2020年2月27日の突然の全国一斉休校要請から3カ月が経ち、多くの学校が6月より授業再開となる見込みだ。しかしこの決定についても、さまざまな不安の声が渦巻いている。学校側は、子どもたちとその家族を心理的・社会的に支えつつ、学習面の支援を行っていかなければならない。カナダ・マギル大学の准教授で「子どもと家族の研究センター」代表を務めるデルフィン・コリン・ヴェツィーナが、ケベック州の小学校再開*にあたり提言した「学校側が考慮すべきこと」を紹介したい。


*州内のほぼ全域の小学校が5月11日から、感染者数が多かったグレーター・モントリオール地域の小学校は5月19日から再開となった。

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家庭に問題を抱えている子どもにとって学校は「セーフティーネット」

新型コロナウイルス感染症拡大を防ぐため、世界人口の約半数にあたる39億人以上が家に閉じ込められ、世界各地で「休校」の措置が取られた。公衆衛生の観点からは致し方ない対処法で、誰もが応じなければならなかったわけだが、忘れてはならないことがある。社会的・経済的困難に直面している子ども、虐待を受けるリスクのある子どもなど “脆弱な子どもたち” にとって、学校の閉鎖はさまざまなリスクをもたらしかねないということを。

新型コロナウイルス感染症の影響を分析したユニセフ(国連児童基金)も、児童虐待や暴力被害のリスクの高まりを指摘。障害のある子どもや困窮家庭の子どもなど、さまざまな困難を抱える子どもたちは、こういった影響をより受けやすいとも述べている。

「学校が休校し、社会サービスが中断され、人々の移動が制限されると、子どもたちへの搾取・暴力・虐待のリスクが高まることは過去の事例から分かっています」

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長期の休校は弱い立場にある子どもたちの意欲や学習に甚大な影響を及ぼしかねない/Shutterstock

実際にこうした影響は、公衆衛生上の危機や自然災害が発生した時に確認されている。その背景として、非常時には保護者たちの不安感が高まり、アルコールの過剰摂取につながりやすいこと。また、社会サービスの一環で提供されていた支援がストップし、つながりや居場所を失うことがある。米国では、3月末までに「全国性的暴行ホットライン(The National Sexual Assault Hotline)」に寄せられた電話相談が22%増加、うち半数は未成年者からだったという。

これとは逆にパンデミック以降、児童相談所に通報された虐待件数は、ケベック州でも米国の一部の州でも、減少傾向にある。この要因としては、子どもたちが家族以外の大人との接点を失ったことが考えられる。

平時は学校の教職員たちは、子どもたちが元気に過ごしているかどうかに目を配り、疑わしい状況があれば関係機関に報告する役目を果たしている。オンタリオ州の最新分析では、児童相談所への通報の3分の1は教職員から寄せられたもので、最も多かったのが「身体的虐待の疑い」だった。

困難な生活を送る子どもたちにとって、学校は大切な「セーフティーネット」であり、しなやかに生きる強さを育んでくれる場所でもある。そうした子どもたちの成長を支えるため、近年では学校主導の活動も増えている。すべての子どもたちにとって、学校が安全で落ち着ける「サンクチュアリ(安らぎの場所)」になることを目指して。

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長期休校により児童福祉サービスは家庭内の状況を把握しにくくなっている。モントリオールの小学校内の様子(2020年4月16日撮影) Thom Bridge/Independent Record via AP

子どもたちを再び迎え入れるにあたって

教師は子どもたちを再び迎え入れる。数ヶ月に及んだ休校が、子どもたちのやる気、成長、学びに壊滅的な影響をもたらしているかもしれない。なかには、ロックダウン前とは表情や様子が違う子もいるかもしれない。以前よりも教師からの慰め、指導、関わり合いを必要としているかもしれない。

虐待や暴力を受けやすい環境に置かれていた子どももいれば、大きな孤立感に苛まれてきた子どももいるかもしれない。ひどい扱いを受けて育つ子どもたちは、成績も振るわない傾向にある。学校側はこれまで以上に、子どもたちの「感情」を中心に据えた意思決定をしていく必要がある。

学校側の対応において4つの優先課題を提案したい。

1. 全く新しい先生に教わる状況を極力避ける

学校再開にあたり、ケベック州の教育省は1クラスの生徒数を最大15人までとするようにとの指示が出されている*。となると、これまでとは違う先生に教わる生徒も出てくることになる。トラウマ経験のある子どもにとって、他者と信頼関係を築くのはなかなか難しいことなので、クラス分けや教員の追加採用に際し、教育実習や代講を通じてこれまでに生徒と関わりがあった教員を優先してあてがうことが望ましい。もし新しい教員を雇うしかない場合は、すでに生徒たちのことを知っている既存の教職員とペアを組むなどもよいだろう。

*May opening of elementary schools, daycares 'a necessary decision,' says Quebec education minister

2. 登校しない生徒の状況を把握する

5月に学校再開となったケベック州では、当月の登校は必須ではなく「親が選択できる」ものとされた。しかし、「登校しない」と判断した家庭の子どもたちについても、学校の教職員が連絡を取り、様子を確認しつつ適宜サポートするべきである。

担任の教員に多大な負担とプレッシャーがかかりかねないことを考慮し、第二外国語や体育の教師などその生徒のことを知っている他の教師たちにもこの取り組みに関わってもらうのがよいだろう。

3. 学力維持だけでなくこころの健康にもフォーカスした計画を

子どもたちの学力や社会性の維持だけでなく、パンデミック以前から問題を抱えていた子どもたちのこころの健康にも配慮して、明確な計画を立てること。もともとキャッチアップが難しかった生徒がこれ以上遅れないためにも、計画することが大事だ。

特別教育の専門家や心理カウンセラーなどの人材を置き、困難な状況にある生徒たちを支援する体制を整える必要もあるだろう。

4. 学校と地域が協力して、皆の声をすくい上げていく仕組みづくりを

困難な状況にある子どもたちとその家族のニーズに応えていくには、学校だけでなく、社会や地域が協力し、一丸となって対応していく必要がある。

校長が地域の諸団体との連携を図り、利用できる資源をとりまとめ、そうした情報を必要な家庭に共有していくなどもよいだろう。献身的で情熱がある有能な教職員の視点を積極的に取り入れるとともに、生徒会やPTAをも巻き込み、皆の声をすくい上げ、誰もが参加意識を持てるような仕組みがあるとよいだろう。

このパンデミック危機は長期戦になりそうなことはすでに分かっている。事態が手遅れになる前に、今すぐ行動に移していこう。

※ こちらは『The Conversation』の元記事(2020年5月5日掲載)を著者の承諾のもとに翻訳・転載しています。 著者

Delphine Collin-Vézina
Associate Professor, Director of the Centre for Research on Children and Families, McGill University Tristan Milot
Professor, Département de psychoéducation, Université du Québec à Trois-Rivières (UQTR)
The Conversation

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