米国の食の専門テレビ局「フード・ネットワーク」などでは、制限時間内に限られた食材でシェフたちが料理の腕を競うガチンコ勝負の様子がひっきりなしに流れている。“テレビ受け”する設定だが、実のところ、路上生活者たちのシェルター(簡易宿泊所)で働く料理人たちは、毎日この手の難題にぶつかっている。寄付された乏しい食材のみを使って、食料不足に見舞われている人たちに料理する日々なのだから・・・。


病院で約18年働いた後、未経験で料理の道へ

オクラホマシティのシェルター施設「OKC Day Shelter」の料理マネージャー、デルバート・ブリッグス(60)は、「厨房に笑いをもたらす」が仕事のルールに定められているかのように働く。

母も叔母も食品業界で働いていたブリッグスには料理人の血が流れていると言ってもよいだろう。「僕はいつも台所でうろちょろしていましたし、高校生のときは調理実習が好きでした」と話す。とはいえ、彼はまっすぐ料理の道に進んだわけではない。1977年に高校を卒業すると、聖アンソニー病院で働き始めた。料理の仕事に就いたのは95年、レストラン「Spaghetti Warehouse」で働きはじめてからだ。

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Photo by Nathan Poppe
料理の仕事に就いたのは 95年にレストラン「Spaghetti Warehouse」が初めて。


「当時、この街には大した店もなかったからね。パブとレストランが一つずつ、あとはレストラン併設の醸造所くらいしかなかった」

シェルターがオープンした2011年から、ここで働いている。ちなみにフードライターの私が初めてブリッグスと会ったのは2015年3月のこと。このシェルターでは月に一回、地元の人気レストランから料理人を招いてランチの準備を手伝ってもらう「Turning the Table on Hunger」というプログラムを実施しており、その取材に伺ったときだ。

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Photo by Nathan Poppe
ブリッグスは2011年のシェルター開設時から働いている。きっかけは、姉が通っていた教会を通じて支援団体「Homeless Alliance」に紹介してくれたこと。


厨房マネジメントに大切な3つの哲学。「ウェルカム!」な雰囲気作りが僕の仕事

レストランで15年ほど働く中で、厨房のマネジメントを学んだ。「着実であること」「フェアであること」「一貫性を持つこと」― 彼は今でもこの3点を大切にしている。

「シェルターのせわしない厨房では、この3つのアプローチの大切さをかつてないほど噛みしめています」

「厨房で何が起きているかを見定め、スタッフに適切に指示する。ボランティアの人たちと連携をとりながら、納入品のチェック。自分で受け取りに行くこともあります」

とても笑ってる余裕などなさそうな環境だが、ブリッグスはいつでも笑顔を絶やさないし、まわりの人を笑わせようとしている。ここに来るお客は深刻な問題に直面している人たちばかり。それだけに、"歓迎ムード”をつくるのが自分の使命であると信じているのだ。

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Photo by Nathan Poppe
オクラホマシティにあるニックズダイナーにて行われたインタビュー。
フードライターのデイブ・キャシー(左)と終始笑いあうブリッグス。


「何かあったのか?ちょっと話してみなよ。ーそう声を掛けるのが僕の役目。ハグを必要としている人がいたら、僕がギュッと抱きしめてあげるよ」

しかし、そんなブリッグスも一線を引かなければならないこともある。シェルターは空腹な人たちでいっぱいなので、“お代わり”を求める人たちに応じるよりも、まずは全員に食べ物が行きわたるよう目を光らせなければならないからだ。「断る」というのは感情的には容易くないが、そんなときに本領を発揮するのが彼の3つの哲学なのだ。

朝・昼食を週5回、年に7,800人に10万5千食を提供。難しいこととは?

ブリッグスと彼の仲間たちは、朝食と昼食を1日平均350人に提供している。これを週に5回、1年に52週。去年は史上最多の7800名に計10万5千食を提供した。

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Photo by Nathan Poppe
昨年は史上最多の7800名に計10万5千食を提供した。


朝食は"シンプル” なメニューを日替わりで提供している。
・月曜
スターバックスから寄付されるサンドイッチ、オートミール、菓子パン

・火曜・水曜
フライドチキンのチェーン店「Raising Cane’s」から寄付されるパンとスクランブルエッグとソーセージグレービー(ホットビスケットにかけるソーセージの入ったソース)

・木曜
元アメフト選手スティーブ・ザベルとボランティアたちが、ホットケーキとソーセージを作ってくれる

・金曜
グリルチーズ、ハッシュドポテト、グレービー。

毎日コーヒーが足りないのが目下の悩みだ。
「業務用のコーヒーポットが欲しいです。小型のが2つあったのですが、取っ手が一つ壊れてしまって...」

昼食は、残りものと寄付を組み合わせてメニューを考える必要があるのでハードルが上がる。寄付された食材だけで食事をつくる、彼がどこまでやれるか創造性が試される。

「たくさん寄付いただけるのですが、どれも賞味期限ぎりぎりなので、とにかく早く使わないといけないんです。肉類は大体いつもあるのですが、それに合わせる付け合わせの野菜を用意するのがかなり大変です」

350人に食べてもらう付け合わせを用意するには、10人分用の缶詰が1ダース(約3kg相当)以上必要となる。「数日前にメニューを決められればいいのですが、その時間と、ちょうどいい寄付があるとは限りませんから」ブリッグスは言う。

まだメニューには取り入れられていないが、彼の家族が「豆チャウダー」と呼んでいた料理が得意だ。燻製ソーセージやひき肉、ハム、うずら豆、緑と赤のピーマン、タマネギに青唐辛子入りコーンブレッドやポテトを添える、とてもシンプルなレシピ。「おふくろの味」がベースの、彼にとっては特別の一品を、いつかシェルターのお客にもふるまいたいと思っている。

なぜ笑顔で料理を提供し続けるのか

ブリッグスがシェルターの厨房で働き始めて10年近く経つ。この仕事に情熱と使命感を持っており、午前3時に起床する毎日だ。その間、多くのお客が路上生活を脱出するところも見てきた。

とはいえ、ホームレス問題の根本解決にはまだほど遠い。これだけでは問題が解決することはないとは分かりつつも、「ホームレス」の人たちを助ける上で自分ができることをしっかりやっていきたいと思っている。

「私たちは "サービス業” として取り組んでいます。ちょっと違うところもありますが...」とブリッグスは言う。

シェルターで働いていると、お客たちは自分と何ら変わらない人だということを日々痛感させられる。彼らは居場所と食べものを求めてやって来る。ブリッグスと仲間たちは、にっこり笑って料理を提供する。

By Dave Cathey
Courtesy of The Curbside Chronicle / INSP.ngo


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