Ferdy Damman/EPA/ANP/AAP Photos
トゥレット症候群とは、神経学的または神経発達学的な疾患で、19世紀のフランスの医師ジル・ドゥ・ラ・トゥレットにちなんで名付けられた。その特徴は「チック」という、「本人の意思に関係なく突然起こる、小刻みな身体の動きや発声」にある。
フランスの医師ジル・ドゥ・ラ・トゥレットにちなんで名付けられた。
Eugène Pirou/Bibliothèque interuniversitaire de santé/Wikimedia, CC BY-SA
「前駆衝動」と呼ばれる前兆を伴うことが多い。かゆみを感じるときや、くしゃみが出そうな時のような感覚だ。そして次第に緊張が高まっていき、チックが起きることでその緊張感が和らぐ。チックが起きる前の感覚を認識できると、チックに対処する上で役に立つ。
子どもを中心に、多くの人に見られるのが単純チックだ。単純チックには運動チックと音声チックの2種類があり、トゥレット症の正式な定義では、「運動チックや音声チックが1年以上にわたってほぼ毎日起きること」とされている。
運動チック
– まばたきをする
– 顔をしかめる
– 頭や首を振る
– 口をゆがめる
– 肩をすくめる、又は体の一部がけいれんする

音声チック
– 咳払いをする
– 鼻をンンンと鳴らす
– 低いうなり声を上げる
– 甲高い奇声を発する
– 単語や音節の一部、または全体を繰り返す
重症になると、いくつかの動作が組み合わさった「複雑チック」の症状が見られる。ある方向に急に向きを変える、何かを決まった数だけ叩くなどだ。本人にとってはしっくりくるため、緊張を和らげるためにその動作をやり切る必要がある。
チックは小児期(小学校低学年くらい)に発症することが多いが、もっと大きくなってから発症する場合もある。症状が出ない時期が数週間〜数カ月続いた後に、再び発症することも多い。新学期の始まりや引っ越しなどストレスがかかるとチックが出やすくなるが、特段の理由もなく出やすくなることもある。チックを話題にしていると症状が出るという「被暗示性」もみられる。
無意識あるいは意識的に、チック症状をある程度抑制できる場合もある。同級生にからかわれるからと学校では症状がおさまっていても、家に帰ると激しくチック症状が出るなど。また、手がけいれんを起こしそうなときに、あごをかくなど別の動作で抑制できる場合もあり、これを対処法に取り込むことも考えられる。
治療方法
トゥレット症は本人の自尊心や日常生活に大きな支障を来さないかぎり、とくに介入の必要はない 。治療が必要かどうかの判断は、当事者がどれくらい悩まされているかだ。もし悩みが深そうであれば、完全に治療するのは難しいものの、チック症状について何ができるかを一緒に考えていくことになる。チック専用の治療プログラムもあるが、実施機関は少ない。重症者向けの薬もあるにはあるが、チックの抑制効果はあまり期待できず、副作用の心配もある。
ADHD(注意欠如・多動症)、OCD(強迫性障害)、不安症などの疾患を併発していることも多く、医師はそれら疾患への対処を優先させるだろう。不安症がチック症状を引き起こしている場合もあるため、心理学者であれば一般的な不安症へのアプローチをとるだろう。
偏見をなくすために
トゥレット症候群は遺伝的な要素が大きいとされ、引き起こしているのは1つの遺伝子ではなく、もっと複合的なものである。 本人や親がしたことや、妊娠中に何かがあったからではない。しかし、とっぴな行動で注目を浴びる場合もあるため、本人にはどうすることもできないのに恥ずかしい思いをさせられ、偏見を招きやすい疾患でもある。
対策としては、学校でトゥレット症候群について話す機会をつくるよう、保護者から働きかけることもできよう。トゥレット症候群とはどういう疾患で、なぜチック症状を止められないのかをクラスメートに説明することで、まわりの子どもたちが受け入れてくれることも多い。偏見をなくす上で大切なのは教育だ。オーストラリア・トゥレット症候群協会(Tourette Syndrome Association of Australia)では、多数の情報を提供している。
著者
Daryl Efron
Associate Professor, department of paediatrics, The University of Melbourne
※本記事は『The Conversation』掲載記事(2023年2月23日)を著者の承諾のもとに翻訳・転載しています。
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