ホームレス、公共の場にいるだけで犯罪?! 緊縮財政下の英国で起きているホームレスへの対応、その歴史と現状

ケン・ローチ監督の最新映画『わたしは、ダニエル・ブレイク』でも描かれている緊縮財政下の英国社会での社会的弱者に対する政府・自治体の冷やかな対応、そしてそれらに抵抗する動きについて、オープン大学(イギリスに本部を置く通信教育を行っている公立大学)の社会政策および犯罪学の講師ヴィクトリア・クーパーとダニエル・マカロックが調査・執筆した記事(2017年3月)をご紹介します。

緊縮財政を機に膨れ上がる路上生活者の数

2010年に緊縮財政が始まって以来、英国路上生活者の推定数は2倍以上に膨れ上がった。(2010年1,768人 → 2016年4,134人)。ホームレス状態の人々の数が増えているにも関わらず支援サービスやホステルは減少傾向にあるため、都市部では以前より路上生活者の姿を目にすることが増えた。

しかし英政府は、ホームレスの宿泊施設を確保するどころか、彼らを犯罪者とみなそうとしてきた。昔ながらの「浮浪者取締法」、近年施行された「公共空間保護命令(Public Spaces Protection Orders、以下PSPO)」など、新たな法律の制定、または古い法案を復活させるなどして、「住所不定の人々」を罰しようとしているのだ。

土地や物件を利用できない人々には、公共空間でうろつくこと、座ること、食べること、顔を洗うこと、眠る自由すらも与えられない。地方自治体がホームレスである人々に公共空間(ホームレス人のキャンプ、一時宿泊用シェルター、デイセンター等)の利用を合法的に許可しているところでも、刑事司法機関がこれらの施設を定期的に監視しているので、その利用者は常に監視・管理の下にある。

200年の歴史があるホームレスの犯罪者扱い

ホームレスを犯罪扱いする歴史は1824年までさかのぼることができる。当時、産業革命の真っただ中にあった英国では、広がる「都市の貧困」を抑えるべく「浮浪者取締法」が成立したのだ。この時期、大規模な土地私有化が進み、物件を購入する手段を失った何十万もの人々は自分の家を追い出され、自分たちが住んでいた土地に近づくことすら禁じられた。

契約関係のない土地に近づくことを犯罪とみなすこの「浮浪者取締法」により、警察は物件または土地に法的に住まう権利を持たない人々を逮捕できるようになったのだ。そうした人々は法律上、「救いがたい放浪者」「移動する異常者」とみなされ、むち打ち、投獄、時には流刑地(オーストラリアなど)へ送られるなどの刑が執行された。

それから約2世紀が経過した現代でも、この時代遅れの法律や横柄な考え方は健在だ。
英国内の浮浪者がらみの犯罪訴訟は、2006年の1,510件から2014年には2,365件と70%も増えた。なかでも注目すべきものに、3人の男がスーパーのゴミ箱から食品廃棄物を盗んだ罪で起訴寸前までになった件や、サセックス地域でのおとり捜査により市民から金銭を受け取った罪で60人の路上生活者が逮捕された件などがある。

英政府の近年の対応、地方への権限委譲がすすむ

これが歴代の英政府が行ってきたことなのだ。さらに、トニー・ブレアー政権下(1997年5月-2007年6月)では、「路上犯罪」をターゲットにした民事規則が導入された。その結果、物乞いが徹底的に取り締まられ、ホームレスコミュニティが一斉に処罰されることになった。2010年に誕生した英連立政権下でこの民事規則は修正され、より大きな権限を委譲された地方自治体が、公共空間における人々の行動を取り締まることが可能になった。

特に、2014年の「反社会行動、犯罪及び警備法」の下で導入されたPSPOでは、地方自治体が特定の行動に対し、「その場で」罰金を科せられるようになった。予想されたことだが、自治体はこの新たな権限を活用し、ホームレスの人々の公共空間における行動を制裁対象とすることで(路上飲酒、物乞い、公園での寝泊まり、排便・排尿、睡眠すらも)、より厳しく取り締まるようになった。

PSPO はホームレスを犯罪者扱いするだけでなく、これらの策を地域の問題に答えた自治体による対応と見せかける。そうすることで、通常は国の施策によって起きる世論の高まりや反対ムードを回避しようとしているのだ。実際は自治体が整備した制度ではない。しかし、このPSPOの適用は英国内で広がっており、現在では自治体の1割近くがこの法令を用いてホームレスの犯罪者扱いをすすめている。

その上、商業用地の個人所有者らも、店舗の出入り口を板でふさぐ、スパイク(ホームレス撃退用の犬くぎ)を設ける、「所有法」を振りかざすなどして、ホームレスを商業スペースから強制的に締め出そうとしている。

CONV_Britain dark history criminalising homeless
2013年1月、ホームレス問題についてダウニング・ストリート(英国首相の住まい前)での抗議
Credit: Flickr / David Holt

“ホームレス対策”への高まる抵抗ムード

こうした‟ホームレス対策“への抵抗運動も起きている。「リバティ」など団体が中心のもの、そして、マンチェスターでホームレス撃退用に設けられたスパイクにクッションをかぶせる行動を起こした家族など個人ベースのもの、どちらも自治体による制裁措置に果敢に挑む。こうした抵抗運動により、PSPOの撤回に至った地域もある。


若い活動家グループが、ロンドンの路上で、ホームレスの人が座り込めないようにつけられたスパイクにマットレスと本棚を取り付けて抗議する様子(ザ・ガーディアンWEBより)

緊縮財政下の英国では、このような抵抗運動の気運が高まっており、富、資産、土地の不平等な配分に対する批判が巻き起こっている。なかには、空き家をホームレスの人々に提供する運動もある。ホームレスの人々自身も、公共空間に存在する権利を求めて戦い、その日々を記録・発信している。

ホームレス状態はまだ犯罪とはみなされない。しかし、ホームレス状態の人々の自由を奪い、日常的な行動さえも処罰に値する罪とみなす法律や戦略が存在している。とはいえ、ホームレスの人々にとって、過酷な現実を生き延びるというのは日常のことだ。こうした新たな抑圧の中でも、日々の生活で遭遇する暴力や偏見を暴く新たな方法を見出すことだろう。

Courtesy of The Conversation / INSP.ngo

▼こちらもあわせて:関連記事