原子力規制委員会は5月13日、日本原燃の六ヶ所再処理工場(青森県)が規制基準に適合していると認めた。同工場は、使用済み核燃料からプルトニウムを取り出すための施設で、竣工までにはまだ時間がかかるが事実上のゴーサインだ。この審査には6年以上も要した。続いて、追加安全対策工事の許認可申請が必要だが、申請書類(それも最初の1/4部分のみ)の提出は今秋になると報道は伝えている。時間がかかるのは、日本原燃の技術能力の欠如が大きい。 







核燃料を扱う施設なのに   現在、熟練技術者が不在 

同工場は1993年に建設着工。2006年から使用済み核燃料を使ったアクティブ試験に入ったが、08年に国産技術で開発したガラス固化施設のトラブルで停止し、今日に至る。これ以外はフランスのアレバ社(当時)から基本設計などを輸入したもので、試験当時はフランスの技術者が滞在してオペレーションなどを指導したが、長期にわたる運転停止で、現在、自前の技術者は不在。設計・設備など工場の全体を知る人間もいない。技術者をフランスへ研修に出しているというが、こんな状態で運転を強行すれば、重大事故が起きないかと心配だ。

福島第一原発の事故は自然現象によってもたらされた。地震大国、火山大国でもある日本で災害が起こり、複数の設備が同時にダウンした場合の対応が再処理工場で十分に準備されているとは言いがたい。一例として、火山灰については審査の結果、55cmも積もることを想定。外部電力が完全に断たれ、火山灰が積もる中、現場では人間が除灰や清掃、フィルター交換などを実施して、電源や水・空気の確保を維持するという。だから、タンクの放射性廃液の沸騰による放射能の放出や、水素爆発などは起きないとしている。そんな状況できちんと作業ができるのか不明だが、そんなことも審査されていないのが実態だ。 



MOX燃料1トンに33億円経済的にも成り立たない 

 環境影響も大きな問題の一つだ。同工場からは、ケタ違いの放射性物質が大気や海などの環境に放散される。たとえば、福島第一原発の汚染水の海洋放出では放射性トリチウムが860兆ベクレルも含まれることが問題となっているが、六ヶ所再処理工場の年間放出管理目標はなんと9700兆ベクレルだ。さらに、セシウム、ヨウ素、プルトニウムといった放射性物質も放出される。

 原発では敷地境界(排水口)での放出基準が定められているが、再処理工場はこの基準がほぼクリアできないので、これを放棄し、沖合3kmまでパイプを延ばして海中に捨てている。適合審査申請では年間の被曝線量が19マイクロシーベルトという計算結果を示しているが、工場は40年間動かす計画であり、その間、放射能は蓄積していくため単年度評価では安全は示せない。

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 再処理と燃料加工の総事業費は15.4兆円を算定。これだけの費用をかけて製造するプルトニウム燃料(MOX ※)はわずか4700トンである。再処理および燃料製造が公称通りに行なわれることを前提としているが、実に燃料1トンあたり約33億円の高値だ。ウラン燃料の30倍もの費用を払う事業が経済的に成立するはずがない。現在、日本のプルトニウム保有量は46トン(核兵器数千発分に相当)だが、これ以上増やさないよう製造量を減らせば、さらに製造単価は高くなる。また、後に残る使用済みMOXはいっそう厄介で、後の世代に甚大な負担を強いることになる。とんでもない事業の見直しが必要だ。

  ※ 原子炉の使用済み核燃料からプルトニウムを取り出し、ウランなどと混ぜて作る核燃料 
(伴 英幸)


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(2020年7月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 386号より)

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伴 英幸(ばん・ひでゆき)

1951年、三重県生まれ。原子力資料情報室共同代表・事務局長。79年のスリーマイル島原発事故をきっかけとして、脱原発の市民運動などにかかわる。89年脱原発法制定運動の事務局を担当し、90年より原子力資料情報室のスタッフとなる。著書『原子力政策大綱批判』(七つ森書館、2006年)
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