする人の必要性

こうした状況を打破する上で "明るい兆し” となっているのが、2018年から施行されている「ホームレス削減法(Homelessness Reduction Act)」だ。この法案では、上述の「地域との関係性」の有無にかかわらず、ホームレス状態にあるすべての人に住まいの支援を行うよう地方自治体に義務付けている。

刑務所などの公的機関に対しては、ホームレス状態になる恐れのある人がいたら、あらかじめそのことを自治体に知らせるよう義務付けている。そうすることで、適切な住まいを斡旋することができ、路上生活に陥るのを回避できると期待されているのだ。

我々の独自調査からは、元受刑者を社会復帰させるには「支援ワーカー」を付けることが大きな鍵になることも分かった。 支援ワーカーが出所前から本人につき、住居やその他サービスを手配。出所時に立ち会い、必要に応じて手配したアポにも同伴する。

StartupStockPhotosによるPixabayからの画像
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要するに、元受刑者の社会復帰をサポートし、犯罪に手を染める生活に戻らないよう見守る人の存在が重要なのだ。刑務所の改革を目指す慈善団体「Howard League」が “メリーゴーランド” と呼ぶような、刑務所に入っては路上に放り出されるを繰り返す状態をなくすには、こうした対策をできる限り早急に取り入れるべきであろう。

By Graham Bowpitt(ノッティンガム・トレント大学社会政策准教授)
Courtesy of The Conversation / INSP.ngo

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