米国の警官による黒人への残忍ぶりに注目が集まるなか、その原因を警察組織内の人種構成に求める見方が広がっている。ミシガン州立大学刑事司法研究科の准教授ジェニファー・コビーナが解説する。


警察官にもっと多様な人種を採用すれば、問題になっているような「有色人種への暴力行為」を減らせるのではないか、そう考える人も多い。しかし筆者のこれまでの研究では、警察官の人種を多様化しても問題解決にはならないことが示唆されている。

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Alicia Zinn/Pixabay

調査では、警官による黒人の死亡事件が起きたファーガソン(ミズーリ−州)とボルティモア(メリーランド州)にて、約200名の抗議参加者らにインタビューを行った*1。そこで繰り返し耳にしたのは、「有色人種の警官を増やすだけでは不十分」という意見だった。それよりも、「社会の構造的格差」や「警察組織の体質」が、警察と地域住民との信頼関係を壊してしまっていることが問題だとの声が強かった。

*1 2014年8月9日マイケル・ブラウン射殺事件(ファーガソン)と2015年警察官に拘束された青年フレディ・グレイの死亡事件(ボルティモア)。

往々にして、警察は住民らの協力なしには事件を解決することができない。そのため、住民が警察に対して不信感を募らせると両者の関係性にひずみが生じる(逆に、住民が警察を好意的に見ている場合は協力関係がつくりやすくなる)。

警官の73%が白人という実態と警察組織の「体質」

警察官の人種の多様性は、長きにわたり問題視されてきた点である。

米国の正規警察官の数は70万1千人*2。うち「非白人*3」はわずか27%だ。1987年の14%と比べると、この30年でほぼ倍増したことにはなるが、全米人口の約40%が「非白人」であることを踏まえると、まだまだ十分ではない。

*2 現在入手できる最新データ2016年度版を参照 
*3 黒人、ヒスパニック、その他を含む。


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Photo by Troy Spoelma on Unsplash 

また、小規模な警察署ほど多様性に欠ける傾向がある。人口100万人以上の街における大規模な警察署では白人警官が占める割合は約50%であるのに対し、人口1万人未満の地域となると白人警官が87%を占める。

筆者が実施した先述のインタビューでは、対象者の約4分の1が「黒人警官は白人警官よりも正当に権力を行使し、礼儀正しく、敬意を持って住民に接していると思う」と回答。しかし、実際に黒人警官と接した経験があると答えた人たちに聞くと、同じく約4分の1の人が「非白人の警官も黒人に攻撃的であると思う」と回答した。

「警察組織内の体質」については、たびたび指摘されるところだ。

新人警官は、他の警官たちのやり方を見て仕事を覚え、それらを“自分のもの” として実践していく。組織内に浸透している慣習に従わねばというプレッシャーが強く働く中で、行動がかたちづくられ、一般市民への扱いを判断していく。

非白人の警官であっても、この流れからは逃れられない。職場に馴染み、キャリアアップしていくためにも、より強く義務感を抱くことも考えられる。

マイノリティの警官採用を強化するだけでは暴力的な取り締まりの問題解決にならないと示唆する研究も増えてきているため、今後は「白人警官 VS 黒人市民」の構図に凝り固まらず、もっとオープンな視点でこの問題を見ていく必要がある。

警察官の“無自覚の偏見”をなくす研修に力を入れる動きも

警察による行き過ぎた暴力行為を長期的に解決していくには、社会的弱者たちの生活事情に寄り添っていく必要があろう。米国の黒人たちの生活環境は、格差や失業、貧困が広がる地域に偏っており、公共サービスも不十分である。いわゆる、犯罪多発地域とされるところだ。

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F. Muhammad/Pixabay

この事実は、低所得地域にて警察が何をどう取り締まるかということにも影響を与えている。軽微な犯罪を取り締まることで凶悪犯罪を抑止できるとする「割れ窓理論」に基づき、積極的な取り締まりが推進されてきた。ビル・デブラシオNY市長などは、この「割れ窓理論」の推進者だが、そうした施策により地域住民と警察との間に不信感や敵意が生まれたと反論する者たちもいる。

警察による暴力行為を減少させる上で効果があるのは、都市犯罪の根底にある「構造的な格差問題」に取り組むことだろう。しかし、教育や経済の格差問題を解消するには、多大なる努力と長い時間が必要である。それまでの間は、米国の刑事司法制度における人種的不公平の歴史に向き合い、警察側が市民の信頼を再構築していくべき、と一部の専門家らは強調する。

警察でも、組織内の人種差別に対処する方策として、“無自覚の偏見” をなくす訓練の導入が進んでいる*4。アラバマ州バーミンガムなどでは、地域のマイノリティ住民との関係“再”構築を目指した取り組みも進められている。具体的には、警察官と住民らが率直に対話し、緊迫関係や不満、誤解を解いていこうというのだ。

*4 参照:「車の衝突事故現場。スーツ姿でBMWを運転していた男性と、汚れたジーンズで軽トラックを運転していた男性がいる。どちらの言い分をより信じるか?」といったシンプルな質問を警察官らに考えさせ、暗黙の偏見への気付きとそれらを拭い去るサポートを行う。研修専門企業「Fair and Impartial Policing」と契約する警察署が増えている。NY警察では18年度450万ドルの予算をあてた。
Can implicit bias training help cops overcome racism?


警察側が態度を改め、より良い行動に向けて誠実に努力する。そうすることで、地域住民らと一致点を見出し、「暴力犯罪の減少」という共通目標に向けて双方が協力し合えるのではないだろうか。警察と住民との関係性をより良いものにし、信頼を再構築していけるような試みがいっそう求められている。

By Jennifer Cobbina
Courtesy of The Conversation / INSP.ngo

筆者の著書『Hands Up, Don’t Shoot(未邦訳)』


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