フードロス問題から子どもの貧困問題の解決へと活動の幅を広げてきたフードバンク山梨(山梨県南アルプス市)。食料支援の利用者が置かれている現状や新型コロナウイルスの影響、全国のフードバンクをネットワークで結び、組織基盤強化のノウハウを共有する取り組みについて聞いた。 


3割、乳幼児期から困窮 
年間5000件、130tの食料支援 

 「認定NPO法人フードバンク山梨」理事長の米山けい子さんは、もともと生活協同組合の理事をしていたが、退任後、地域で何か社会貢献活動ができたらと考え2008年にフードバンクを始めた。

  「まだ食べられる食品が廃棄されCO₂も排出しているというフードロスの問題をテレビで知って、その解決の一助になればと、『フードバンク山梨』を立ち上げました」

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企業や家庭から寄付された食品を必要なところへ配布 

 ところが、いざ活動を始めてみると、たとえば「明日の食パンを買うお金がないので助けてほしい」「赤ちゃんのミルクが買えず、薄めて飲ませている」「赤ちゃんにミルクをあげられず、麦茶を飲ませている」など、切実な声が次々と寄せられた。

利用者へのアンケートでは、3割の人が「子どもが乳幼児期から困窮していた」と回答。さらに学校の先生からは、「夏休みに、生徒が『何か食べるものない?』と訪ねてきたんです」という相談の電話までかかってきた。

  「日本人には “恥の文化”があって困っていることが言えずSOSを出せないのか、貧困、中でも子どもの貧困は外から見えにくくなっています。教育委員会の調査では、山梨県でも児童・生徒の約10人に1人が貧困に苦しんでいることが明らかになりました」

  「フードバンク山梨」は企業から商品の包装に印字ミスがあるもの、規格外、余剰在庫などで販売できない食品や家庭にある余剰の食品を寄付してもらい、児童養護施設や障がい者施設、子ども食堂などに提供。さらに、県内の8市町と連携して困窮している約170世帯に月2回、食品を届ける「食のセーフティネット事業」を行っている。

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さらに、就学援助受給世帯を対象に、夏休みと冬休みの間支援する「フードバンク子ども支援プロジェクト」、ミルクやおむつを配布する「乳幼児応援プロジェクト」、毎週土日の学習支援など、年間5000件、計130tにおよぶ幅広い活動を展開している。 

2年の組織強化で寄付金9倍
ボランティア登録は倍になった

 「今では、食品を持ち寄るフードドライブ(※)に、県内27校の生徒や保護者、お寺や教会などが協力してくれるようになり、賞味期限のチェックや学習支援などには年間のべ1500人のボランティアさんがかかわっています。夏休みと冬休みには、高校の体育館で200人の生徒さんたちが600世帯分の箱詰めを手伝ってくれます」

※ 家庭で余っている食べ物を学校や職場などに持ち寄ったりし、個人がフードバンクなどに寄付する活動  

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クリスマスに合わせ、約1370人の子どもたちに食品とプレゼントを発送(2019年)


 そう笑顔で話す米山さんだが、実は「生活困窮者自立支援法」が成立した13年、団体はピンチを迎えていた。

「同法の15年からの施行に伴い、山梨県生活困窮者支援対策事業(絆再生事業)の補助金2000万円が14年4月からなくなることが決まり、年間350万円しかない寄付金を増やすなどしていかなければ、同様の活動が続けていけなくなりました」

 そこで、Panasonic NPOサポート ファンドに応募した米山さんらは、14年から組織基盤強化に取り組むこととなった。「まず組織診断を受けたことで、倉庫を確保する資金の不足、不安定な職員の雇用、フードバンクを推進する法整備の遅れといった課題が見えてきました」

 助成1年目はクレジットカードで寄付ができる体制を整え、クラウドファンディングにも初挑戦。「参加した25団体の中で最も多い額の寄付をいただきました」

 2年目の15年は、外部講師を招いたファンドレイジングとマネジメントの研修に職員全員が参加。また、ボランティア交流会を開催したことで横のつながりが生まれ、ボランティアの新規登録者数は2倍に増えたという。

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食料支援の箱詰め作業には学生や企業、一般から多くのボランティアが参加 

 ファンドレイジングにも力を入れた。「企業を1社1社訪問して、食品提供や寄付をお願いしました。その甲斐あって、JAさんからは、倉庫や作業スペースとして使える空き店舗を格安で貸していただけることになりました。既存倉庫の5倍以上の広さですが、フォークリフトの導入によって作業効率は格段に向上しました。駅前で横断幕を持って子どもたちへの寄付を呼びかけたり、フードドライブの出発式を行ったり、活動にイベント要素を加えたことで、メディアに取り上げられる回数も増えました」

 2年の助成を経て、350万円だった寄付・会費収入は14年度には3倍近い1017万円、15年度には9倍の3161万円まで増加。19年度には5300万円を超えたという。

  「研修を受けたことで、一人ひとりが自分の仕事をマネジメントし、PDCAサイクルを意識する習慣が定着して、業務効率が上がりました。次の世代へ組織をつなげるためにも、中間管理職の育成をこれからも続けていきたいと思います」 

新型コロナで増える困窮世帯
のべ1500世帯を支援

 現在「全国フードバンク推進協議会」の代表理事も務める米山さん。

  「協議会には、貧困問題や子どもの支援にかかわっているフードバンク38団体が加盟しています。組織基盤強化の助成によって、『フードバンク山梨』は活動に必要な十分な資金や人材、倉庫を確保することができました。このノウハウを他のフードバンクと共有していきたいと思っています」

 協議会では、全国のフードバンクに力をつけるため、昨年10月に施行された「食品ロス削減推進法」の基本方針に「フードバンクの基盤強化の支援」も盛り込んでほしいという要望を政府に提出している。こうした政策提言を今後も行っていきたいと米山さんは話す。

 さらに、今年3月からは新たに、新型コロナウイルスの影響で生活が困窮している、のべ1500世帯を支援している。

「収入が半減し、子ども二人をどう育てていくか悩んでいる時に食料が届いて涙が出た」「今日の米もなく、朝昼と何も食べていない」「生後8ヵ月の子どもを一人で育てているが、面接で20社から落とされ、仕事がない」など、利用者アンケートには厳しい暮らしぶりが綴られているという。

  「車で取りに来られる一部の方には、ドライブスルーのような形で食料を渡していますが、その他の方には宅配便で届けています。その分料金がかさみ、5月から寄付を募っています」

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米山けい子さん

 米山さんの目標は「山梨県全域の困っている子どもたちを支援すること」。そのために、まだ連携できていない自治体に手紙を書き送っている。そして、「私たちの活動がモデルとなって、全国のフードバンクの組織基盤が強化され、大変な状況にある家庭の隅々まで支援が行き渡れば、うれしいです」。  



認定NPO法人 フードバンク山梨

2008年10月に設立。山梨県における食のセーフティネットを支えるフードバンクシステムを構築し、市民・企業・行政・福祉施設と協働し、食べ物が無駄なく消費され、誰もが食を分かち合える心豊かな社会づくりを目指している。
◆ 子どもたちへの支援を早急に実施するため、新型コロナウイルス感染症 緊急寄付活動を行っています。くわしくはホームページまたはTEL055-298-4844まで。 
https://fbyamana.fbmatch.net/




Panasonic NPO/NGO サポートファンド for SDGs 2020年募集

社会課題の解決に取り組む市民活動が持続的に発展していくためには、NPO/NGOの組織基盤強化が必要との考えのもと、2001 年にパナソニック株式会社が創設。NPO/NGOの事業活動への助成ではなく、組織基盤強化への助成にしぼった珍しい助成プログラムである。 2018年からはプログラム名を新たに、助成テーマを刷新し、パナソニック企業市民活動の重点テーマである「共生社会の実現に向けた『貧困の解消』」に取り組むNPO/NGOの組織基盤強化に助成している。

受付期間: 2020年7月16日(木) ~7月31日(金)必着
助成テーマ :「貧困の解消」に向けて取り組むNPO/NGOの組織基盤の強化
詳細はホームページをご覧ください

※上記記事は2020年6月15日発売の『ビッグイシュー日本版』385号からの転載です。







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ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

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